ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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合否の発表(2)

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「落ちたーーーー!」
「「「…………」」」
 
 その場で座り込みそうな智子を支えながら車に戻る。
 北雲女学院は四方峰町にある四高校の中で、西雲学園と同じぐらい偏差値が高いお嬢様学校。
 難関校だからこそ、智子は二年も前から受験勉強を頑張ってきた。
 塾でもA判定をもらい、満を持して受験に挑んだというのに――番号はなかったのだ。
 家族総出で智子の受験番号を、受験票を見ながら探したとも。
 だがなかった。
 誰も見つけられなかった。
 
「残念だったけど、それなら東雲学院普通科に賭けるしかないわ。向こうの合否結果は郵送でしょう? 近日中に届くと思うし、それを待ってから改めて考えましょう、ね?」
「う……うん……。いや、東雲学院普通科なら普通科で、『CRYWNクラウン』の岡山リント様と同じ高校と思えばテンションも爆上がりだけどさー……うぇーん……まさか北雲落ちるなんてぇ……」
「……残念だったね」
 
 本当に、心から。
 智子がゲームで息抜きしつつも、毎日しっかりと勉強をしていたのは知っている。
 あれほど努力を重ねてきた智子が受験に落ちるなんて、なにかの間違いであってほしい。
 というかなにかの間違いだろう。
 智子が頑張ってきたのをずっと見てきた。
 それなのに届かなかったなんて。
 
「本当に……」
 
 心の底から、しみじみと。
 
「あれ」
「あの! すみません」
 
 音無家の車に、智子と同い年くらいの女の子が三人、駆け寄ってきた。
 窓ガラス越しに声をかけられて、若干の嫌な予感。
 
「音無淳くんですよね? さ、サインください!」
「「「「……………………」」」」
 
 合否を見にきた子たちだと思うのだが、ハンカチで涙を拭う女の子が車に乗っているのは見えないのだろうか。
 ドン引きしたが、なにより今は学外。
 
「お兄ちゃん、応じることないよ……ルールも知らない子たちは智子が相手をするから」
「いや、大丈夫。智子ちゃんは涙を止めるのが最優先、ね?」
「ううう」
 
 頭をポンポン軽く叩いて、車から降りる。
 笑顔を作り、「申し訳ないのですが校則で公式グッズ以外の握手、サイン、写真はお断りしております」と丁寧にお断りを入れた。
 普通のマナーのいいお客さんやファンならここで引き下がる。
 が――
 
「えー! いいじゃん! せっかく会えたんだし!」
「そうそう、一緒に写真くらい撮ってよ!」
 
 あ、この子たちは“こっち系”か。
 と、笑顔のまま心の底から「めんどうくせぇー」と思った。
 そしてなにより――。
 
「は?」
「智子ちゃんは車の中にいていいからねー?」
 
 心なしか車の扉が内側からミシッ……と聞こえた気がした。
 いかん、ゴリラが完全覚醒したら終わる。この女子三人が。
 
「法的にも無断での撮影は動画、静止画どちらも肖像権侵害になります。ただし、東雲学院芸能科と提携しているSBO内のライブでしたら、撮影は可能です。ゲーム外での無断撮影は法的処置を視野に入れざるを得ないんですけど」
「じゃあサインちょうだいよ」
「転売問題がありますのでお断りしております」
「転売なんてしないって~!」
「じゃあ握手くらいいいじゃん?」
「握手会の開催が学院側から告知されることがあるので、東雲学院芸能科の公式アカウントをフォローしてください」
「この間の握手会、淳くんいなかったじゃんー!」
「それは本当に申し訳ないです。スケジュールが合わなくて」
 
 握手会は定期ライブで新規・中堅グループが中心になって行われる。
 三大大手グループは三ヶ月に一度。
 つまり星光騎士団、魔王軍、勇士隊が月毎交代。
 ただし、メンバーのスケジュールが合わないと会うことはできない。
 ファンとの触れ合いは、淳たちにとっても悪いことではないし嫌ではないのだ。
 むしろありがたい。
 だが、校外で会おうとするのはファンでもお客さんでもない。
 心底深い溜息を吐きそうになるが、それを飲み込んで「他のファンの方と平等に接する決まりですから、ご理解ください」と笑顔でお断りする。
 一度注意したが智子が後部座席から出てきて、淳の前へ立つ。
 
「智子」
「あなたたち、アイドルのファン、にわか? お兄ちゃんはアイドルだけれどまだ学生なの。学校でアイドル活動をしているだけの、ただの学生! 卒業したら普通の企業に就職するかもしれないし、芸能事務所に所属するかもしれないけれどだとしてもそれはそれで事務所の方針、ルールに従う! ファンがアイドルに自分の欲求を強要するなんて、ルールを守っているアイドルへの迷惑でしかないわ! ファンっていうのは推しに対して距離をしっかりとらなきゃいけないの。それがわからないなら三年ドルオタファンに学んでからにしてよ! あんたたちみたいな距離感わかってないドルオタのせいで、アイドルとファンとの間に事務所が入って距離が離れて行くことになったんだから!」
 
 若干八つ当たりが入っている気がしないでもないが、智子の言うことはおおむね事実。
 特に綾城の事件はアイドルとファンとの距離をさらに引き離したといえる。
 智子の圧倒的熱量に、三人の女子は押され気味。
 嫌そうな顔で睨みつけてくる。
 
「智子、淳、その辺にしなさい。そろそろお買い物して帰りましょう」
「そうだな。せっかく家族全員で出てきたんだし、なにか食べて帰ろうか?」
「そうだね。もう行こう、智子」
「むう~~~~~~~! フン!」
 
 プイ、と顔を背けて部座席に戻る智子と淳。
 女子たちはそれ以上なにも言えず、後ろに下がって発車を見送った。
 
「智子、まだ東雲学院の普通科は残っている。北雲は仕方ないが、東雲学院なら北雲よりも偏差値が低いのだからきっと大丈夫だろう」
「……うん……ありがとう、お父さん……大丈夫だよ……」
 
 ただ、若干淳は「智子なら東雲学院芸能科でもいい気がするんだけれどなぁ」と思う。
 シスコンなので。

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