「こんな横取り女いるわけないじゃん」と笑っていた俺、転生先で横取り女の被害に遭ったけど、新しい婚約者が最高すぎた。

古森きり

文字の大きさ
上 下
10 / 44

面会の申し入れの手紙

しおりを挟む

 一週間ほど経つと、俺の婚約破棄の噂も沈静化してきた。
 しかし、俺の就職先は未だ悩ましい。
 霊術の先生に作った霊符を見せながらいかに生活のための霊術や霊符を布教させた方がこの国の発展に役立つかを解いたのだが、結局「でもそれは君が考えることではないし、女性は結婚して子どもを産み、お家を存続させるという重要な役目がある」と逆に切々とお説教をされてしまった。クソかな?
 いや、先生の言っていることはもちろん分かるよ。
 代々結界を維持して約千年。
 百結界に封じられる界寄豆かいきとうの伐採方法がわかっているのならいいが、そんなこともない。
 それなら、それこそいっぺん増えた央族全員の霊力を使って界寄豆かいきとうを燃やし尽くせばいいんじゃないの、って思うんだけれどそれもしないし。
 まあ、界寄豆かいきとうの現物を見たこともないし、俺が想像するよりヤベェ代物なのかもしれんけど。
 
「やだー! 松尾様ったら~! きゃはははは!」
「へへへ、いやあ……」
 
 うるさ。
 と、思ってその騒音の方を見ると我が校の股ゆる女代表白窪結菜が眼鏡の陰キャと楽しそうに喋っている。
 それを冷たい目で眺める女生徒と羨ましそうに眺めたり嫉妬で睨みつける男子生徒。
 
「また別の殿方に粉をかけていますのね、あの女。よく家の圧から逃れているものですわ」
「聞きました? あの女、成績が最下位だったらしいですわよ。勉強を教わりたいと殿方に声をかけているのに、振るいませんわね。勉強ではなく他のことをやっているのではなくて?」
「梢様、陽子様、そのへんで。あの方は頭がお花畑ですから、どうせ僻んでいると歪曲して受け取りますわよ」
「ああ、そうでしたわね」
 
 俺をガードしてくれている三人の令嬢たちの辛辣さヤバァ……。
 しかし、どうやら松尾も人の婚約者らしい。
 クラスの端で慰められている令嬢の姿が見える。
 あの悲しそうな顔を笑って優越感に浸る股ゆる女の表情を見てしまった。
 本当に気色悪い。
 あれに鼻の下を伸ばす男がいることが信じられん。
 男って本当に女の表面しか見ていないんだな、と思い知らされてしまう。
 あんな典型的な横取り女、現実にいるわけないと笑っていた前世の俺に伝えたい。
 
 お と こ が バ カ で 気 づ か ん だ け だ バ カ が ァ!
 
 女視点から見るとこんなにクソ女なのに、わからんもんなんだなぁ。
 なんて机に教科書を乗せて見なかったことにしようとしたら、天ヶ崎嬢たちが立ち上がった。
 
「まあ、有栖川宮様、どうかなさいましたか?」
「なにか御用でしょうか?」
「ッ……舞に用があるのだ。話をさせてもらいたい」
「まあ、なんのお話ですか?」
「婚約をしていない令嬢を呼び捨てにするなんて、有栖川宮家のご母堂はどのような教育をされたのかしら。非常識ですわよ」
「結城坂様とお話しされたいのであれば、まずは結城坂様にお手紙を出してお返事をいただいてからではなくて?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
 
 苦虫を噛み潰したよなにか言いたげにしてから、すごすご背を向けて去っていく。
 なんだったんだ、あれ。
 
「なんだか今までと少し様子が違いましたわね」
「関係ありませんわ! 結城坂様とはもう婚約破棄しているんですもの!」
「結城坂様はどう思いますか?」
「興味ございませんわ。お三方のおかげで変な絡み方もされませんし、毎日感謝しております。ありがとうございます」
 
 これはガチで感謝。
 あのクソスカポンタンと話すことはなにもない!
 しかし……将来が相変わらず見通しが立たないな~。
 結局結界管理局に就職が理想的なのかねぇ……?
 
