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二度目のお食事会(2)
しおりを挟む「あ、あの、たくさん作りましたので、もしよろしければ鈴流木副隊長様もぜひお食事していってくださいませ」
「え? いえ、さすがに準備もされていないでしょうし」
「大丈夫です! 実は金庫を冷蔵庫に霊符で改造して、下準備をたくさんできたのでお料理もたくさん作れました。私の作ったものですので、いつも美味しいものを食べていらっしゃるお二人のお口に合うかはわかりませんが、霊力の補給としてぜひ、ご賞味ください」
九条ノ護家当主、ふみ様には「週に二回はお料理を教わりに来なさい」と言われてしまった程度には、超庶民味なので申し訳ないのだけれど……。
まあ、でも習った分多少はマシになっている――はず!
実際味はともかく霊力の含有量は自信があるぜ!
それだけはふみ様にもお墨付きいただいたからな!
俺の申し出に鈴流木副隊長は困惑顔。
あれ、お誘いするのそんなにおかしい?
思わず親父の方を見てしまうと、親父も少し困り顔。
ただ、鈴流木副隊長と親父の困り顔は少し意味合いが違う様子。
親父は「どうして申し出を困惑されているのかがわからない」って感じで、鈴流木副隊長は「申し出を受けていいのか?」と滉雅さんに確認する視線と表情。
俺も思わず鈴流木副隊長の視線を追って、滉雅さんを見る。
お誘いしたの、もしかしてまずかったのか?
「せっかくの申し出だ」
「ええ? いいのぉ? せっかくの婚約者殿の作った食事、君が食べる量が減るかもしれないのに」
「結界補修の護衛には万全を期すべきだ。特に今回は」
「うーむ……それはそうなのだけれど」
特に? 今回は?
なんかめちゃくちゃ含みを感じる言い方なんだけど。
「百鬼夜行が起こる――という噂は本当なのですか?」
親父が神妙な面持ちで切り出した。
百鬼夜行の話、俺も小百合さんには聞いたけれど……え? 結構広まってるの、その噂。
っていうか、親父が聞いてしまうほどに“ガチ”なの?
「確実に起こると断定こそできないが、数百年分の百鬼夜行の起こる日取りを確認すると四季結界補修の日がとにかく多い」
「なんと……」
「界寄豆に意志などない、と言われているが、界寄豆の切除された枝葉より発生した瘴気より生まれる禍妖は総じて結界を破壊しようと央都を目指す。結界が一番緩み、かつ禍妖が己の成長のために欲する強い霊力の集まる日――それが四季結界補修の日。本能的なものなのでしょう、禍妖はその日に集まる霊力を狙って寄ってくるのです。それがいつしか百鬼夜行、と呼ばれるようになりました」
マジか……!
四季結界補修ってそんな危ないイベントだったのかよ!?
「とはいえ、基本的に我々禍妖討伐部隊が日頃より禍妖の数を減らし、四季結界補修を無事に終えられるよう勤めております。今回百鬼夜行が起こる危険性が高いと言われているのは、滉雅の体調がここ半年悪かったせいでしょう」
俯いて唇を強く結ぶ滉雅さん。
そんな、滉雅さん一人のせいにするなんておかしいんじゃねーの?
そんなの……!
「滉雅さんのせいだと言うのですか……? 副隊長様」
「いいえ。滉雅の不調のせいにして、そういう噂が流された、という方が正しいでしょう。ただ、我々禍妖討伐部隊が目標の禍妖討伐にいくつか失敗してしまったことも事実。それはもちろん滉雅一人のせいではありません。部隊隊員全員の力不足の責任です」
「いや、俺が……俺の精神が弱かったせいだ。俺が部下たちを守れなかったから」
「お前のせいじゃないって」
親父と顔を見合わせる。
滉雅さんくらい霊力の多い人は、霊力を使うばかりで回復が追いつかない、と言っていた。
だったらやっぱりそれは滉雅さんのせいじゃない。
仕方ないことだ。
霊力全回復って、霊力を含んだ食事を摂ってようやく叶うことみたいなんだから。
しかも、滉雅さんくらいの霊力保有量になると俺ぐらいの霊力含有量の料理を作れる人間がいないと無理って。
「それでもやはり俺が部下を守れず死なせたせいだ。隊の全体の士気は下がり、俺も霊力の補充もままならなくなった。百鬼夜行が起こるとしたら、間違いなく、俺の責任」
「滉雅」
咎めるように副隊長さんが睨む。
でも、滉雅さんは首を横に振った。
まだ自分のせいだと言うかのように。
それに対して俺もだんだんイライラしてきちゃった。
「滉雅さん、そんなことを言っているのならまずはご飯を食べてくださいね!」
「え……?」
「お腹が空くとろくなことを考えられないんですよ! 霊力不足になると、心身が弱ってしまうとおっしゃっていたじゃありませんか! と言うわけでお二人とも、たくさん食べてくださいませね! そして四季結界補修の時はたくさん活躍して、そのくだらない噂を払拭してくださいませ! なんなら当日の朝もご飯を食べにきてくださって構いませんよ。味はまだまだ授業中でございますが、私がたーーーっくさん霊力を込めてお食事をお作りいたしますから! ……あ、まあ、その、もちろん結果補修に使う霊力は、残しておきますけれども……」
当日霊力不足になると俺も困るからな。
だが、そんなクソみたいな噂流すやつらには是非、見せつけてやってほしい。
日々命懸けで人々を守るこの人たちが本気になれば、百鬼夜行なんぞ起こったってどうとでもできるだろってところをな!
「今お食事をお持ちしますね!」
「……では、お言葉に甘えさせていただきます」
「はい! ぜひぜひ!」
廊下で待機するお手伝いさんに声をかける。
もう腹一杯、食えないって言うまで食わしてやるぜ。
そう思っていると、後ろから副隊長さんが滉雅さんに「本当によい婚約者を得たな」と背中を叩いていた。
よ、よせやーい。
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