ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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劇団は一度崩れると地獄

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「と、とりあえずスケジュールの方は俺が調整しておきますね。コラボについて俺に相談してください」
「あ、ああ。よろしく」
「じゃあ、魁星はアンニーズさんとお茶でもしておいでよ」
「ここにきて突き放すの!? し、知らない外人さんと二人きりはきついよ!」
 
 思わず松田と顔を見合わせる。
 だが、すぐに魁星の方へと向き直る。
 
「いや、お前事前にメンバー候補と会話できるなんてなかなかないぞ」
「そうそう。俺の時はもう最初からメンバー決まってたし。なんならいきなりリーダーやってね、だったし」
「ヒエ……」
「おや? なにか不満なことでも?」
「「「ヒッ」」」
 
 突然聞こえた声で肩が思い切り跳ね上がる。
 ここは事務所の廊下なので、社長がいるのはなにも不思議ではない。
 しかし、ちょうど結成時の話をしていて、聞きようによっては社長への文句のようにも聞こえなくもないので、驚いてしまった。
 
「いや、あの別に社長に文句はないんですけど……」
「そうですか? 不満ややりたことの希望があるなら、気軽に教えてくださいね。改善や善処をしますから」
「は、はい」
「それはもう」
「淳も今年の夏の陣が終わったら、買い取ったミュージカル劇団のメンバーと顔合わせしましょうね。あまり大きくない、愛好家の集まりのような劇団なのでメンバーの入れ替えは今行っている最中なんですけれど」
「ほ、本当にミュージカル劇団買ったんですか!?」
「まあ既存の劇団を買った方が一から作るよりは早いので? まあ、人間関係破壊し尽くす過程は未成年に見せられない有様なので落ち着くまで待っていてほしいのが本音なのですが」
「そ、それは……!」
 
 頬に手を当てて、笑顔でものすごくえげつないことをおっしゃっている。
 それはそうだろう。
 すでに人間関係がある程度できあがっている劇団を買い取るというのは、イコール上の上ができるということ。
 今までは劇団長がトップだったのが、その上にスポンサーができる。
 劇団長は好き放題できなくなるが、その代わりにお金に困らなくない。
 ミュージカルの愛好家上がりの劇団なら、プロのミュージカル劇団に鍛え直すのにメンバーの入れ替えや講師を招いた授業など、カジュアルでミュージカルを演じるのを楽しみたかった層の団員は間違いなく離れていく。
 だが劇団長はスポンサー付きのプロの劇団になることを望んだ。
 今、相当荒れているのだろう。
 それが落ち着くのはある程度カジュアル層が抜け、団長のやり方についていけない者が抜け、新たに入ってきたセミプロの団員とのすり合わせ、人間関係に適応できた者が揃った頃になる。
 その間の人間関係……想像しただけでも地獄――!
 おそらく多くて七割、八割が入れ替わり辞めていく。
 ヘタをしたら人間関係で疲弊した劇団長も飛びかねない。
 社長、そんなことは百も承知。
 わかった上で劇団を買い取ったし、原型を破壊し尽くすのも覚悟の上。
 こういうところ、経営者らしい残忍さが垣間見える。
 
「まあ、劇団を育てるのも初めてなので、劇団長が飛んだら晴日はれひくんに任せましょう。彼、自分の劇団ほしいって言ってましたし」
「それは……始めからリセットされてしまうのでは……」
「その時はその時でしょう」
 
 晴日くんとは舞台俳優兼舞台作家の甘宮晴日あまみやはれひのことだ。
 元劇団スター☆コスモで活動していたが新しい舞台作家と演出家の二人とそりが合わず、大喧嘩の末鶴城の伝手で春日芸能事務所にきた。
 現在は俳優枠で活動しており、時々知り合いの劇団に台本提供している。
 劇団スター☆コスモには淳も在籍していたので、甘宮のことは知っていたが春日芸能事務所に在籍してからも会ったことがない。
 
「スイ、スイモ、オ茶飲ム? ゴ一緒スル?」
「お茶ですか? いいですよ。アンニーズ、魁星とエアリムとは話しましたか?」
「yes。アー、デモ、エアリム、帰ッタネ。ジム行クッテ」
「んもう、ジムならうちのビルにも入っているのに。淳と梅春はレッスンに戻っていいですよ。上総は今日撮影の仕事が入っているので、お休みですが」
「そうなのですね。わかりました。梅春さん、行きましょうか」
「あ、ああ」
「え、ジュンジュン行っちゃうの?」
「魁星はぼくとアンニーズとお茶ですよ。色々聞きたいことがありますから」
「ひう」
 
 にっこり微笑む社長にビクッと肩を跳ねさせる魁星。
 そのまま有無を言わさず事務所のカフェテリアに強制連行。
 まあ、時間があるならしっかりメンバーとの関係性を高めていけばいいと思う。
 淳なんて「今の淳にはこの二人を御せないですね」と言われた。
 実際今も先輩二人を制御できているかと言われるとできてはいないと思う。
 ただ、梅春や石動の事情を聞いたあとだと、無理に制御などせず最低限の手綱だけ握っていればいいかなぁ、と悟った。
 特に石動は誰かの指示におとなしく従うタマではない。
 むしろあの人は自由にさせておいた方が魅力的だ。
 
「あれ、知り合い?」
「そうです。星光騎士団の同期ですし、今仮所属ですね。新グループのメンバー予定だそうですよ」
「新グループ!? 俺たちまだデビューしてないのに!?」
「再来年を見据えてのことみたいですよ。でもまだメンバー未定みたいです。前回の候補の人たちはアイドルやりたくなさそうで再考になったんですよね」
「あ、あ~~~。まあ、できればやりたくない人もいるよなぁ。俺もVtuberだからできるとこあるけど、生身だったら無理だった。そもそもやりたくなくて普通科に転科したのになんでまたやらなきゃいけないんだよって思ったもん」
「まあ、そういうことを思う人もいますよね」
 
 残念ながら。

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