上 下
7 / 49

ゲームスタート 2

しおりを挟む

「ひ、ひぃーーー!」
「おい! なにしてんだ!」
「す、すまない! 瓶を割ってしまった」
「ったく……」

 墨野すみやの大声でビビり散らかす。
 まあ、ここが最後だし、これ以上なにもないのはゲームで知っているし、一階の二人と合流していいかもしれないな。

「あ、おい、ここのロッカーは見たのか?」
「え? いや、まだだけど……」

 ビビリのくせに責任感だけは一丁前の墨野すみやが、部屋の隅にあるロッカーに手をかける。
 どうせ鍵がかかってるだろう、と思っていたのだが、頭の片隅になにか引っかかった。

「あれ」

 そもそも、あそこにフラスコって置いてあったっけ?
『おわきん』はホラー要素が強いゲームで、ビビる彼女の代わりに何周かプレイするうちに引き継ぎしすぎて物足りなくなり、難易度をイージーからノーマルに上げていったのだ。
 そして、イージーからノーマルモードにした時、イージーモードでは安全だったこのビルにゾンビが出現するようになった——ような。

「やめろ!」
「え?」
「ぎゃあああああぁぉぉぉぉお!」
「うわぁぁぁぁぁ!」

 ロッカーの中からゾンビが飛び出してきた!
 テーブルを回り込み、割れたフラスコを拾い、ゾンビの手からなんとか逃れた墨野すみやを突き飛ばしてフラスコを思い切りゾンビの頭に突き刺した。
 自分でも驚くほどスムーズに動いたものである。
 まるで、ゲームをしていた時みたいな感覚だ。

「ガァぁァァァッ!」
「ひっ、ひぃ……ひぃ……」
「はぁ、はぁ、はぁ!」

 びくんびくんと痙攣しながら、ゾンビが動かなくなる。
 序盤のゾンビは、攻略対象でも倒せる強さで助かった。
 いや、っていうか……今更ガタガタすごい震えてきたぞ。
 フラスコを持っていた手が定まらないほどに。

「あ、あ、な、なんでロッカーにゾンビが……」
「さ、さあな……はぁ……そ、それより、一階の二人と合流するぞ……! ビルの中も、安全じゃない!」
「あ、ああ! そうだな!」

 と、言って尻餅をついていた墨野すみやは脱兎のこどく俺を置いて部屋から出て行きやがった。
 あいつ本当最低だな!
 お礼ぐらい言っていけよ!

「………………」

 俺はまだ震えが止まらない。
 振り返ると、頭にフラスコを突き刺されたゾンビから血が溢れて床に広がっていた。
 死んだんだ。
 俺が、殺したんだ。
 ——俺が。

「……っ……」

 だからなんだ。
 これはゲームだ。
 ゲームの世界で、敵キャラを倒しただけだ。
『おんきん』にグロ版なんてものはなかったけど、ゲーム自体がR17G+だった。
 流血表現と残酷描写があるって、注意書きにもしっかり書いてある。
 俺はそれをわかった上で、当時の彼女の代わりにプレイしたんだ。
 ホラーゲームは、好きだったし。
 そうだよ、だから……こんなこと、これからだってやっていける。
 やらなきゃ死ぬんだから、やるんだ。

「ク、クソ……」

 問題は普通のゾンビホラーゲームみたいに、ハンドガンだのマシンガンだのが存在しない点だろうか。
『おわきん』はヒロインだけがゾンビに対抗する術を持つ。
 多分、今頃ヒロインの千代花ちよかはビルの入り口付近の部屋でパワードスーツを手に入れている頃だ。
 俺たち攻略対象は、ヒロインの邪魔にならないように影でコソコソ隠れながら、彼女に守られ媚びていくしかない。
 でも、クソ……精神的に、こんなにキツいとは思わなかった……!

墨野すみやのやつ、どこまで行ったんだよ……」

 完全に俺のことを置いていきやがって……!
 自分の呼吸音が、やたらとでかく感じる。

「ぁ……あ……ァ……」
「……お、おい、嘘だろ……?」

 ひた、ひた、ひた、と——足音が近づいてくる。
 暗い廊下でひどく反響する化け物の声も。
 いち、に、さん、よん……!?

「あぁぁぁ!」
「うぁががう!」
「嘘だろーーー!」

 幸い、初期のゾンビは走れない。
 大きい声で威嚇して、時には互いに喰らい合う。
 四体ものゾンビ、放っておいて走って逃げれば問題はない。
 だが、それとは別に——怖いもんは怖い!
 クソクソクソクソ! 墨野すみやの野郎一人で逃げやがって絶対許さねぇー!
 廊下を走り、階段を数段抜き飛ばしながら駆け降り、一階で人の声が聞こえる方へと向かう。

「ヴァアアァ!」
「うわあああああ!」

 一階の開け放たれた扉から、ゾンビが飛び出してきた。
 くそ! あと少しってところで——。

「!」

 後ろからも、階段からゾンビが転げ落ちてきた!?
 三階にいたやつの一体か!?
 俺を追ってきていたのか!?
 ふっざけやがって!
 っていうか、挟まれた!

「ああぁぁぁ……」
「ゥァァァァァァァアァァァッ」
「はぁ、はぁ、はぁっ!」

 まずい、まずいまずいまずい!
 廊下はそんなに広くはない。
 だが、どちらかといえば千代花ちよかたちがいる方向を塞ぐゾンビの方が壁寄りだろうか?
 イケるか?
 いや、いくんだ!

「っ——!」
「ゥァァァッ……!」

 ゾンビが手を上げた瞬間を狙い、身を屈めて抜ける。
 ゾンビはお互いに抱き合ったと思ったら、お互いを喰らい始めた。
 セ、セーフ!
 思ったよりも動けるな、高際たかぎわ義樹よしきの体……!

「はぁ、はぁ、はぁ……もう出てこないよな」

 め、めちゃくちゃ怖えぇ……!
 死ぬかと思った。
 体の震えがとまらねぇよ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

魔法世界の魔法鎧~前世の夢を現実に!~

suke
ファンタジー
自分が自分で、自分が自分じゃないみたいだ…… 6歳の誕生日。幸か不幸か転生前の記憶を思い出したコート。 同日に行われる「魔法授与」の儀式において、何故か神に嫌われ「適正ナシ」を言い渡される。 転生特典なんてナイ、周囲から「忌み子」として勘当に近しい扱いの日々。 それでも生存の為時間を費やしていく。 目指すは夢のパワードスーツを作り上げるため。 魔法世界をパワードスーツで謳歌する!

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

処理中です...