44 / 49
迷路の先
しおりを挟む引き続き四隅にあるスイッチを探す。
敵が出てこない分、罠に集中できるからすでに道順を知っている俺にとってはここだけヌルゲーである。
正直嫌と言えば嫌なんだが、剣の重みと扱い方にも慣れてきたな。
ゲーマーの性とでも言うか、武器が手に馴染むのだ。
『ディスティニー・カルマ・オンライン』というフルダイブ型のVRMMOは八十種類くらい職業を使い分けていたが、双剣スキルは使いやすくてハマっていたなぁ。
そういえば、あれのゲーム性をそのまま転用した自殺志願者支援用VRMMO『ザ・エンヴァースワールド・オンライン』のエージェント・プレイヤーにならないかって仕事の依頼が来ていたっけ。
自分は死ぬつもりがなかったから、興味ない、って返事をしたけど……やってみればよかったかもな。
「ほい、二つ目、と」
墨野や真嶋のカウンセリングまでやっていると、思うのだ。
ゲームの中に逃げ込むほどに生きることをどこかで諦めたくないと願う人間に寄り添ってこそ、プロゲーマーの本質なのではないか。
ゲームって、楽しいものだろう?
このクソゲーと名高い『おんきん』だって、俺は結局何周もして楽しく遊んだじゃないか。
「…………そうか、俺はいつの間にか、選り好みしていたんだな」
ゲームは楽しいものだ。
たとえクソゲー相手でも全力で向き合って楽しんでいたあの頃は、クソゲーの部分でも楽しめていたじゃないか。
いつの間にかプロになることだけを目標にゲームをしていたのか。
そりゃあ、いつまで経ってもセミプロから抜け出せないわけだ。
全力でゲームをしているプロに、勝てるわけがない。
今更こんな大切なことに気がつくなんて。
「こっちの世界にも、VRMMOはあるかな?」
高際には申し訳ないと思うが、モデルは辞めてゲーマーを目指したい。
今度こそ、俺は夢を叶えたい。
今なら——ゲームの世界にいる今の俺ならば、ゲームの中で全力で生きることを理解した今の俺なら上にいける気がする。
そのためには、まずは下へ向かわなければならない。
「三つ目、と。あれ、俺が三つ目のスイッチを入れたってことは……千代花ちゃん、迷子だな?」
四つ目のスイッチが入ったのであれば音が聞こえるはずなのだ。
まあ、俺が全部スイッチ入れれば問題ないだろう。
サクサク進み、最後のスイッチを見つける。
うーん、この……手分けした意味~。
ガコン。
四つ目のスイッチレバーを下ろすと、部屋中かま僅かに振動した。
これで俺がすべてのスイッチを下ろしたとみんなに伝わるだろう。
入り口に向かい、墨野と真嶋に合流する。
少し遅れて千代花が現れると、それはもう疲弊した表情だった。
お疲れ様でした。
「け、結局全部高際さんにやってもらってしまいました……!」
「気にしなくていいよ? 道順は覚えてるって言ったでしょ? むしろ千代花ちゃんには休んでてもらえばよかったね。次はいよいよラスボス戦だし」
「ラスボス……」
千代花が姿勢を正す。
墨野と真嶋も息を呑む。
「この先はどういう感じなんですか?」
「迷路を抜けると、パワードスーツの最後のパーツがある部屋に続くんだ。そこで普通に最後のパーツを手に入れ、ラスボス部屋を通って外へ出る。でも、最後に人間の軍隊が待ち構えていて俺たちを殺そうとしてくる」
「「「えええっ!?」」」
まあ、びっくりするよね。
ではここで改めて申し上げておこう。
『おわきん』はクソゲーである。
主人公サイドをどうやって殺してやろうか、殺意が高すぎるのだ。
「軍隊ってなんですか!? 最後は人間に襲われるってことですか!? 大丈夫なんでさか、それ!」
「じょ、冗談じゃねぇ! やっぱり今からでも地上に戻った方がいいんじゃねえか!?」
「真嶋は足に怪我してるんだぞ。今から地上まで歩かせたら悪化する。それとも真嶋を見捨てるつもりか?」
「ううっ」
真嶋を怪我してるからと見捨てるなら、墨野だって見捨てられる理由になる。
それをわかっているから、押し黙った。
保身だ。
まあ、今更だけれど。
「高際さん、軍隊っていうのは——」
「この組織が所有している私兵みたいだったな。パワードスーツを外に持ち出されるのが困るから、みたいな理由だったはずだ」
「どうやって戦えばいいのでしょうか……」
「俺が覚えてるのは、ラスボスを倒して攻略対象と外へ出た途端に撃たれるんだ。千代花がそれを庇うけれど、攻略対象は負傷する」
「っ」
ザワ、と千代花から薄寒い、張り詰めた気配が発せられる。
俺もゾッとしてしまった。
怒りの表情。
「ち、千代花ちゃん」
「っ! あ、す、すみません……でも、高際さんが怪我をするのかと思ったら——っ!」
え、あ。
俺が怪我をするから、それで怒ったの?
え、あ、あー、なるほど?
は? か、かわいい理由だな?
ヤバい、変なタイミングで照れてしまう。
「だ、大丈夫。タイミングも覚えてるから避けるよ」
「そ、そうですか?」
「そこは信じて。スイッチも全部俺が下ろしたでしょ?」
「うっ」
これはかなりの説得力があったらしい。
黙り込む千代花。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる