ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

文字の大きさ
257 / 553

謎に修羅場

しおりを挟む

 微妙に嫌だなぁ、と思いつつも同行を許すことにしたLARA。
 幸いにも今の彼女の視線はマギに釘づけ。
 見たこともないような乙女顔でマギに色々質問しつつ、武器の使い方を教わっている。
 パーティーの中でレベルが二番目に低い、今日ログインしたばかりの新人だがプレイヤースキルは一番高いのでLARAの男を見る目は間違いないと頷くシーナとビッキー。
 しかしながらビッキーが若干面白くなさそうな顔になっているのに気がつき、「大丈夫?」と声をかけてみる。

「大丈夫なんですけどぉ……なんか……まだお礼も言えてないのにって思うと」
「まあ、今じゃなくてもまたあとで言えばいいんじゃない?」
「そ、そうですかねぇ? 時間が経つとちょっと言いづらくないです?」
「そんなこと気にする子じゃないと思うよ」

 一応そのようにフォローしつつ、ダンジョンを進むことにする。
 ダンジョン『壺』は下に行くにつれて広がっていく。
 中央に向かって伸びる階段も、途中で途切れてしまったり、途切れた階段から腐りで下の階段に続く階段がぶら下がっていたり、なかなかの迷路のようになっている。
 初心者向けのダンジョンなので、迷路は難しいわけではなく数人いれば誰かしらが正解に辿り着くくらいの難易度ではあるが、VRMMO初体験のビッキーは階段から階段に飛び移るのもビクビクしていて大変だった。

「ここって一番下にダンジョンボスがいるんだっけー?」
「そうですね」
「殺りますか?」

 ぶりぶりのかわい子ぶりっこを始めたミオに、ダンジョンボスと聞いて完全に目がアサシンのそれになるマギ。
 先程から仮面獣人が出る度に、経験者のシーナやルカやセイよりも早く反応して倒していくマギが、どうにもこうにも強すぎて怖い。
 LARAの好感度が果てしなく上昇し続けている気がするのだ。

「マギさん、本当に強い~! 今日初めてなんですよね? こんなに強いなんて、VRMMOはたくさんプレイしてるんですか?」
「フルダイブ型は、あんまりしてないんですけど……なんとかできます」
「かっこいい~! 今度リアルでもお茶しませんか?」
「いえ、しばらくはSBOでレベリングしたいので」

 断り方が斬新。

「えぇ~。じゃああたしも毎日SBOにログインします! でもでも、リアルでも一回くらい会ってみませんか!?」
「え、ええと……いえ……」
「LARAちゃんってば積極的ぃ。マギくんなんてリアルだと超絶オタクの超絶クソゲーオタクのクソ豚不潔ヤローだよぉ? アタシ一回会ってマジなしって感じだったもーん。お風呂一週間入らないとかザラって言ってたしぃ。ね?」

 と、そこでついにミオが動いた。
 リアルでも『クール系男前ゲーマーアイドル』というイケメンであるとバレないように、リアルとはかけ離れたゲーオタ像で煙に巻くつもりだ。
 わかりやすくマギが「え」という不本意な顔になるが、宇月美桜が怖いのでなんにも言えない。
 多分意図も理解していなさそうである。

「マギさん、リアルだとそんな感じなんですか?」
「えー……と……そう………………かも?」

 目を逸らすマギ。
 おおよそ「自分ってそんなふうに見えるのか」とでも思っていそうだが、振り返るとミオが目だけで「黙ってろよガキ」と意地悪く微笑んでいるので「なるほど、これは誰も逆らえない」と納得せざるを得ない。
 だがそれを聞いてもLARAはマギへ向ける目を変えることはなかった。

「そうなんですね~。まあ、あたしの料理でダイエットすればいいし、一緒にお風呂に入れば毎日お風呂も入れますし」
「な、なにを言ってるんですか」
「大丈夫です! イケメンを目指しましょうね、マギさん!」
「な、なにが?」

 あのマギがガチで引いている。
 その様子にミオですら「アイツヤバいね」と真顔になった。
 本名すらわからない、現実ではどこに住んでいるのかもわからない相手に「食事を作る、一緒にお風呂に入る」はヤバすぎる。

「ミオ先輩」
「なに?」

 スッ、とビッキーがミオの後ろに立つ。
 ミオよりも迫真の無表情に、ミオがビクッと肩を振るわせる。

「ここは“リアルの彼女は自分”って感じで倒しましょう。あの女」
「……あ……お、おう……な、なるほど……や、やってみる、ね?」
「はい」

 ここであえてシーナではなくミオにそういう演技指導を出すあたり、ビッキーがアレな気もしないわけではないのだが言ってることはなんとなくわかるのでミオも納得。
 こほん、と気を取り直して、LARAの反対側に移動して急に笑顔を作る。
 本性を知っているセイとルカはそんな笑顔にビクッと体を直立させた。

「ねー、ここまで言ったら察してくれなぁい? もしかして、他人のものでも知らぬ存ぜぬで略奪したい系? 性格性悪確定なんだねぇー?」
「……はあ?」
「……!?」

 右腕に腕を回して、突然そんなことを言い出すミオに話が聞こえていなかったミオに目を白黒させるマギ。
 可哀想。
 対するLARAは愛想のいい笑顔から突然“性悪女”の顔になってそれにも困惑を隠せないマギ。
 とても可哀想。

「なによ、あんた。マギさんとつき合ってんの?」
「同じパーティーなんだからそのくらい察してほしーい。察しの悪い女の子なんだね♪ LARAちゃんって♡」
「はあぁ?」

 ぶわ、と変な汗が噴き出すシーナ、セイ、ルカ、マギ。
 拳を作って応援するビッキー、口は出さない。
 こんなわかりやすく修羅場を作り出せるミオがむしろすごいと思うべきか?
 煽りスキルが高すぎる。

「っていうかー、助けてもらったから惚れちゃったとかなの? 単純なんだね♪ LARAちゃん♡ でも人のものに手を出すのはよくないってことくらいはわかるよねぇ? そのくらいは知ってるよねぇ? ねぇ?」
「そんなの嘘! 嘘だよね、マギさん! この女の勝手な言い分だよね!?」
「え……え……え……」
「やだー、怖ーーーい。すごい詰めてくるじゃぁん。こんな女、怖くてヤダねぇ、マギくん?」
「それは……ハイ」

 そこは「ハイ」って言っちゃうあたりがマギである。
 普通言わないよそこで「ハイ」は。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...