ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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魁星、事務所参戦

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「さすがに淳は知っていましたね。よかったです」
「は、はあ」
「京一郎、椛、この子たちは音無淳おとなしじゅん花房魁星はなぶさかいせい。魁星は今日から君たちと組んでもらいます。グループ名は『Repressionレプレッション』」
「「「「!?」」」」
 
 思わず体が硬くなる。
 魁星の方を振り返ると、魁星も驚いていた。
 研修生のうちからプロデビューを視野にグループを組む、ということなのだろうか?
 
「どういうことですか? 社長」
「はあ? 俺、こいつら両方知らねぇんだけど?」
 
 早瀬も廣瀬も双方嫌そう。
 魁星も知らない先輩二人に挟まれて非常に居心地が悪そうだ。
 
「平定を冠るグループです。狂乱を冠る『Frenzyフレンジー』と対なす存在としてデビューしてもらいたい。魁星は現役ですが、二人ともアイドル経験はあるでしょう?」
「それは、まあ……あります、けれど……」
「あるが……それとまたアイドルをやるのは――」
「売り方は事務所に一任してほしいと契約していますよね?」
 
 社長が言うと二人とも口を噤む。
 まあ、それはそう。
 事務所に所属しているということは、自分のマネジメントを事務所に一任するということ。
 そう言われたら誰もなにも言えない。
 
「現在の業界で一番知名度を取りやすいのは『アイドル』であることには間違いない。特にIG夏の陣、冬の陣は注目度が極めて高いです。まずは知名度を高めて需要を増やすのが手っ取り早い。そして来年の夏の陣、うちはBlossomブロッサムが出せません」
 
 魁星がその意味を理解できずに淳や社長を交互に見る。
 Blossomブロッサムはおそらく、今年の夏の陣で殿堂入りになるだろう。
 つまり“春日芸能事務所”として今年の冬はIGに出せるグループがない。
 来年デビューするFrenzyフレンジーとともに、対になるグループがあるとそれはそれで話題性が出るだろう。
 なるほど、と淳も納得する。
 その話題性があれば、IG夏の陣と冬の陣を二つのグループで競い合うという別の話題性が生まれるだろう。
 集まりの悪いマルチタレントタイプのFrenzyフレンジーと、Blossomブロッサムを踏襲した正統派なRepressionレプレッション
 確かにオタクは推しのために燃える。
 対抗馬がいれば尚更――。
 
「……社長ってオタクのこと金を落とすおもちゃか何かだと思ってます?」
「いやですねぇ。ビジネスの基本ですよ」
 
 ニコニコ笑って言い放つ。
 不満げだった早瀬と廣瀬コンビ、顔を見合わせてから溜息を吐く。
 
「だが、俺は……ようやくモデルとしてやっていけると思ったのに……っ」
「はあ? なにそれ。アイドル業バカにしてる? アイドルやってたこともあるくせに?」
「っ!?」
 
 この声は! と、振り返ると腕を組んだ神野栄治こうのえいじと、目を細めた鶴城一晴つるぎいっせいが立っていた。
 サーっと血の気が引いていく早瀬&廣瀬。
 
「こ、神野先輩……」
「つ……っ鶴城先輩……!」
「お前名前なんだっけ? ずいぶんアイドル舐めたこと言ってるじゃん。そんな舐めたこと言うようならやらない方がマシじゃない? 事務所の売り方に文句言えるほど実力あんの?」
「う……」
「俳優も同じですぞ。モデルよりは需要も多い職業ですが、その分役は奪い合い。いくら昨今のドラマや映画の役柄を事務所のゴリ押しで取れるとはいえ、自分に実力がなければ役をこなすことなどできますまい」
「そ……それは……」
 
 先輩たちに言われて、ぐうの音も出なくなってしまった二人。
 社長には言い返せるのに、先輩には頭が上がらないってどういうことなの。
 
「で、こいつらも後輩ってこと? もしかして躾に来てってこいつら? やなんだけど?」
「まあ、そう言わずに。今見た通り僕の言うことは聞いてくれないので」
 
 先輩たちにジトっと睨まれた早瀬と廣瀬コンビ。
 事前にこの先輩コンビを呼んでおく辺りがさすが社長。
 ちなみに神野はモデルの仕事も間違いなく増えている。
 いくつかある月刊のファッション誌に、必ず数ページの特集が組まれているので神野栄治オタクは破産しそうだ。
 鶴城も来月から舞台の仕事が始まるので、役者としての活躍が如実に増えている。
 アイドルの仕事は綾城と甘夏が担当しているので、二人はグループの仕事以外自分の本来の仕事の方に注力していた。
 社長が言いたいことは、つまりそういうことだろう。
 
「後輩が増えるのはよいことではないですか、栄治。早瀬くんは高校の時の後輩ですし、廣瀬くんは劇団の後輩なので私は教育を手伝うのは吝かではありませんよ」
「俺は可愛くない生意気な後輩はさっさと蹴落としたいんだよね」
「そ、そんな……! 自分、神野先輩のことは普通に尊敬してますけど!?」
「はあ? その割にはアイドル舐めてんじゃん。東雲学院芸能科卒業しているくせにそんな舐めた態度あり得ないよね? いくら好きでやってたわけじゃないからって、自分がやってきたことを蔑んで否定するってどういう神経してるの? 理解できないよね?」
「う……」
 
 辛辣。
 
「まあ、こちらとしても嫌々やられるのは迷惑ですしね。それじゃあ、仕方ないですね。早急にデビュー準備をさせたかったんですけれど。それなりに実力のある人たちを選んだつもりだったんですが、仕方ないですねぇ。東雲学院芸能科の方からまだ事務所所属していない実力のある子を二人スカウトしてきますか。淳、魁星は誰か心当たりありますか?」
「「え」」

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