ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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今夜限りの綾花復活

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「勇士隊も、そうですね。ファンの方にナンパして、リアルで会いたい、というようなことはありえないですね……」
「アイドルとファンの垣根を超えるようなことはしないのでー。っていうかー、授業で炎上するからマジないよーって習うしー。っていうわけで勇士隊うちもないっすねー」
「魔王軍もあり得ないです。我々の名を騙るような人がいたら偽者と思ってくださって構いません」
「魔王軍も勇士隊も、他のグループにも周知させておいてくれるかな? 後輩たちにも学院に報告してもらうようお願いしておいたんだけれど、三大大手グループから言ってくれるとみんな聞きやすいと思うので」
「「はい!」」
「え、返事良……」
 
 緋村はともかく千景までいい返事。
 これはもう、綾城の人柄だろうか。
 後輩や客席への注意喚起もしたので、「それじゃあせっかくステージに集まったし、久しぶりのライブしていこうか~」と花崗みかげに話しかける綾城。
 客席と淳と千景から盛大な声援。
 サイリウムと推しうちわを取り出してひゃっほー状態。
 周に「淳もですよ」と突っ込まれてしょんぼりしながらサイリウムと推しうちわをしまう。
 ちなみに推しうちわはSBO内の東雲学院芸能科公式ショップで購入した、星光騎士団箱推しうちわである。
 
「わし久しぶりや~。下手でも怒らんといてね」
「僕はレベルでごり押しするね」
「ああ……珀ちゃん、何気に高レベルやしね。バフの暴力かませるわ」
 
 SBO、ファーストソングのステージでライブを行うと、サーバの全プレイヤ――にバフが付与される。
 レイド戦なのでは東雲学院芸能科アイドル全体に出演依頼が来るが、そういえば最近レイドイベント自体がない。
 時折こうして東雲学院芸能科のアイドルがライブの練習がてらステージを使うくらいだ。
 高レベルの順と綾城のバフは、時間が長く追加付与効果のレベルも高い。
 
「それじゃあ、僕とひまりちゃんのコンビ曲でSunflowerサンフラワー! 久しぶりに歌おうか」
「お、せやな」
「「ギャアアアアアアアアアアアア」」
「うるさ」
「ドルオタコンビうるさいですよ」
「次の曲はみんなで歌おうね」
 
 ドルオタコンビ、絶叫。
 二度と見られることのないと思っていた綾城と花崗のコンビが、また歌うのだ。
 そんなことを言われたら、ドルオタ――特に東雲学院芸能科のドルオタは興奮が治りそうにない。

「だってヤバいですよ! 綾城先輩と花崗先輩のコンビ『綾花』が今夜限りの復活ってことですよ!? お二人が卒業して『綾花』で歌われることは二度とないと思われていたお二人のコンビ曲が、またこのお二人で歌われるなんて今夜限りの奇跡じゃないですか! 今日この場に居合わせた奇跡に感謝しかありませんよ! ありがとうございます! ありがとうございます!」
「本当に! まさに! 奇跡です! まさか、また星光騎士団をIG夏の陣準優勝に導いた伝説のコンビ『綾花』のパフォーマンスを見られるなんて……感無量です……! 録画していいですか……!?」
「ええよ~」

 にこー、とあっさりお許しをくださる花崗に、ドルオタ大歓喜。
 ぎゃあああぁ、と叫び、客席に降りて撮影準備。
 そんな二人を眺めてから、客席に向けて花崗が「他の人も撮影OKやで~。その代わりSNSなんかに動画投稿する時は、わしと珀ちゃんの名前とSBOってゲームの名称も入れてぇーな?」と手を振る。
 その発言に他の観客からも「ぎゃぁぁぁあ!」という歓声。
 本人公認の撮影と動画投稿OKなんて、ゲームの中でしか許されないことだ。

「その代わり今言うたルールは守ってぇな? 約束やで?」
「……うんうん。観客席からのお返事、いいお返事だね」
「珀ちゃんもええん?」
「いいよ。ゲームの中だからね。現実の東雲学院芸能科の定期ライブでは絶対にできないことなので、そこはゲームの中と一緒に考えないでください。SBOというゲーム内だからできるサービスですよー」

 綾城も客席に注意喚起。
 客席からも「はーい」と素直な返事が聞こえてくるので、綾城と花崗もにっこり。
 最近厄介客の多い定期ライブに比べたら、SBO内のお客さんのなんとお行儀のよいことか。
 こうしてお行儀がいいのなら、定期ライブももっとお客さんに自由なサービスが提供できるのだが……。

「では、今宵限りの特別な復活ライブ――いくよ、ひまりちゃん」
「もちのろんやで、珀ちゃん。なんや懐かしゅうなっとるけど……ま、ちょっと間違っても許してぇーな?」

 前奏が流れる。
 ドルオタ、感極まって前奏だけで涙。
 卒業生のコンビ復活なんて、本当に奇跡なのだ。
 まして二人はモデルとアイドルという、別の道を歩んでいる。
 ツルカミコンビ復活の時も狂喜乱舞したけれど、卒業という悲しみからまだ二ヶ月で一夜限りの復活は傷も癒えないうちの出来事なので喜びもひとしお。

「「~~~♪」」

 今夜が終わればきっと今度こそ、いやもしかしたらもう二度と見られないかもしれない綾花コンビ。
 二人のパフォーマンスをまた見られるなんてドルオタ口を覆って、涙を流しつつ撮影はしっかりかっきり。
 綾城の滑らかで穏やかな聴き心地の良い歌声と、花崗の溌溂とした明るくちょっとやんちゃな歌声のハーモニー。
 涙が出るほど綺麗だった。

「さ、最高すぎるぅ……」
「ううう、ううう……綾花よ永遠なり……」

 てぇてぇがすぎた。

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