「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり

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それでも出会ったから

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 馬車に乗り、九条ノ護くじょうのご本家のお屋敷に無事到着……とはいかなかった。
 門扉もんぴの前にギンギラギンのド派手な馬車が停まっていたため、俺たちの乗る馬車は手前で停車するしかない。
 思わず滉雅さんと顔を見合わせてしまう。
 小窓からド派手な馬車にある家紋を見ると「ゲッ」と声が漏れそうになった。
 あれは有栖川宮家の家紋じゃねーか……!
 
「お願いいたします! 何卒ご当主様にお目通を!」
「当主は本日来客対応しております。お約束がない方をお通しするわけにはございません。お帰りいただき、お約束を取りつけてからになさってくださいませ」
「そこをなんとか! お時間は取らせませぬ! 以前うちのせがれがしでかした非礼は賠償という形でお支払いした! どうか分家の、結城坂家の娘さんを我が家の長男の嫁にいただきたい!」
 
 目が点になるとはこのことか?
 思わずまた、滉雅さんと顔を見合わせてしまった。
 あの人は――一度会ったことがある。
 クズポンタンの父親……有栖川宮家の御当主。
 結城坂家の娘さんって、多分俺、だよな? は、はあ?
 
『おそらく君の霊力量がどこかしらから漏れたのだろう。君がどこかの家の婚約者になる前に、自分の家の後継の妻に、と考えて直談判にきたのではないか? もしかや、あれは知り合いの家か?』
「知り合いというか……有栖川宮家の……」
『有栖川宮家? ……君の前の婚約者の家か?』
「そうですね」

 しかも今度は長男の嫁にって言った?
 クズポンタンの兄ってもう婚約者がいなかった?
 その辺どうなってんの?
 
九条ノ護くじょうのご家には君宛の婚約の申し込みが増え続けているはずだ。君がもしも、俺のような常日頃不在がちの男ではなく、毎日帰宅して安全な仕事をする男がよいというのなら、そういう男を選ぶことも――』
「それはないです。私……いや、俺、心が男っていうか……生まれつき性自認が男っていうか……いや、もう全部ぶっちゃけると前世の記憶があるんです。前世の、男だった頃の」

 目を丸くされた。
 もう信じてもらえなくてもいいやって気持ちで。
 それで気色悪いから婚約なし! って話になっても、この人なら友達としてやっていける気がするし!
 
「だから正直男と結婚するってもう完全に義務として割り切ってたんですよ。結婚しなくて済むならわざわざ男と結婚したくねーよ、みたいな?」
『では、俺とも――』
「まあ……でも、滉雅様……滉雅さんは、友達みたいに接していけそう? だし……? 結城坂ウチは借金まみれだったし、央族の女として生まれちゃったからには役目は果たさんといかんよなぁーって思ってたから、そのへんは割り切って考えていたから……滉雅さんみたいな超条件二重丸の人のところに嫁ぐのはなーんも問題なし!」
「……そうか」
 
 若干、先ほどとは違う意味合いのまん丸目で見られた。
 急にぶっちゃけ始めたからびっくりされたのかも?
 でもこの人の前なら――この人になら受け止めてもらえる気がしたんだ。
 そうか、の一言で済まされてこっちがビビるけどな。

「まあ、だから滉雅さん以下の条件の男のところに嫁ぐとかマジ無理って感じ? どーしようなぁ、アレ」
「気にすることもないだろう」
「え」

 がちゃ、と扉を開くと、滉雅さんが表へ出る。
 そして俺に向けて手を差し出してきた。
 ……そうだな、それもそうだ。
 だってこの人はこの国で一番命を賭けて禍妖かようと戦う、国で二番目に偉い一条ノ護いちじょうのご家の長男様なんだから。
 
「うん」

 だから俺も安心して手を重ねられる。
 軽やかに馬車を降りると、門扉前にいた有栖川宮家のおっさんが俺を見つけて目を見開く。
 隣にいる高身長の軍服の男を見て口まで開け放っちゃって硬直している。
 
「お久しぶりです、有栖川宮のおじ様」
「あ……あ……ああ……」

 ぺこり、とお辞儀だけして門扉を潜った。
 九条ノ護くじょうのご家の使用人の人もどことなく楽しげに微笑んで会釈をしてくれたので、会釈返しをしてお屋敷の玄関に進む。
 その間、有栖川宮のおっさんに引き止められることはなかった。
 そりゃあそうだよな、俺の手を握ってくれているこの人は、きっとこの国で一番いい男だもん。
 スキップしたくなるほどに、気分最高。
 我ながら性格悪ぃなぁ!

『俺も』
「はい?」
『俺も同じだ。一条ノ護いちじょうのご家に生まれたからには、家のために生きるべきだと思っていた。それが当然で、仕方ないことだと』
『うん。そうだよな。仕方ないよな』

 それでも、とお互い見つめ合う。
 家のための婚約だ、これも。
 それでも、と頷き合う。
 少しでも“素”の自分をさらけ出せる相手と出会って、心を通わせることができる結婚ができたなら、超最高だと思うんですよ。
 俺にとってそれはもう、この人だ。
 この人にとってのそれが、俺であれたならもっと最高だけど……どうかな?
 そうあれるように俺も頑張りたいって思う。
 でも、そう思える相手に出会えて、こうして手を繋ぐことができていること自体、相当な奇跡じゃねぇ?
 有栖川宮のおっさんよ、どうか俺のことは諦めてほしい。
 俺はもう、この人と結婚したいって思う相手と出会ってしまったので。

「おかえりなさいませ。あらあら、すっかり仲良しになられて」
「あ……いや~……あはははは」

 玄関で草履を脱ぐと、迎えの使用人さんに微笑まれた。
確かに……出て行く時よりも、距離が縮まった気は、する。


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