ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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明日はお披露目ライブ

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「成長速度バグってんのかこいつら」
「もう少しレベルアップしてもいいですね。来週からボイストレーニングを多めにしましょう」
「「………………」」

 ぜえ、はぁ、と肩で息をする柳と鏡音。
 周、リハーサルのはずなのに容赦がなさすぎる。

「これなら明日のお披露目は問題ないと思います。ですが、明日はこの講堂にびっしりとお客さんが入るのです。それを想像してみてもう一度やってみましょう」
「「も、もう一度……!?」」
「練習はいくらしてもいいと思いますよ。二人は淳と同じく体力も持久力もあるので、空き時間ライブにも二回は行けるんじゃないでしょうか。空き時間ライブを二回、SNSでの初ツブヤキ。この二つが明日の課題と思ってください。ツブヤキについては一応自分がチェックしますが、鏡音くんはSNS慣れしているでしょうから大丈夫ですよね。柳くんは個人のSNSアカウント自体初めてなんでしたっけ。事前に下書きは見せてくださいね。さて、それが終わったら来週のレッスンスケジュールについて説明します。来週からはIG夏の陣とゴールデンウィークのオーディションライブに向けたレッスンになりますので、辞めるなら今ですよ?」

 にこり、と微笑む周。
 それに対して「辞めないですー!」と叫び返す柳。
 鏡音も一応「はあ……やります」と水分補給のペットボトルの蓋を閉めながら立ち上がる。
 二人とも根性つよつよだ。

「でも実際初めてお客さんの前でパフォーマンスするとなると、結構頭ポーンってなるよね」
「そうですね。自分もお披露目ライブの時の記憶がまったくありません」
「ひ、ひえ……。先輩たちにそう言われると不安になるよう……円っちぃ」
「大会の時にでっかい競技場で観客に囲まれながらゲームするんですけど、それとは違うんですかね?」
「どうだろうな? それは明日、自分で体験してみるとわかると思うぜ」

 顔を見合わせる柳と鏡音。
 魁星が放送室に入り、「音入れるぞー」と声をかけた時、講堂に淳が入ってきた。
 淳の姿を見ると、顔をぱあ、と笑顔にした魁星と柳。

「ジュンジュン~! 今日もお休みかと思ったよ~」
「うんまあ……というか、みんなまだリハーサルしてたの? 全然調理室に来ないし、連絡も繋がらないから心配したよ」
「「あ」」
「調理室?」

 首を傾げる柳。
 反対に顔を真っ青にする魁星と周。
 その様子を見て嫌な予感で半目になる鏡音。
 もしかして、忘れていたのだろうか?

「もしかして忘れてたの? さすがに忘れるのはまずいよ? 今月、宇月先輩の誕生日月なんだから」
「そうだったぁー! ヤバいー!」
「け、ケーキは……! 間に合いますか!?」
「間に合う間に合う。宇月先輩がものすごく気を遣って、カップケーキにしてくれたでしょう? 後藤先輩も気を遣ってみんなが作る分は残しておいてくれたから、リハーサルは切り上げて着替えて調理室集合でお願い」
「わかりました、すぐに行きます!」

 特に焦った様子の二年生。
 一年たちは顔を見合わせつつ、リハーサル地獄から解放されたので言われた通り着替えて調理室へ。

「なにをするんですか?」
「星光騎士団はメンバーの誕生日月の定期ライブで手作りケーキをファンの人に振る舞うんだよ。今月は宇月先輩の誕生日月だから、カップケーキを作るの。二人とも料理は苦手だって言ってたから、宇月先輩は簡単なレシピのケーキにしてくれたみたい」
「ああ、そういえばそんなこと言ってましたねー。うわー……ケーキなんて作ったことないや。買ってきたやつじゃダメなんですか?」
「ダメというわけではないけれど、星光騎士団は手作りケーキっていうのが習慣になっているし、売り上げがものすごく伸びるからなぁ」

 特に売り上げ。
 誕生日月の星光騎士団手作りケーキの売り上げは、他の追随を許さない。
 グループの売り上げはシンプルにグループの活動費になる。
 他のグループも真似して手作りスイーツを販売したりしたこともあるが、クォリティと継続力で不動の一位を獲得し続けているのだ。

「つまり、グループの活動費稼ぎということですか」
「そう。今回は単価が低いから数を作らないとダメかなぁ、って感じ。あと、目玉商品があると、個人グッズの売り上げにもものすごく響く」
「なるほど……」
「じゃあ頑張って作りますね! えっと……なにからしたらいいんですかね!」
「柳くんには飾りつけをお願いしたいかな。アレンジが得意なんだっけ?」

 アレンジャー柳、やつを封じる術をすでに淳は考えついていた。
 要はアレンジしても許される部分を任せればいいのだ。
 調理工程に手出しさせなければ、なにも問題ない。
 東雲学院芸能科、星光騎士団のライブに来るファンは、アイドルの手作りスイーツが手に入るから来ているのだ。
 アイドルの手作りだから金を出すのだ。
 飾りつけ、盛りつけがカスでもそれはそれでアイドルの個性としてあたたかく受け止められる。
 淳も迷わず金を出す。
 なぜならアイドルの手作りだから!
 それが付加価値であって、見た目がゴミでもなにも問題はない。
 それで味が落ちるわけではないのだから。

「わかりました! 頑張ります! 任せてくださいー!」
「鏡音くんはオーブンを見ててくれるかな? 焦げたら大変だから」
「わかりました」
「ずっとじゃなくていいよ。時々で。それ以外の時間は出来上がった個数をメモしてケースに陳列しておいて。今回結構数を作るから」
「はい」

 そしてもう一人、まだ料理に自信のない鏡音には個数の把握を頼む。
 これも十分重要な仕事。
 淳の采配に周と魁星が尊敬の眼差しを向ける。
 できないなら、できることをさせればいいのだ。

(まあ、周が二人を調理研究部に入れてくれるから成長を見守ろう)
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