43 / 44
直接対決(2)
しおりを挟む「舞!」
痺れる手足。
ああ、動きやすい格好で来て正解。
咄嗟に立ち上がって白窪の腰にしがみつき、食猿に向けて左手を掲げる。
刀を抜いた滉雅さんが駆け寄ってくるのが見えた。
大丈夫、間に合う、今だ!!
「こ――滉雅さん! 今だ!」
俺の左手首に巻いてあった『自動防御』の霊符発動。
どうせ元々対禍妖ように作った霊符。
でも、俺が想定していた禍妖の数倍強ぇ、この禍妖。
だから、多分この食猿相手には三秒ぐらいしか保たない。
でも、三秒あれば滉雅さんが間に合う!
白い結界が食猿を包む。
食猿は結界に反応して、球体の結界はヒビが入り、あっという間に砕けた。
でもその瞬間。
「鈴流木流 天の組 炎龍円舞!」
『ボォ……オオォォォォ!?』
俺が稼いだ三秒。
たった三秒だけど、滉雅さんが身体強化の霊術で距離を詰め、炎の霊術を纏った剣技で食猿を八つ裂きにするのには十分だった。
いや、まあ……この国で一番強い人、みたいに言われてたから、まあ、その……強い、んだろーなー……とは、思ってたけどさ。
ちょっと目の前であの悪意の塊が一瞬で八つ裂きにされるとか、想像の7上強かったんだが?
む、無双キャラだったの?
「舞!」
「あ、あはは……さ、さすが滉雅さ……」
「っ、無茶を……!」
「ごめんなさい。……でも、信じてたからイケるって思ったんだよ」
「…………っ」
また、危ないことをしてごめんなさい。
座り込んだ俺を震える腕で抱き締めてくれた。
ああ、なるほどなぁ、と遠のく意識でわからされちまった。
やっぱり、この人の腕の中が世界で一番安全で安心で、最高だわ――って。
◇◆◇◆◇
「ごめんなさい、結城坂様! あなたの霊符は素晴らしいものだわ……! わたくし、今までの考え方が凝り固まっていたと反省いたしました!」
「あ、えーと……はぁ。よ、よかったです……?」
結界修復の行われるお屋敷の大広間の一画で、俺は目を覚ました。
結局あのあと、他の禍妖も食猿の妖気に当てられて近づいてきたため、集められた夫人や令嬢を大広間で一泊させたらしい。
簡易な布団が引き詰められ、入り口の近くには料理が並べられたビュッフェ形式でいつでも食事ができる。
で、その簡易な布団で休んでいた俺は一晩起きなかったそうな。
目を覚ますと集められていた夫人と令嬢が駆け寄ってきて、小百合さんが俺の手を握りながら泣いてしまう。
で、「素人が霊符を作るなんて危険!」と俺を叱ったことを謝ってくれた。
「結城坂様は果敢にもご自分の作った霊符で食猿討伐のお手伝いをされたと聞きました。それに……わたくし、結城坂様が渡してくださったこの霊符に、一晩中心を支えていただきましたわ。この一枚の霊符の安心感が、ずっとわたくしを……うっ、うっ……」
「そうですか。……そうですよね、怖かったですよね。小百合様のお心を支えられたのでしたら、よかったです」
「ううううううっ……!」
だよなぁ、怖いよなぁ。
ごくごく普通のお嬢様が、人喰い禍妖に囲まれたお屋敷に一晩。
どんなに結界で守られていると言われても、怖かったに決まっている。
その怖いと怯える心を一晩、俺の『自動防御』の霊符が支えたなら作ってよかったと思うよ。
「舞はん、目が覚めはった? よかったわぁ」
「美澄様……あの、今はどういう状況なのですか?」
「うん、今は朝よ。舞はんは食猿に襲われたあと、ずっと眠っていたんどす。あと……」
美澄様が俺の斜め上に眠る白窪を視線で差す。
あいつはまだ、目を覚さないらしい。
「まあ、あっちは食猿の精神干渉にずいぶん参っとるみたいやけれど、大元の食猿が討伐されとるからそのうち目ぇ覚ますでしょ」
「死んではないんですよね?」
「体に外傷は一切ないから大丈夫どすぇ」
「そうですか……」
みんな白窪に対しては三者三様の眼差し。
好き勝手して、屋敷の中にいた人間全員を危険に晒したのだから当然だ。
正直、俺だって助けなくて済むなら助けたくなかったぜ。
だって、この先のことを考えたら絶対、死んだ方がマシだっただろう、この頭お花畑女は。
一生かけたって返しきれない多額の賠償金を背負い、花町に堕ちるしかない。
まあ、別に俺も支払ってほしいとかそういう気持ちで助けたわけじゃなくて……目の前で人間が食われるところなんて、見たくなかったっていうだけで助けただけだしね。
そのうち「なんであの時助けたのよ!」って逆ギレの逆恨みされるかも。
ま、そんなこと言われたら素直に「グロ耐性ねぇんだよばーか!」って言ってやるか。
「まあ、それはそれとして……ほんまに危ないことするわあ」
「す、すみません」
「ええよ。姉のうちも見たことないほど慌てふためいた滉雅が見られたさかい、それだけで許せちゃうわ。それに、舞はんが差し入れてくれたおはぎも役に立ったそうどすぇ」
「え?」
どうやら俺が差し入れたおはぎに含まれた霊力のおかげで、警備にあたってくれた禍妖討伐部隊は想像以上にパワーアップしていたらしい。
食猿のせいで集まっていた禍妖が、夜の間に討伐されまくって今はすっかり『いつもの朝』なんだってさ。
マジか、そんなに戦力アップに貢献できたのか。
「っていうか、そういうことでしたら討伐部隊の皆さんの朝ご飯も作ります!」
「寝とき」
「………………はい」
起き上がったら美澄様におでこを指で押し返されて布団の中に戻される。
つ、強い……! さすが滉雅さんの姉君。
「結界の補修が中途半端なんよ。みんな朝ご飯食べたら昨日の続きを頼みますわ。舞はんはもう少し休んで、霊力の回復ができたら参加してちょうだいな」
「は、はい。わかりました。あの、白窪は……どうなるのでしょうか?」
玄関の結界霊符を剥がしたのは、この屋敷の中にいる央族の女性たちを危険に晒す行為。
普通に考えて無罪ではなかろう。
扇子で口許を隠した美澄様が目を細めて「舞はんは知らんでよろしおす」と言い放つた。
多分、今回の件で賠償金額が跳ね上がることになったんだろう。
それでなくとも人一人が一生をかけて花町で働いたところで回収できそうにない金額だったのに。
卒業を待たず、あのお花畑女は花町に行くことになりそうだ。
124
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説

