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迷路の先
しおりを挟む引き続き四隅にあるスイッチを探す。
敵が出てこない分、罠に集中できるからすでに道順を知っている俺にとってはここだけヌルゲーである。
正直嫌と言えば嫌なんだが、剣の重みと扱い方にも慣れてきたな。
ゲーマーの性とでも言うか、武器が手に馴染むのだ。
『ディスティニー・カルマ・オンライン』というフルダイブ型のVRMMOは八十種類くらい職業を使い分けていたが、双剣スキルは使いやすくてハマっていたなぁ。
そういえば、あれのゲーム性をそのまま転用した自殺志願者支援用VRMMO『ザ・エンヴァースワールド・オンライン』のエージェント・プレイヤーにならないかって仕事の依頼が来ていたっけ。
自分は死ぬつもりがなかったから、興味ない、って返事をしたけど……やってみればよかったかもな。
「ほい、二つ目、と」
墨野や真嶋のカウンセリングまでやっていると、思うのだ。
ゲームの中に逃げ込むほどに生きることをどこかで諦めたくないと願う人間に寄り添ってこそ、プロゲーマーの本質なのではないか。
ゲームって、楽しいものだろう?
このクソゲーと名高い『おんきん』だって、俺は結局何周もして楽しく遊んだじゃないか。
「…………そうか、俺はいつの間にか、選り好みしていたんだな」
ゲームは楽しいものだ。
たとえクソゲー相手でも全力で向き合って楽しんでいたあの頃は、クソゲーの部分でも楽しめていたじゃないか。
いつの間にかプロになることだけを目標にゲームをしていたのか。
そりゃあ、いつまで経ってもセミプロから抜け出せないわけだ。
全力でゲームをしているプロに、勝てるわけがない。
今更こんな大切なことに気がつくなんて。
「こっちの世界にも、VRMMOはあるかな?」
高際には申し訳ないと思うが、モデルは辞めてゲーマーを目指したい。
今度こそ、俺は夢を叶えたい。
今なら——ゲームの世界にいる今の俺ならば、ゲームの中で全力で生きることを理解した今の俺なら上にいける気がする。
そのためには、まずは下へ向かわなければならない。
「三つ目、と。あれ、俺が三つ目のスイッチを入れたってことは……千代花ちゃん、迷子だな?」
四つ目のスイッチが入ったのであれば音が聞こえるはずなのだ。
まあ、俺が全部スイッチ入れれば問題ないだろう。
サクサク進み、最後のスイッチを見つける。
うーん、この……手分けした意味~。
ガコン。
四つ目のスイッチレバーを下ろすと、部屋中かま僅かに振動した。
これで俺がすべてのスイッチを下ろしたとみんなに伝わるだろう。
入り口に向かい、墨野と真嶋に合流する。
少し遅れて千代花が現れると、それはもう疲弊した表情だった。
お疲れ様でした。
「け、結局全部高際さんにやってもらってしまいました……!」
「気にしなくていいよ? 道順は覚えてるって言ったでしょ? むしろ千代花ちゃんには休んでてもらえばよかったね。次はいよいよラスボス戦だし」
「ラスボス……」
千代花が姿勢を正す。
墨野と真嶋も息を呑む。
「この先はどういう感じなんですか?」
「迷路を抜けると、パワードスーツの最後のパーツがある部屋に続くんだ。そこで普通に最後のパーツを手に入れ、ラスボス部屋を通って外へ出る。でも、最後に人間の軍隊が待ち構えていて俺たちを殺そうとしてくる」
「「「えええっ!?」」」
まあ、びっくりするよね。
ではここで改めて申し上げておこう。
『おわきん』はクソゲーである。
主人公サイドをどうやって殺してやろうか、殺意が高すぎるのだ。
「軍隊ってなんですか!? 最後は人間に襲われるってことですか!? 大丈夫なんでさか、それ!」
「じょ、冗談じゃねぇ! やっぱり今からでも地上に戻った方がいいんじゃねえか!?」
「真嶋は足に怪我してるんだぞ。今から地上まで歩かせたら悪化する。それとも真嶋を見捨てるつもりか?」
「ううっ」
真嶋を怪我してるからと見捨てるなら、墨野だって見捨てられる理由になる。
それをわかっているから、押し黙った。
保身だ。
まあ、今更だけれど。
「高際さん、軍隊っていうのは——」
「この組織が所有している私兵みたいだったな。パワードスーツを外に持ち出されるのが困るから、みたいな理由だったはずだ」
「どうやって戦えばいいのでしょうか……」
「俺が覚えてるのは、ラスボスを倒して攻略対象と外へ出た途端に撃たれるんだ。千代花がそれを庇うけれど、攻略対象は負傷する」
「っ」
ザワ、と千代花から薄寒い、張り詰めた気配が発せられる。
俺もゾッとしてしまった。
怒りの表情。
「ち、千代花ちゃん」
「っ! あ、す、すみません……でも、高際さんが怪我をするのかと思ったら——っ!」
え、あ。
俺が怪我をするから、それで怒ったの?
え、あ、あー、なるほど?
は? か、かわいい理由だな?
ヤバい、変なタイミングで照れてしまう。
「だ、大丈夫。タイミングも覚えてるから避けるよ」
「そ、そうですか?」
「そこは信じて。スイッチも全部俺が下ろしたでしょ?」
「うっ」
これはかなりの説得力があったらしい。
黙り込む千代花。
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