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二日目の朝

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 しかし、そんな中隣の部屋から「うごごごごー、んごごごごぉー!」と墨野すみやのいびきが響いてきた。
 ……これはこれでホラーだな。
 いや、マジで怖いよ。
 真嶋ましまに「疲労だよ」って言ったからこそ、いびきをかくほど爆睡できている墨野すみやが怖い……!
 こんな状況であんなにスヤスヤと寝られるなんて、どんな神経してんだ。
 そもそもアイツ、ほとんどなんにもしてないじゃん!
 それほど繊細だったと?
 繊細なら繊細なりに千代花ちよかのことをもっと気遣ってやったらどぉですかぁぁぁあ!?
 俺、「自分繊細だから」っていうのは他人に対しても細やかに気を遣える人間が言って初めて説得力が出ると思うんですよ、本当に繊細な人間は自分のこと「自分繊細なので」とか言わないけどな!

「羨ましいです……僕はもうあの部屋に戻るの、怖いです」
「なら布団だけでも持ってこいよ。廊下も結構寝られるぜ」
「もう戻りたくないです」

 面倒くせぇなこいつ。
 仕方なく自分のブランケットは持ったまま、真嶋ましまが飛び出してきたツインベッドの部屋に入り、使われていないベッドに載せられていた羽毛布団を持ってきてかけてやる。

「ありがとうございます。高際たかぎわさんは冷静ですし、勇敢ですごいですね」
「別にすごくはないよ。こんな状況に、一周回って落ち着いちゃってるだけ」
「十分すごいと思いますけど」
「いいから寝ろよ。せっかく休めるんだから。起きてると腹減ってるのを思い出してつらいぞ」
「は、はい。そうですね」

 野郎と仲良くするつもりはねぇんだわ。
 とにかく、これで朝までは大丈夫。
 ここのボスは存在を無視されるとひとまず大人しく朝を待つ。
 夜より陽が出ている方が強いのだ。
 理由は割と単純で、視力の弱いエネミーだから。
 ツインベッドの部屋は月明かりがよく入る。
 カーテンをしていても、雲が晴れて差し込んだ月明かりで“獲物”が見えたのだ。
 なので、ツインベッドの部屋以外は安全。
 もう一度アラームをかけて、ブランケットを肩まで巻く。
 それでも、やはりこの世界はゲームとは違う。
 違うけれど、それでも千代花ちよかの優しさは、ありがたい。



 ***


「おはようございますっ」
「おはよう」
「おはよう!」
「おはようございます」

 翌朝。
 ああ、無事に二日目を迎えられた。
 寝た気がしないけど、体は休めることができたしヨシとしよう。
『おんきん』のなにがクソって、この使えない攻略対象と三日も共に過ごさねばならないってところだよ。
 確かに仮にも乙女ゲーなのだから、愛を育む時間とやらは必要だろうけどな?
 こんな過酷な必要ある?
 クッソー、マジ腹減ったぁー!

「あ、あの、高際たかぎわさん。よく眠れましたか?」
「あ、ああ、うん。あのブランケット、千代花ちよかちゃんだろう? ありがとう。おかげでしっかり眠れたよ」
「あ、は、はい。よかったです」

 睡眠は取れたけど腹は減ったままなのがなんともなー!
 もう腹の音も鳴らなくなってる。
 強制断食マジつれぇー。
 いや、でも一応今日は食糧を得られるはず。
 そして水は大切に飲もう。

「腹が減ったな……」
「今日は食糧を探しませんか? えっと、炊事場とか! なにかありそうじゃありません?」
「そうだな! 炊事場に行ってみよう!」

 あー、墨野すみやがうるせぇー。
 昨日の夜のいびきでますます嫌いになってきた。
 真嶋ましまも若干引いた表情をしている。
 それに気づかない墨野すみや
 やはり繊細キャラではないだろう。

「私も食糧を探すのは賛成です。あの、高際たかぎわさんは……?」
「俺も構わないと思うけど、太陽の光が大丈夫なタイプのゾンビだったら、のんびり調理をして食べてる時間はないと思う。案内所や管理棟に出た、強くて特殊なクリーチャーもいるし……探索は慎重に行うべきだろう」
「うっ……そ、そうか……」
「て、手分けして、っていうのは危ないんですね」

 ネタバレするなら太陽の光へっちゃらなタイプのゾンビだし、余裕でこのコテージを出た直後に中ボスクリーチャーに襲われるんだぜ、俺たち。
 へへ、憂鬱だよな。

「このコテージを拠点にできればいいんですが……」

 そう呟く千代花ちよか
 すぐに墨野すみやが「それだ!」と叫ぶ。

「そうだよ! ここを拠点にして、安全に脱出する方法を探すべきだ! 確か、高際たかぎわのマネージャーさんが気づくのは今日の夕方頃だろう? 食べ物を見つけたら、またこのコテージに戻ってくればいいんじゃないかな!?」
「そうですよ! 食糧さえあれば水も出ますし、ここで籠城して助けを待ちましょう!」

 安直な墨野すみや真嶋ましまは籠城戦を持ち出してきた。
 この先の展開を知らなければ、俺も賛成したいものだがな。

「あの、高際たかぎわさんはどう思いますか?」
「へ? えーと、それができるのならそれでもいいと思うけど、どちらにしてもコテージエリアの安全確認はした方がいいんじゃないかな、と思う。たとえば、他のコテージから家具を持ってきて、籠城するコテージの庭にバリケードを作るとか……。昨日はいつゾンビが入ってくるか、ヒヤヒヤしたからな」
「それもそうですね!」

 強めの賛同は真嶋ましまだ。
 お前も昨日廊下で寝たもんな……。
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