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一年生と三年生(1)

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「BL営業ですか?」
「そうなんです。結構需要があるみたいで、練習風景写真で盛り上がっているみたい。どうする? このままBL営業を積極的にしてみる?」
「あ……あ~~~……ありますよね。確かにぼくもそういう妄想してしまいました。神野先輩と鶴城先輩は不動ですし、花崗先輩と綾城先輩のPCは妄想が広がりますよねぇ! 4センチ差なのも同じクラス、同グループ、相方感、なによりお二人とも顔がめちゃくちゃ綺麗! 並べば背後に花が咲いて見える! お互いを信頼し合って助け合っているのが伝わってきて、『Blossomブロッサム』デビュー後は綾城先輩の相方役に甘夏さんがいるので、それがまた三角関係なんじゃないか、とか妄想が掻き立てられるといいますか……」
「わ、わかる~~~~~!」
 
 千景とは、本当にこういう話が合う。
 わかりみが深すぎて首がもげるかと思うほどコクコクした。
 先輩たちの前では絶対に言えないけれど、三年生の先輩お二人は本当に捗る。
 絶対、ご当人たちには言えないけれど。
 
「後藤先輩と宇月先輩もいいですよね、体格差カプ代表といいますか」
「そうそう」
「しかも幼馴染」
「うんうん」
「後藤先輩の宇月先輩への過保護感も最高ですし」
「え、もうわかりみしかない」
「お二人とも」
「「あ」」
 
 真横に仁王立ちした周。
 紙袋を突き出し「そろそろ試着してリハーサルに行きましょう」と言われて「えへへ」と笑ってごまかす。
 
「まずい。後藤先輩の作った衣装というだけで尊くて申し訳がない」
「前回の時も思いましたけれど、後藤先輩、本当に衣装作り上手いですよね……! す、すごいです……!」
「わかる」
 
 確かに薄く、伸縮性のある生地。
 ズボンは側面に生地と生地の間にジャージなどに使われる通気性のいい生地が使われている。
 それぞれのイメージカラーとして淳を白、魁星を赤、周を青、千景を紫にしてくれてたらしい。
 カジュアルなスーツ風の衣装に、ポインセチアの花があしらわれている。
 髪は明日、美容師さんがセットしてくれるだろう。
 
「かっこいい~! なんかスーツって初めてかも! なんかスーツってだけで大人な感じがする~!」
「わかるー」
「そ、そうですね。スーツ、ぼくも初めてです……」
「自分もです。確かにズボンは横に線が入っているのに、上着がジャケットなのでとても不思議な感じですが……それがアイドル衣装らしいというか」
「腰布かっこよくね? なんか、ここは騎士っぽいつていうか!」
「うんうん」
 
 魁星が特にハイテンション。
 四人でその衣装を着たまま、野外大型ステージへリハーサルに行ってみる。
 三年生のコラボユニットメンバーが、ちょうど舞台横で休憩中だった。
 白基調の生地に、星空柄の襟。
 それぞれのイメージカラー、綾城は白、朝科は黒、石動は青、大久保は赤のペリースをつけた衣装。
 
「「神デザイン……」」
 
 思わず手を合わせて拝むドルオタ。
 あまりにも先輩たちが神々しい――。 
 
「一年のコラボユニット衣装もかっこいいねぇ~」
「大久保先輩、ありがとうございます! 先輩もすっごくお似合いです!」
「ありがとう~。……え? 綾城くんのところの一年生すごくいい子」
「でしょう~」
「石動くんのところの一年生も目がキラキラしててファンの子に見られてる時みたいで変な感じがする」
「うちのもドルオタだからー。そういう言い方やめてあげて。傷つきやすくて繊細なドルオタなの。アイドルにそんなこと言われたら土下座で謝り出すから」
「え。ごめん……?」
「すみませんすみません……! 下劣な底辺野郎がキモい目で見てしまって……! こんな目潰します今すぐに!」
「過激!?」
 
 やめてぇ、ごめん~と謝り始める双方。
 淳が「衣装が汚れちゃうから土下座はダメね」とすぐさま土下座しようとした千景を引き留めた。
 すぐさま先程袖に手を通したばかりの、後藤作品だと思い出して踏み止まる千景。
 
「う、う、う、う、後藤先輩のお手製の衣装を汚せないので目を潰すこともできないのですね……ううう……申し訳ありません……申し訳ありません、生きててごめんなさい、息しててすみません……同じ空気を吸わせていただいて申し訳ございませんんん!」
「怖い怖い怖い! 石動くん、この子なんか怖い! グロ耐性ないんだよ、おれ!」
「だーから、ことあるごとに“そう”なるからめんどくさいんだって。俺は“こう”なってる千景をさらに苛めるのが好きだから別にいいんだけど」
 
 ドS……!
 ガタガタ震えて泣く千景を見下ろしながら邪悪な笑顔を向ける石動。
 涙の質が一瞬で変化した瞬間を目撃してしまった。
 怖い。
 
「千景は泣いてる時が一番可愛いよなぁ。ふっふっふっ……」
「ひ、ひぃいいい……」
「よしなさい、石動くん! 年齢的に我々もうアウトだよ!」
「年齢!」
 
 綾城、さすがはコラボユニットリーダー。
 止め方が法的。
 
「淳くん、一緒に記念撮影しておこうか~♪」
「えっ!? い、いいんですか!?」
 
 と、淳に肩を組んでスマホのカメラを向けるのは朝科。
 リハーサル直後のはずなのにめちゃくちゃいい匂いがする。
 狼狽えつつ、こんなファンサチャンスは二度とない、と同じく笑顔でハイチーズ、をさせていただいた。
 
「その写真俺にも送ってください!」
「もちろん~! ……ついでに個人の連絡先も交換しちゃおうか」
「ええ……!? あ、朝科先輩の……!? え、でも、そんな……い、いいんですか!?」
「もちろん~。卒業したら他に接点もなくなりそうだし、なんなら同じ土俵の“アイドル同士”なのだからなにかあったらなんでも相談してほしいな。先輩として! いくらでも話を聞くから」
「っ、えっと、えっと、そ、それじゃあ……ぜひ!」
 
 確かにアイドル同士。
 ただ憧れ、崇拝するだけの存在だったけれど今や自分も“アイドル”。
 神野が憩と今も連絡を取り合っていたのを思い出すと、朝科と連絡先を交換しておくのは悪くないだろう。
 嬉しくて笑顔で答えると、朝科も大変嬉しそう。
 
「……朝科くん、我々年齢的にアウトだからね」
「わ、わかってるよ!?」
「?」
 
 綾城が半目で朝科に釘を刺す。
 淳と千景が首を傾げるのを、魁星と周が微妙な顔で心配した。


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