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色気の相談

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「――っていう感じで、今度から“色気”の勉強をすることになりそうです」
「うへぁ……大変だねぇ」
「色気、ですか……。我々もそういうものを出せるよう、練習するべき時期なのでしょうか?」
「うーん。どうなんでしょう? ミオ先輩」
「えー、ないよりはあった方がいいんじゃない?」

 と、SBO内でシーナとミオ、ルカが第五の町『ファイブソング』近くの草原を歩く。
 この近くのダンジョンでレベリングする予定なのだが、先にログインしている鏡音――マギと合流予定。
 その前に、今日のレッスンでのことを二人に相談してみたのだ。
 もちろんFrenzyフレンジーのメンバーについては伏せて。

「ミオ先輩は、そのー……色気とか出せるんですか……?」
「えー? まあ、出せと言われたら出すけど、それは受け手の印象の問題だしぃ。色気を出している、って受け取られやすい表情やポーズとか、そういうのを覚えてみたらいいんじゃない? 僕は『可愛い』を求められることが多いから、使う機会少ないんだけどね?」
「なるほど……?」
「そういうのはやっぱりひまちゃん先輩が求められる要素だからねぇ。あとは有名どころだとやっぱり魔王軍の卒業した朝科先輩とか雛森先輩とか檜野先輩だしぃ、去年のMVとか見て参考にしてみるといいかなぁ? あとシーナなら神野先輩の雑誌買うなら神野先輩の表情やポーズの真似とかしてみな~?」
「なるほど……」

 めちゃくちゃ参考になる助言をくれるミオ。
 そういうのはモデルの技術というやつらしい。
 そしてそういうモデルの技術はアイドルにも応用ができる。

「たとえばこう。表情だけ見ててね」
「「はい」」

 せっかくなので、とばかりにルカもシーナと一緒にミオのモデルの表情管理を見学させてもらう。
 目を細め、唇をほんの少し開いて綺麗に揃った歯の隙間からちろり、と舌先を見せる。
 首を少しだけ傾げた妖艶な笑み。
 悪戯っぽい、なんとも小悪魔ふうの微笑にヒュッと息を呑むシーナとルカ。
 いつもの少し子どもっぽいミオとはかけ離れた表情。
 なんだか謎のショックを受けてしまって、固まってしまう。

「って感じで僕の場合はどうしても『小悪魔系』になっちゃうんだけどね、同じ表情してもひまちゃん先輩だとエッロくなるの。コツは目を細くして、唇をちょっぴりだけ開く感じ。やってみ」
「「え!?」」
「どうせゲームの中だし、誰も見てないんだからほらー」

 と、促されて目を細め、唇を少し開けてみる。
 シーナとルカがお互いの顔を見合わせてみるが、なんかこう、ミオとは決定的になにかが違う。
 もう一言で言うと全然ダメ。

「ブフゥッ……!」
「ミオ先輩?」

 なにわろてんねん。

「じゃ、そのままちょっとだけ笑ってみて」
「こ、こうですか」
「うんまあ……見えなくもないけど……初めてならそんなもんかぁってレベルかな。ンフフ」
「ぐぬ……」

 なにわろてんねん。

「ま、できる限り鏡の前で練習してみなぁ? 表情管理は今年授業でもかなりやると思うけどぉ、自主練するとしないじゃ変わってくるし、表情を作るって朝や夜、顔を洗う時にもできる簡単に練習できることだしねー。特にルカは表情固いんだから、ギャップをつけていく意味でも今から表情筋柔らかくしていくといいんじゃない? 今年のIG夏の陣で二年生ズが歌う曲って激烈爽やか系だけど、今年個人曲ももらえるからそういうのにも活かせると思うよぉ?」
「個人曲……!」
「あれっていつ頃いただけるものなのですか?」
「基本的にIG夏の陣が終わってからだね。上半期はどうしても新入生の育成とIG夏の陣の練習に時間を取られるから、そもそも個人曲の練習が難しいんだよねぇ。でも、夏休み挟んだ下半期に入ると新入生たちも自立し始めてそこそこ戦力として使えるようになってくるから、二年生は自分の個人曲の練習ができるようになるの。ただ、個人曲ってお手本もないし、自分が一年と半年間学んできたものだけで歌わなきゃいけないからマジでなんかこう……どう表現するかがガチでむずい。あと、個人曲ってどうしても歌う機会があんまりないからさぁ……僕とごたちゃんも去年もらってまだ披露する機会がないって感じ?」

 ほあー、と口を開けたまま聞き入ってしまう二人。
 確かに、まだ宇月と後藤の個人曲は聞いていない。
 しかし、知らぬ間に完成はしているらしい。
 そんなことを言われたらドルオタは「え? 聞きたいんですけど。今月の定期ライブでお披露目していただけませんか?」と真顔で言ってしまう。

「うーん、夏の陣でのセトリもまだ決まってないしね~。っていうか、先にそれ決めなきゃまずくないー?」
「うっ……ま、まずいですね」
「ドカてんは今月お休みだけど、SBOの中でライブの練習はできるだけさせたいしねぇ。まあ、今年の一年二人ともなんか去年のナッシーみたいなスペックだから、なんとかなりそうではあるけど」

 それな。
 無言で去年の苦しみを思い出すルカ。
 あの『宇月美桜』にここまで言わせる二人に若干の恐怖すら感じるシーナ。

「あの二人、ライブ本番でポカしがちだったから、やっぱりライブやらせるべきだよねぇ。ドカてんと合流したら提案してみよっかぁ」
「そうですね」
「ドカてんの練習用に別のアバター作っておこうかー」
「なるほど。そうですね」

 色気の話はすっかり頭の片隅にも残らずすっ飛び、三人でのんびりとダンジョンの入り口に向かう。
 入り口に待つのは、先日とまるで違う装備に進化している鏡音ことマギ。
 この短期間でその装備は……とシーナが怯える。
 やはりゲームガチ勢、成長速度が異常。

「お疲れ様です」
「お疲れ~。今日一日でどんなレベルの上がり方したの?」
「レベル48まで上がりました!」

 なお、一番やりこんでいる音無淳、ことシーナのレベルは70。
 SBOのレベル上限は現時点で99。
 すでに半分近くに到達しているこの男のプレイ日数は約三日である。

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