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星光騎士団新加入生(4)
しおりを挟む「つまり……歌が上手くないとゲームで遊べないってことですか……?」
「歌が上手い人とやるとバフの種類が増えたり、追加効果が付与されたり、バフのレベルが高くなったりするんだよ。他にも上手い人同士のハモりとかでも効果がアップしたりするんだ」
「なるほど……」
そこまで説明してからピーン、と思いつく。
見るからに鏡音は人生の中心がゲームだ。
ということは、鏡音を“アイドル”として育てるのなら『ゲームのために』と言えばかなりチョロ…………いや、納得して頑張ってくれるのではないか、と。
「ねえ、鏡音くん」
「はい?」
「プロゲーマーってかなり体作りをしないといけないんだよね?」
「はい……そう、ですね……」
「なら、アイドルのレッスンはピッタリだね! さっきも少し言ったけど、アイドルってダンスで体幹を鍛え、歌いながら踊る体力と持久力、歌詞を覚える集中力が必要。それってれゲーマーにも必要なものだよね?」
「……そう……です、ね?」
少し考え込んだが、すぐに顔を上げてこくり、と頷いてくれた。
やはりチョロ……いや、生真面目な子らしい。
あまりにもチョロ……いや、誠実な性格で、淳もにっこり。
「それに俺はプロゲーマーの人がインタビューを受けるところをテレビや雑誌で見かけたんだけど、これからプロゲーマーってどんどんメディアに露出していくよね?」
「ああ……はい、確かに……そうですね。うちのチームは五十嵐さんが広報担当みたいに、なってますけど……チームメンバー全員にインタビュータイムがきたり、しますね……」
「そういうインタビューの受け答えも、芸能科で学ぶことができるんだよ。そう考えると、鏡音くんが芸能科を志望したのって先見の明があったのかな? すごくピッタリだね!」
と、満面の笑顔の淳。
一拍の間、ぽかん……と口を開けたまま固まった鏡音だがすぐまた真顔になる。
そして「確かに……」と呟く。
ここまでの淳の誘導に気がつく星光騎士団メンバー。
特に宇月はヤバいものを見る目で淳を見ていた。
「アイドルなんてできるかわからないから、普通科に転科も考えてましたけど……そう考えると芸能科でちゃんと自分を鍛えた方がいい、ような気がしてきました」
「うんうん。それに東雲学院芸能科は去年のIGで知名度も上がったから、アイドルとして自分自身の知名度アップもしていけば、卒業後に注目度も上がるんじゃない? プロゲーマーってゲームプレイの楽しさを伝えるのも仕事でしょう? アイドルってそういう『楽しさ』を伝える“伝え方”も大切だからね。在学中、そういう伝え方の勉強もできると思うんだよ」
「そ、そうですよね……確かに……。人前に出るのが苦手だからと、五十嵐さんに任せきりだったけど……五十嵐さんに負担をかけすぎてますもんね……」
「ぶっちゃけうちの周もインタビューとか笑顔を作るの苦手だから、周を参考にするといいと思うよ!」
「淳!?」
親指を立てて同期をオススメする淳に、顔を真っ赤にして怒鳴る周。
実際、淳と魁星がちゃんと営業スマイルのできるタイプなせいか、三人で受ける仕事で周は非常にニュートラルな状態で出演することが多い。
笑顔が苦手でライブ中の必要な“笑顔”以外は作らないのだ。
そういう、笑顔が苦手なアイドルも『クール系』という感じで一定の需要がある。
なので、鏡音はそういう方向で売っていけばいい――と。
「はぁ、はぁ……鏡音くん絶対クールビューティーなイケメンアイドルになれるよぉ……! 歌とダンスとファンサのやり方、頑張ろうねぇ……!?」
「え……あ……え、は、はい……?」
「ヤバァ……ナッシーってアイドルの育成任せちゃダメなんじゃないのコレ……大丈夫?」
「まあ……でも……うん……任せてみたら……?」
宇月と後藤が若干の不安を覚えたようだが、ドルオタがアイドルを潰すような真似はしないだろう。
……若干の不安が……生理的なものすぎて無視ができないだけで。
「はぁ……。なんかちょっと萎えちゃった。まあいいよ。とりあえずナッシー、ガキどもにフロア案内してあげなよ。フロアの使用事項とか、注意事項もね! ブサーとクオーは今後の予定を話すから残って」
「「はい」」
「了解しました! じゃあ、柳くん、鏡音くん、フロアを案内するね。まずはロッカールームだね」
「はい!」
「は、はい」
◇◆◇◆◇
星光騎士団に新メンバー、柳響と鏡音円が入ってあっという間に一週間。
去年は五月のゴールデンウィークに春日芸能事務所主催のオーディションがあったが――
「今年もあるんですか」
「あります。まあ、今年は新規グループのデビューなどはないのですが、今日音無くんをお呼び立てしたのは来年の話です」
土曜日の午後、突然春日芸能事務所に呼び出された淳。
事務所に入るなり事務職員さんに「談話室にどうぞ」と案内された。
間もなく車椅子で社長が入室してきて、オーディションの話をされる。
それは去年、『Blossom』がデビューした時の――。
「来年……」
「はい。うちとしては来年、『Blossom』に続く新グループをデビューさせたいのです。一年間音無くんを見ていましたが、数値がかなり上がっていますね」
「すうち……?」
なにか検査した覚えがないので、心底不思議に思って聞き返すとタブレットを差し出された。
左が去年のもの、右が今年三月のものと言われる。
確かに数値が右肩上がり。
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