生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。

彼女(ヒロイン)は、バッドエンドが確定している
基本二度寝
恋愛
おそらく彼女(ヒロイン)は記憶持ちだった。
王族が認め、発表した「稀有な能力を覚醒させた」と、『選ばれた平民』。
彼女は侯爵令嬢の婚約者の第二王子と距離が近くなり、噂を立てられるほどになっていた。
しかし、侯爵令嬢はそれに構う余裕はなかった。
侯爵令嬢は、第二王子から急遽開催される夜会に呼び出しを受けた。
とうとう婚約破棄を言い渡されるのだろう。
平民の彼女は第二王子の婚約者から彼を奪いたいのだ。
それが、運命だと信じている。
…穏便に済めば、大事にならないかもしれない。
会場へ向かう馬車の中で侯爵令嬢は息を吐いた。
侯爵令嬢もまた記憶持ちだった。
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!

【完結】ニセ聖女と追放されたので、神官長と駆け落ちします〜守護がなくなり魔物が襲来するので戻ってこい? では、ビジネスしましょう〜
禅
恋愛
婚約者の王太子からニセ聖女の烙印を押された私は喜んで神殿から出ていった。なぜか、神官長でエルフのシンも一緒に来ちゃったけど。
私がいなくなった国は守護していた結界がなくなり、城は魔物に襲来されていた。
是非とも話し合いを、という国王からの手紙に私は再び城へ。
そこで私はある条件と交換に、王を相手にビジネスをする。
※小説家になろうにも掲載

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

眠りから目覚めた王太子は
基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」
ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。
「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」
王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。
しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。
「…?揃いも揃ってどうしたのですか」
王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。
永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる