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見捨てない選択
しおりを挟む「高際さん?」
「! 今の声は……真嶋か?」
「やっぱり! 今の悲鳴は高際さん! ああ、千代花さんも! 迎えにきてくれたんですねー!」
扉のない部屋の中からひょっこりと真嶋が現れた。
見たところ怪我はなさそうだ。
無事か。
ひとまず安堵するが、真嶋の表情が突然曇る。
「ほ、ホントによかった……僕一人じゃどうすることもできなくて、ホントに……っ、よ、よかった」
「真嶋、墨野は?」
死んだか?
『おわきん』は攻略対象がよく死ぬゲームだ。
でも、一応墨野と真嶋には無理しないように言っておいた。
墨野の姑息さ……じゃなくて、生への執着を思い返すと、簡単に死ぬとは思えない。
真嶋は墨野のことを聞かれると、半笑いになりながら出てきた部屋を指差す。
嫌な予感がしながらも、部屋を覗いてみると、墨野が布で自分の太腿を縛っているところだった。
布には血がついている。
「怪我したのか?」
「うっ、あ、た、高際、千代花……あ、ああ……膝の上を、切っちまった。聞いてくれよ……! 武器を持ったゾンビが出たんだ!」
「武器を持ったゾンビ!?」
やはり、中盤以降に出てくる敵がもう出現し始めている……!
俺がストーリーに干渉したせいか?
千代花のフルアーマーも急いだ方がいいのか?
消防士の墨野の応急処置は完璧で、俺が口出しする必要もない。
問題は墨野の精神面。
「それは、この建物内に出たのか?」
「い、いや、建物の周りにいて、慌てて上のドアから室内に入ったんだ。そしたら追ってこなくて……」
「どうしましょう、高際さん。そろそろ陽が落ちる時間になります。ここからコテージまで、怪我をしている墨野さんを庇いながら未知の敵が出るかもしれない夜間を歩くのは……!」
「ああ、危険だな」
千代花だけでなく、墨野をフォローする俺と真嶋の精神負担がヤバいって。
しかも墨野が怪我しているのは右足の膝上。
移動速度の遅れを考慮すると、コテージに着く頃にはとっぷり夜が更けてしまうだろう。
止血が完了するまでは動かさない方がいいしな。
俺と千代花が見てない新種のゾンビが現れたとなると、そんな状況で夜活発化する敵を避けながらコテージに戻るのは……決死の覚悟が必要。
それならまだ、この建物内に留まって朝を待つ方が確実性が高い。
窓だった場所はシャッターが閉じ、入り口も室内のテーブルや椅子を使えば籠城も可能。
明日の朝、マネージャーが警察なり自衛隊に通報して連れてきてくれるはずだし、食糧も頼んであるから届けてくれると思う。
それまでここで大人しくしていた方が、生存率は上がる……はず。
「テーブルにカーテンをかけて簡易ベッドにしよう。千代花ちゃんは入口にバリケードを作ってくれるかな? 真嶋は奥の扉にバリケードを頼む」
「そうですね。わかりました」
「は、はい。今夜はここに泊まるんですね……」
「墨野、俺の水をやるから傷口をもう一度洗っておけ。ゾンビの持ってた武器なんて錆びついてるかもしれない。化膿したらまずい」
「す、すまん」
室内を確認するが、教室のような場所だ。
前に黒板、後ろにロッカー。
椅子やテーブルも学校の教室にあるアレだ。
テーブルは八つを二列、縦にしてカーテンを上にかけて完成。
残りをバリケードに使い、墨野に水で濡らしたハンカチを手渡す。
清潔か、と言われると自信はない。
ハンカチもずっとポッケに入っていたやつだし、ペットボトルの水は俺の飲み水だ。
だが、他に水はないから我慢してもらう。
傷口はかなりパックリしていて、鋭利な刃物でスパッとやられたかのような……。
「新種のゾンビが持っていた武器っていうのは、剣か?」
「い、いや、なんかこう、小さな斧みたいなやつだった。他にも三日月みたいな形の剣みたいなのを持っているやつもいたけど、鉄パイプみたいなのもいた」
「結構多種多様だな」
「あ、ああ……それに、明確にこっちを殺そうとしてきた」
「ふぅむ」
多分地下に出るやつだな。
なんで地上に出てるんだよ……!
千代花が強くなったから、それに比例して敵も強くなっていく。
「もし今夜、この建物内に敵が出ないようならここは安全性が高いかもしれない。コテージよりも不便だが、怪我をしている墨野をあまり動かしたくないし拠点をこっちに移すのもありだな。ここの方が炊事場や駐車場に近いし」
「そうですね。ベッドも向こうから私が運んできますよ!」
頼もしい~。
「……見捨てないんだな」
「え? 墨野さんを、ですか? そんなの当たり前じゃないですか」
「うん、そうだな」
見捨てる、という選択肢が——ゲーム内ならば出ている。
しかし千代花は当然のようにそれを選ばない。
正直墨野はかなり空気を読まないし、お荷物もいいところなんだが……。
別に千代花の墨野への好感度が高いとかではない。
応援ありがとうございます!
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