ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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MV制作打ち合わせ

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 インパクト重視としても、これはもうデュラハンでは?
 和風だけど。
 
「説明文を読むと……オタク文化にかぶれたデュラハン。もっとたくさんのオタク文化を摂取するためにVtuberになった。歌やアイドルが大好き。……アイドル好きなんですね」
「らしいね。俺はデビューする女子について話したことないから、どんな子なのかわからないけど」
「まあ、なんかこの女騎士っていうのも全身鎧に包まれてて女騎士っていう説明文がないと女ってことすらわかんねぇな」
「ですねぇ……」
 
 もう一度画像を見ると、女騎士アリカ・ルフーレンという方もガッツリ兜をかぶっているゴリゴリの鎧に包まれており名前と説明文で『女性』らしい、としかわからない。
 見目が売りの一つのはずのVtuberでこんなにゴリゴリに姿を隠していいものなのか?
 
「むしろ隠すことで民衆の興味や考察を引き出そうって感じか?」
「多分」
「なるほど」
 
 人間、隠されている方が好奇心をそそられるものだ。
 それを上手く利用しよう、ということなのだろう。
 確かに片方が生首だけなのを見ると、もう片方もなんかヤバいんだろうな、と思える。
 
「お待たせしました!」
「あ、来た」
 
 MV制作会社の人が来たので、タブレッドを閉じる。
 一緒に来た槇も、一緒にMVの流れの確認をしていく。
 なにぶん来年の夏の陣で十二曲は新曲を歌うのでその分MVも多い。
 十二曲のうち五曲はアニメーションで製作されることになっているが、淳と石動はリアルに踊らなければならないので現場に赴いてパフォーマンスを行う。
 しかも場所を変えて別のパフォーマンスが複数回必要なので、結構時間を取られる。

「では撮影中、松田くんは通常レッスンの方を優先してもらいますね」
「ぐ……。りょ、了解しました」

 松田だけはブランクがあるので体力作りとボイトレを重点的にしている。
 それをまだ継続しろ、と。
 まあ、社会人として働きながら、なので仕方ないところもある。

「映像を合成しても大丈夫ですけど」
「それも交えながら作っていただけると聞きましたが?」
「あ、そ、そうですね」

 セットのあるスタジオでの撮影もしつつ、背景を単色にして合成での映像編集する部分もあり、で作られるらしい。
 淳も両親がそういう仕事をしていたので、言ってることはわかるのだがそれを演者側に選ばせようとするところはちょっと理解しづらい。
 演者にこだわりがあるなら話は別だが、そうでないのなら作り手が演者をいかに魅せるか――それが作り手の腕の見せ所だと思うのだが。
 一応演者の意見を聞いてくれた、というのは悪いことではないので槇の圧かけは一応止めておく。

「なにも質問がないようであれば、明日の夕方から撮影を開始したいのですが」
「はい、元々スケジュールに組み込んであるので大丈夫です。ね! 上総先輩」
「まぁな」

 松田はどのみち3Dで映像合成なのと、昼間から撮影ができるので問題なし。
 他の打ち合わせも淡々と終わり、あっという間に一時間。

「最後に、来年のデビューPVの撮影についてなのですが」
「あ、もうそういうのも撮影してしまうんですね」
「はい。来年デビュー時に髪の長さなど維持するか変えるかは事務所の方からの指示に従っていただいて……」
「なるほど」
「音無くんだけはギリギリまで撮影を待っていた方がいいかもしれないですね。君は結構印象が変わりますから」
「え? あ、わかりました?」

 そうか?
 自分ではよくわからないが、石動に「確かに身長伸びたからな~。成長期」と言われて、ちょっと半笑いになってしまった。
 シンプルに嬉しいやつ。
 確かに三センチ伸びました。
 今も伸びています。
 つまりもしかしたら来年は171センチになるかもしれない。
 男子の成長は二十歳まで続くというし、180センチも夢ではない……かもしれない。
 日本人の平均身長は170センチ前後だけれど。
 むふー、とドヤ顔になる淳に、石動が「まあ、俺もお前の撮影ギリギリは賛成」と頷く。
 MVはメインが歌なので、容姿の変化はあまり問題ではないが、デビュー告知PVはそうではないのでそれは仕方ない。

「アニメーションの方は別会社なんだっけ?」
「はい。個人でアニメーションを制作している方にイラスト別依頼で依頼していますね」
「アニメーション、ちょっと楽しみです」
「明日は完成した絵コンテが届くと思いますから、お見せしますね」
「はい!」

 ただ、やはり色気を振り撒く『Paralyzeパラライズ』は不安だ。
 MVは松田もとい松竹梅春に色気を出させるためにアニメーションになっているので、夏の陣でどれほど色気を出せるか……。

「では、我々はこれで。明日からよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「で、このあとどうする? あと一時間あるが」
「デビュー日の話でもします?」
「――決まったのか?」

 来年デビュー、というのだけは決まっていたが、具体的な日付はまだ決まっていなかった。
 それが決まったのだろうか?

「はい、決まりました。Blossomブロッサムは五月四日、SBOでデビューライブを行いましたがFrenzyフレンジーは三月十日にSBOでデビューライブを行います。そして、十二月二十五日にシルエットの公開、一月二日の中央区交差点大型モニターで『一人目』の発表、二月二日に『二人目』の発表、そして三月二日に『三人目』の発表となり……十日に初ライブ……という流れになる予定ですね」
「へ……へえ?」

 一人ずつメンバーを発表していくスタイルらしい。
 それは――ドルオタとしてはかなり気になる。
 先程の鎧の女騎士Vtuberのように、少しずつ顕になる情報で人々の好奇心や考察したい心を刺激する戦略らしい。

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