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レッスン室に舞い降りた悪魔

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 ゴールデンウィークも終わり、月も半ばになり五月の定期ライブに向けて柳と鏡音の練習が再開した。
 柳、半月自宅監禁状態だったせいか、練習への意欲がすごい。
 そして――
 
「淳、怪我はどうですか?」
「うん、だいぶよくなっているよ。跡も残らないだろうって」
「よかったです」
 
 そう言って心配してくれた周の視線は、包帯の巻かれた手首に注がれていた。
 幸い帰宅してからお風呂に入る前にしっかり洗浄と消毒したので跡は残らない、と病院で診断を受けたのだ。
 ただ、その分広範囲をやられていて、包帯の巻かれた範囲もかなりの広さ。
 見た目は重傷に見えるが、若さ故に結構傷が塞がるのは早かった。
 
「しかし、なんというか、あのLARAという子には困りましたね。鏡音くんにもつきまとっていたようですし、事務所からの注意のあともそういう行動を行うとは」
「うん、本当に困ってる。あの子の両親、猫可愛がりだから言っても無駄な気がするし……かと言って警察沙汰はこっちにもダメージあるし」
「ふむ……」

 はあ、と溜息を吐く。
 なんとかしなければならない、と思いつつどうすればいいのかわからない。
 すると周は「ならば、化け物には化け物をぶつけましょう」と言い出す。

「どういうこと……?」

 と聞き返していると、レッスン室に宇月と後藤が入ってきた。
 宇月がパチパチ拍手しながら「はいはーい、練習中断してぇー。定期ライブについてお話しするよ~」と近づいてくる。

「先輩、今回の定期ライブ、どうなるんですか? なんか、すごい大変なことになっているんですよね?」
「そうー。ナギーとドカてんは『決闘』初めてだから、そこから説明するね。はい、ナッシー、説明よろしく」
「わかりました。『決闘』というのは――」

 絶対説明めんどくさかったんだな、と思いつつ『決闘』と『侵略』、『下剋上』についても説明する。
 まあ、最近は『決闘』もそれほど多くはないのだけれど。

「で、今回はそのWalhallaヴァルハラというグループが、星光騎士団、勇士隊、魔王軍の三大大手グループに『決闘』を申し込んだ、というわけですか」
「そう。で、当然ルールを設けないと『決闘』にならないわけよ。アホのWalhallaヴァルハラはそこを理解してるようで理解してないんだよねぇ。リーダーの石神真新いしがみまさらを呼び出して吊し上げつつ『なんか希望あるぅ?』って聞いたら『あうあう』って言うだけで特に提案もないしぃ。仕方ないから、ちょっと派手にしてあげようってことで総当たり戦を提案してあげたのー」

 とか言い出した。

「………………え? えーと、そ、総当たり戦、ですか? そ、そ、総当たり戦……?」

 淳、思わず二回聞いてしまった。

「うん。総当たり戦。いいよねぇ? 別に。Walhallaヴァルハラの子たちはプロだしぃ? 僕たちを売名行為の踏み台にしようってんだからさぁ。いいよねぇ? フルボッコにしても。ねぇ?」

 こくこく、と後藤が頷く。
 顔から血の気が引く、二年生ズ。
 多分そのヤバさを理解していない一年生ズ。
 ただ、宇月の笑顔がヤバいのは理解しているので特になにも発言はしない。
 プロとはいえ、デビューしたてのWalhallaヴァルハラたちを、大人気おとなげもなく五年ほどIG本戦常連となっている三大大手グループが囲ってフルボッコしようっていうのだから鬼畜だ。
 いや、喧嘩を売った相手が悪い。
 多分本当に若さ故に東雲学院芸能科の三大大手グループの知名度と実力を、舐めていたのだろう。

「で、プールとセンブリ茶も届いたわけなんだけど」
「エッ……本当に注文したんですか? ……プールを?」

 周、割と本当にドン引き。
 が、宇月の「当たり前じゃん」という笑顔。
 なにも言うまい、というスン……表情になる周。

「で、勝利報酬なんだけど、あいつらは目立って知名度がほしい。IG本戦出場権利を寄越せとか言ってきたの」
「え? なに言ってるんですか?」
「って思うよね。まあ、天地がひっくり返ってもそれは無理なので、そこは茅原と一緒にお説教してきた」

 多分それで「あうあう」言っていたんだろう。
 だがさすがにそれは高望みしすぎだ。
 で、そのお説教のあとに一年間勝った方の舎弟になる、という条件を出したらしい。
 ――蓮名が。
 当然宇月と茅原と麻野が顔面でブチギレを訴えたが、蓮名曰く「だってその方が強そうで目立つだろ!」と言うので「それもそうか」と納得したとのこと。

「「「………………どういうことですか」」」

 全然わからない二年生ズ。
 つまりね、と宇月が説明してくれたところによると、宇月も茅原も三大大手グループの下に小間使い的な存在がほしかったらしい。
 確かにリーダー全員忙しそう。
 副リーダーの後藤も忙しそうすぎて、宇月の負担も大きい。
 手伝いたくても、淳も魁星も周もそれぞれ忙しいので、サポートしてくれる存在がほしい、ということ。
 なるほど、と納得してしまう。
 そのくらい、各々忙しい。

「アイツらも東雲学院芸能科のやり口を教われるし、一石二鳥でしょ。アイツらに勝ち目ないし、うっかりなにかの間違いでアイツらが勝っても弟子入りさせてくださいって感じで舎弟になるってことになったから」
「そ、そうなんですか……なるほど?」

 完全に八百長ではないか。
 いや、勝敗はやはり当日ファンの人たちが決めることだけれど。
 ただ、勝っても負けても結果が決まっているのなら、ある意味安心して挑める。

「まあ、負けたらプールのセンブリ茶だけどね」

 稀に見ぬ邪悪な笑みに、魁星が涙を滲ませて淳と周の背中に回った。


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