ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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合否の発表(4)

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 智子の合否が出た翌日、淳と智子は二人で中央区にある美容室を訪れた。
 智子は長かったツインテールをボブカットにする。
 淳も髪を少し切り、ツーブロックにして黒茶の髪をアプリコットに染めた。
 
「すごい印象変わった!」
「本当? これなら舐められないかなぁ?」
「うんうん! これならきっと舐められないよ。……確かに黒髪のままだと超絶優等生って感じで、気が強いにわかファンは押せばイケるって勘違いするもんね」
「そうなんだよね」
 
 髪型と色を変えた理由はもちろんそれだけではない。
 二年目に向けてイメージチェンジは元々考えていた。
 そこにBLドラマのオファーがあったことも関係している。
 役作りの一環というやつだ。
 アプリコットの色にしたのは、依頼された『犬上リツ』が元元芝犬だから。
 しかも茶色の、王道の色の。
 それに近い色にした。
 髪型も犬上リツと同じにしてもらい、かなり印象は変えることができたように思う。
 魁星は赤髪。
 周はグレーなので二人と色がかぶらなかったのも意識した。
 
「智子はなんかもったいない気はするけれど」
「いいのー。さすがにツインテールは子どもくさいしねー。将来的にはお父さんとお母さんみたいな、映像会社に就職したいから勉強頑張らなきゃ」
「……MVを作るついでにアイドルに会えるし?」
「まぁねぇー! でも、絶対私情は持ち込まないよ! アイドルは愛でるもの、推すものだもん」
「そこは疑ってないよ。智子は弁えているファンだもん」
 
 偉い。
 実際有言実行だ。
 明日は制服を買いに行く。
 智子が校舎も学科も違うけれど、同じ“東雲学院”に通えるのはシンプルに嬉しい。
 
「ち、智子ちゃん!」
「ぉん? ……あれ、LARAちゃん?」
 
 ゲッ。
 思っても口にしなかった淳は偉いと思う。
 スクーターに乗って通り過ぎそうになったところ、急ブレーキをかけて立ち止まり智子に声をかけたのは智子のストーカー……ではなく自称幼馴染の雨門あまかどらら。
 幼い頃は智子と同じくキッズモデルで競い合っていたものの、小学校高学年から急激に身長が伸び、それを武器に智子よりも雑誌やネット広告で引っ張りだこのいわゆる『大人っぽい美人』として売り出された。
 智子に対してもライバル意識が強く、仕事量が増えていくと智子と遭遇率が極めて下がり、だんだんと精神不安定になっていく。
 中学になる頃には、智子は劇団の方で演技をすることが楽しくなっており、モデルの仕事にはセーブをかけ始めてさらに遭遇率は下がる。
 彼女にはそれが面白くなかった――というか、ついに張り合う相手がいなくなって寂しくなってしまった。
 自分の仕事を減らし智子に粘着するようになって三年。
 智子、気づいているのかいないのか、完全にららのことはシカトして受験勉強を始める。
 
「わー、久しぶり!」
 
 笑顔で声をかける智子。
 残念ながら、淳の目には「久しぶり!」に対してワンパン食らっているららの姿が見える。
 しかし、そこは智子。
 追撃に余念がない。
 
「こんなところで会うなんて偶然だね! どうしたの?」
「うっ!」
 
 立て続けに二撃、三撃。
 方角的に音無家のある方向から“戻ってきた”と思われる。
 おそらく智子の合否結果が気になったのだろう。
 智子が北雲を受験すると聞いてから、ららも仕事を完全に後回しにして受験勉強に精を出していた。
 塾だけでなく、専属の家庭教師を雇ったり夏期講習で缶詰になったり。
 ぶっちゃけると、ららの成績は智子を大幅に下回る。
 そのくらいしても、正直北雲女学院に受かるのは非常に厳しかったはずだ。
 それでも智子との接触を増やすために、そこまで金をかけた。
 まあ、本人が稼いだ金をどう使おうが本人の自由だし、勉強のために使うのは悪いことではないと思うのでそこはそれ以上突っ込むつもりはないのだが。
 
「あ、そうだ。LARAちゃんは合否どうだった? 北雲受かった?」
 
 そしてここに来てららがもっとも知りたがっていたであろう話題を振る。
 ららも「よくぞ聞いた!」とばかりに涙を浮かべていた目を見開き、スクーターを下りて胸を張った。
 
「聞きなさい! 受かったわよ!」
「え! 受かったの!? すごーい!」
「あなたのことだから、高校に行ったらモデルに戻ってくるつもりでしょう? 北雲女学院芸能科なら、ちょっと勉強すれば私でも受かるわよ。当然でしょ」
 
 と、ドヤ顔。
 それを聞いて淳は心の底から「ああ……」と思った。
 どうしてその執着心を持って、智子と話をまともにしないのだ、この娘は……。
 
「え? 智子が志望したのは北雲女学院の普通科だよ。まあ、その普通科も落ちちゃったんだけど」
「へ……? なん……え? なん……なんですって……?」
「でもそっかー、LARAちゃんは北雲女学院芸能科に行くんだね! さすがー! これから先もモデルとして頑張っていくんだ。すごいね、頑張ってね! じゃあ、智子、今日はお兄ちゃんとお父さんとお母さんとケーキ食べるから! ばいばーい!」
「え……え……!?」
 
 そしてあえて自分が受かった学校については言及しない。
 わざとかな、と智子を覗き見るが「LARAちゃん、勉強頑張ったんだねぇ。平均点数25点だったのに」と微笑ましいものに対する笑顔を浮かべていたので淳はそれ以上なにも言わないことにした。
 それは、マジで頑張ったんだなぁ、と思ったので。


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