37 / 49
接触者
しおりを挟む「高際さん」
「うん?」
「私、もう少しゾンビを狩ってきてもいいですか? 物足りないので」
「——え?」
物足りない?
物足りないって言った?
振り返ると千代花は笑みを浮かべていた。
俺がなにか言う前にバリケードの向こう側から立ち去り、走り去る足音がする。
足元からゾワゾワと冷たいものが這い上がってくるようだった。
顎に触れた指先が氷のように冷たくて、自分の手を自分で握る。
パワードスーツの影響、だったっけ、あれ。
すべてのパワードスーツパーツを手に入れたら、千代花は敵なしになるだろう。
けれど、さっきのような戦闘狂のような様子が増える。
あのパワードスーツには、人を好戦的にするらしいのだ。
ゲーム中もそうして攻略対象たちと溝ができ、怯えながらも支えてもらい絆を深め合う。
けど、いざ自分がその好戦的になった千代花と向き合うとなるとやはり恐怖を覚える。
ゾンビの頭を一撃でかち割るのだ。
その力がこちらに向けられたならば当然、トマトでも潰すように生身の人間も潰される。
いっそあの様子ならば、この階にいるゾンビは任せて大丈夫と思うことにでもするか。
溜息を吐いてから改めて墨野と真嶋を起こしにかかる。
とはいえ、バリケードを外さなければならないから、起きるのはゆっくりで構わない。
***
地下三階を探索し、水と食料を得た俺たちはいよいよ地下四階に下った。
最初の一部屋にバリケードを作り、引きこもる。
「では、ゾンビたちを殲滅してきます」
「くれぐれも気をつけてね。この階には千代花ちゃんのパワードスーツのパーツもあったはずだから、その部屋には強い敵もいるよ」
「はい、頑張ります」
いや、頑張るのではなく気をつけてほしいんだけど。
謎にウキウキして走り去る千代花ちゃんに薄寒いものを感じつつ、墨野と真嶋の怪我に傷薬をかけて布を巻き直す。
包帯なんて贅沢なことは言わないから、清潔なタオルでもありゃいいんだけど……それも贅沢品だよな。
「真嶋は少し熱っぽいな。横になってまた寝ておけ」
「す、すみません」
「な、なぁ、俺と真嶋はお前と千代花が地下五階までクリアリングしてから移動した方がよくないか? ゾンビは新しく湧いたりしないんだろう?」
「外へ出る時は一緒の方がいい。ゲームをクリアした時や、映画のラストの定番展開って言えばわかるだろ?」
「定番展開?」
「爆発だよ爆発。証拠隠滅」
「げっ」
「だから出る時は全員一緒の方が安全だ。そしてそのためには少しずつでも進む方がいいと思う。瓦礫に押し潰されて死にたくないだろう?」
と、言うと墨野はむむむ、と顔に皺を寄せる。
俺としても真嶋が足を怪我していることを考えて、あまり動かしたくはないのだ。
だが、『おわきん』のラストは脱出&爆発。
海外映画のお約束的な展開になる。
「ク、クソ……もう嫌だぜ……! なんで俺たちがこんな目に遭わなきゃいけないんだっ」
「墨野、お前ももう少し寝てろ。お前も少し体が熱いぞ」
「っううう……」
怪我で気が弱くなってるんだろう。
疲れも溜まっているし、気を遣ってはいるが緊張続きでそろそろ限界が近いはずだ。
「あ、あの」
「!」
俺たち以外の第三者の声に、鉄パイプを握りしめて振り返る。
バリケードの外、廊下に白衣の男が立っていた。
青白い顔で、目元は窪み、唇はひび割れている。
コイツは——!
「な、何者だ?」
「君たち、地上から来た人、だろう? よく無事だったものだ。なあ、入れてくれ。ゾンビがあっちこっちにいて、このままじゃ食われてしまうっ」
本気で怯えたような声と態度。
バリケードに使っている椅子やテーブルの脚を掴み、ガタガタと揺らされてブワッと冷や汗が出た。
「お、おい、やめろ。ゾンビが来るっ。そもそもあんたは何者だ。敵かもわからないやつを、バリケードの中に入れられるわけがないだろう」
「俺はここの研究者だよっ。研究中のゾンビを逃して、追われてるんだ! 頼むよ、助けてくれ」
研究中のゾンビを逃した?
それを理由に追われてる?
色々気になること言ってんなぁ。
ゲーム中では研究者に誑かされて裏切る攻略対象たちだが、具体的には「安全な逃げ道を教えるから」という条件で千代花を殺そうとする敵のところに連れていく、的なのが多かった。
千代花を裏切るのは死亡フラグでしかないから、もちろんありえない。
しかし、せっかく向こうから接触してきてくれたのだから、もう少し情報を引き出してやるか。
「ゾンビを研究していたのか、この施設」
「そうだ。なあ、早くここを開けて入れてくれよっ」
「いやいや、ふざけるなよ。その程度で信じられるわけないだろう。地上がどうなってるか知ってるのか? ゾンビが溢れて、キャンプ場の客は俺たち以外の全滅したんだぞ。お前がゾンビを逃したのが原因なら、上の惨劇はお前のせいじゃないか」
「そ、それは……でも仕方なかったんだよ。俺は上に言われたことをしてるだけの、下っ端なんだ。自分の研究もさせてもらえない。だから、その……自分でゾンビを研究して、結果を出そうと思って……それでうっかり」
「うっかりでキャンプ場の人間を皆殺しにしたのか? それになにも思わないのか?」
「うう、わ、悪いとは思ってるよ」
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】
リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。
これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。
※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。
※同性愛表現があります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。


転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる