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ゲームスタート
しおりを挟む自己紹介も済んだし、いよいよゲームスタートか。
それでは俺がやることはひとつだな。
はい、死ぬほど媚びまーす。
「えーと、じゃあ次はおれが三階を調べてくるよ」
と、言い出したのは墨野。
は? こいつ誰よりも体力があり、訓練だって受けてるのに、三階?
お前が行くべきは一階だろうが。
見ろ、真嶋が「え? じゃあ僕が一階?」って顔になってんじゃねーか!
「交代でビルの中を調べているんでしたっけ?」
「あ、ああ。食糧か水をね。あとは、そいだな、携帯の充電ができるものや懐中電灯があるといいかもな。……とはいえ、あのゾンビたちが光るものに反応するのだとしたら懐中電灯は逆に危険物になるだろうし……あったとしても荷物になるかも。あ、それよりもみんな、一度連絡先を交換しないか? なにかあった時にすぐ助けを呼べる方がいいだろう? ここはスマホが圏外で通じないけど、どこか通じるところはあるかもしれないし」
と、早口でヒロイン千代花に答えると、三人にぽかん、とされてしまった。
ヤ、ヤバ……不審がられてる……!?
「あ、いや、連絡先の交換は……嫌なら別に……」
「い、いいえ! そうしましょう! 言われてみるとそうですよね!」
「ああ、心強い!」
「私もいいと思います。でも、圏外ということは確実に連絡が取れるもの……無線機とかもあるといいですよね。使い方はよくわかりませんけど」
「それなら大丈夫! おれが教えてやるよ!」
とドヤ顔で胸を叩くのは、この場で一番のビビり。
図体だけの墨野だ。
まあな。
無線機を使う職業なんて限られてるし?
自衛隊や消防士って無線機使うだろうしな?
でもなんかこう、釈然としねーな!
「よ、よし、それじゃあ連絡先交換しよう。交換したら、体力と経験のある墨野さんには一階の探索をしてほしい」
「え!」
「そうですね。僕はただの大学生なので」
「え!」
攻略対象同士はゲーム内でもあまり仲良くないが、今回の件は墨野が悪い。
最年長で職業柄、体力的にも一階の探索を買って出ればいいものを、それを真嶋に押しつけようとしたのだから。
情けないにも程があるだろ。
これだから「見かけ倒しきんにくん」とか言われるんだよ。
「い、いや、でも、おれ、あんまり暗い場所は……。それに、一階ってゾンビがいるかもしれないし」
そんな場所に大学生のガキ一人で行かせようとするの、どーかと思う。
クソ野郎かよ。
ついでに真嶋はトラブルメーカーだ。
そんなの一人で行かせたら大変なことになるだろ!
「一人が不安なのは仕方ないと思います。一階の探索は私が行きますよ」
とか言い出すヒロイン鬼武千代花。
さすがおっぱいのついたイケメン。
早くも真嶋が乙女みたいな顔になってる。
「あ、ありがとうございます、鬼武さん!」
「構いません。状況もよくわかりませんし、みんなで助け合って乗り越えましょう」
「はい!」
中堅の出来上がりだな。
まあ、『おわきん』はヒロイン千代花に媚びなければ助からない。
死亡エンド、ゾンビ化が少ない真嶋がそれを証明いている。
ここは俺も媚びておかねばな。
「時間が経ってゾンビも増えてるかもしれない。二人だけじゃ不安だ。俺も一緒に行こう」
「な! そ、そんな、それじゃあおれも!」
「一階の探索はしたくないんじゃなかったのか?」
「だ、だってそんな、一人なんて……」
めんどくせー!
気持ちはわかるけどー!
「あの、それじゃあ二手に分かれて探しましょう。私と真嶋さんが一階を探すので、墨野さんと高際さんは三階をお願いします」
「げっ」
こうなるのかー!
くっそ、いくらビルから出るまで戦闘はないっつっても、男と二人きりはキツいものがある!
しかもこの図体だけの墨野と!
「で でも、高際さんはさっき二階を一人で探索してくれましたし、疲れてるんじゃありませんか?」
ま、真嶋ァ……この後に及んで余計なことを……!
「いや、こうなったら三階は俺と墨野で探すよ。なにもなさそうだけど、一人で行かせると時間もかかりそうだしな」
「ああ、それは言えてますね!」
真嶋、ナチュラルに墨野を貶すやつだな。
嫌なやつ……。
「では、一時間後には必ず調理室に戻ってくるように。それから少し休んで、その後の方針を決めよう。反対意見はあるか?」
「ありません」
「私もそれでいいと思います」
「あ、ああ、おれもそれでいいよ」
「じゃあ一時間後な。行くぞ、墨野」
図体のでかい役立たずを引き連れ、三階の各部屋を探索する。
目標のものは水か食料なのだが、ゲームだとなにもない。
調理室の横は倉庫と書かれた札が掲げられており、期待したのだが案の定なにもなかった。
隣の部屋も研究室、としか書いてなくて、テーブルとフラスコ数点以外は、なにもない。
他の部屋も同様だろう、と研究室の窓際を見ていると、フラスコに気づかずにいた墨野が落っことして割ってしまった。
ガシャーン、という大きな音に、それほど気を張っていたつもりがなくても跳ね上がるほど驚いてしまう。
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