 
 
 深く溜息が止まらない中、帰宅すると郵便屋さんが来た。
 珍しいなぁ、と受け取ると宛名が父と私宛。
 送り主は――い……一条ノ護いちじょうのご家……!? はあああああ!?
 待て待て待て、意味わからん!
 なんで末端の途絶決定の分家に守護十戒しゅごじゅっかい筆頭の一条ノ護いちじょうのご家から手紙が来るの!?
 やややややヤバくない!?
 お、親父いぃぃ! 早く帰って来てぇぇぇ!
 怖くて開けねーよ、こんなの!
 
「舞? 門扉もんぴでなにをやっている?」
「お、お父様! こんなに早くお帰りで……いえ、ちょうどようございました! これをご覧ください!」
「……? ……!? 一条ノ護いちじょうのご!?」
 
 まあ、やっぱりそういう反応になるよなぁ!
 顔を見合わせて、慌てて二人で家に入る。
 俺がお茶を入れている間に、まだ外着のままの親父が手紙を開く。
 なになに、本当に怖いんだけれど!
 怯えながらお茶をちゃぶ台に載せて「一条ノ護いちじょうのご家のかたはなんと……?」と聞いてみる。
 一条ノ護いちじょうのご家と言っても、かなり広い。
 本家、そしてその上の宗家。
 分家の中にも一条ノ護いちじょうのご家を名乗る家がいくつかあるはず。
 まあだからって一条ノ護いちじょうのご家というだけでヤバいんだけれど!
 格上も格上!
 帝と同等の名士、大大名家!
 震えながら親父を見ると、ものすごい険し顔で睨みあげられてちびるかと思った。
 
「お前、霊符を作ったのか?」
「えっと、研究で自作したことはございます。我流ですが」
「それを禍妖かよう討伐部隊に提供したのか?」
「伊藤さんにおにぎりを頼まれた時に、いつも守っていただいているお礼に、お役立てくだされば幸いですと包んだことはございますが……」
「はああ……」
 
 親父が頭を抱えて、今まで聞いたこともないほどの深い溜息を吐き捨てられた。
 ま、まさかあの霊符が誤発した……!?
 
「よりにもよって、禍妖かよう討伐部隊、特務部隊一等にそんなものを渡すとは……。部隊隊長の一条ノ護いちじょうのご家、本家の隊長殿がお前に礼をしたいと申し出られて我が家に来たいと言ってきている」
「ふぁあふぁああ!?」

 一条ノ護いちじょうのご家、ほ、本家ーーーー!?
 お、お礼!? お礼って、霊符の!? はああああ!?
 
一条ノ護いちじょうのご家、本家の方が我が家に来るという。すぐにお迎えの準備をしなければ。とてもお断りできるような内容ではない!せめて九条ノ護くじょうのご家本家でお会いできないか、本家と相談の上で返事を出すが……」
「は、はい……」
「お前は本家に金を借りて、着物と化粧品を買ってこい!!」
「は、はい!!」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

生命(きみ)を手放す

基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。 平凡な容姿の伯爵令嬢。 妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。 なぜこれが王太子の婚約者なのか。 伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。 ※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。 にんにん。

彼女(ヒロイン)は、バッドエンドが確定している

基本二度寝
恋愛
おそらく彼女(ヒロイン)は記憶持ちだった。 王族が認め、発表した「稀有な能力を覚醒させた」と、『選ばれた平民』。 彼女は侯爵令嬢の婚約者の第二王子と距離が近くなり、噂を立てられるほどになっていた。 しかし、侯爵令嬢はそれに構う余裕はなかった。 侯爵令嬢は、第二王子から急遽開催される夜会に呼び出しを受けた。 とうとう婚約破棄を言い渡されるのだろう。 平民の彼女は第二王子の婚約者から彼を奪いたいのだ。 それが、運命だと信じている。 …穏便に済めば、大事にならないかもしれない。 会場へ向かう馬車の中で侯爵令嬢は息を吐いた。 侯爵令嬢もまた記憶持ちだった。

【完結】ニセ聖女と追放されたので、神官長と駆け落ちします〜守護がなくなり魔物が襲来するので戻ってこい? では、ビジネスしましょう〜

恋愛
 婚約者の王太子からニセ聖女の烙印を押された私は喜んで神殿から出ていった。なぜか、神官長でエルフのシンも一緒に来ちゃったけど。  私がいなくなった国は守護していた結界がなくなり、城は魔物に襲来されていた。  是非とも話し合いを、という国王からの手紙に私は再び城へ。  そこで私はある条件と交換に、王を相手にビジネスをする。 ※小説家になろうにも掲載

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

処理中です...