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コラボユニットライブ(6)

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「……だから正直……チームBの歌い方は悲しかったです。もっと、参加してくれていたアイドル、全員に……一節でもワンフレーズでも、歌う機会があれば……」
 
 あ、言っちゃった。
 淳があえて言わなかったこと。
 投票の終わった今のタイミングに回して正解だった。
 もしも投票中にこの感想が“作曲者”から出てしまったら、きっと投票に大きな影響が出ていただろう。
 
「でも、あれはあれでよかったよね」
「はい!!」
 
 と、淳がフォローすると力強いドルオタの叫びがついてきた。
 すぐさまそのまま「日守くんも花房くんも顔が、顔面がつよつよで……あれを客席から見られたなら……ハァハァ」と頭を抱えてしまう。
 いや、千景も一年生の中では顔面がいい上位なのだが。
 
「――千景くん」
「……!」
 
 少し、落ち着いた様子に淳が声をかける。
 例のことだ。
 言い出したのは千景なので、こくり、と頷いて深呼吸する。
 そして――
 
「えっ、えっと、だ、だから――えーと」
「がんばって!」
「ひ、日守、風雅くん……! に……! げ――『下剋上』を申込み、ます……!」
「は? え? ……はあ!?」
 
 在校生観覧席で魔王軍の集まっていたところが「え」という空気。
 日守ではなく、淳を応援しにきた魔王軍三年生たちは、わかりやすく「え、でも一年生が……」と呟いている。
 しかし、そこに石動がステージによじ登ってきた。
 さすが問題児、やりやがった。
 
「石動先輩!?」
「これについては『勇士隊』君主の俺が直接説明しよう。許可を出したのは俺だからな!」
「やっぱり君か! 『下剋上』は下級生から上級生への“特権”のはずだ! 一年生同士では成立しないだろう!」
 
 と、ステージの下から朝科が叫ぶ。
 それに対して岩動はニヤ、と嫌な笑みを浮かべる。
 
「特権なんだから、誕生日が来月の千景の誕生日を祝う意味でもそのくらいの融通利かせろよ」
「来月誕生日なのか……なら、仕方ない」
「旭くん?」
「旭さん?」
「「朝科先輩……?」」
 
 まさかの魔王のお許しが出ちゃった。
 四天王が目を点にして聞き返すが、「誕生日なら仕方ない」と言い放たれて最終的に四天王も全員「まあ、確かに……誕生日なら……」と言い出す。
 なんのマジックなのだろうか。
 
「ってわけで君主の俺の許可はあり! 以上!」
「あ、ハイ」
 
 と、それだけ言ってステージ下に飛び降りて戻っていく。
 ええ……? と、困惑するステージ上の一年生ズ。
 
「――と、いう感じで先輩たちからも許可が降りています! そして一度“特権”を行使されたら、相手は断れない!」
「具体的にその『下剋上』ってなにすんねん」
「形式は『決闘』と同じだよ。同じ曲を歌い合って、お客さんやリスナーさんに投票してもらう。違うのは負けた方は勝った方のグループに“強制移籍”する」
「……!?」
 
 淳が説明すると、日守の表情が強張る。
 対して千景の表情はもう決めているもの。
 だが、驚いたのは日守だけではない。
 魔王軍の面々は元より、他のチームメンバーたちも「え……?」という困惑。
 
「は……? なんで……お、俺は魔王軍でも……」
 
 二軍から降格させられた。
 しかし、今のステージを観た者はだいたい日守風雅の真価を理解しているはず。
 日守には確かに、アイドルの才能がある。
 朝科はもう、それが開花することはないと切り捨てて降格させている。
 他のグループが欲しがるのなら、くれてやってもいいと思っている程度には、興味も持たれていない。
 それを拾い上げる者が――御上千景と勇士隊君主、石動上総。
 
「アイドルを……好きだから……。ひ、日守くんは……アイドルに、向いている、人、だから。ぼ、ぼくは、アイドルの日守くんを、もっと、見たい……から……」
 
 私情だが、本来の理由はさすがにここでは口にしない。
 もちろん、アイドルの日守をもっと見たい、という気持ちも十分本心だろうけれど。
 
「今度は同じステージに、立ちたい…………です」
「……っ」
「『下剋上』は今からでも大丈夫だよ。やる?」
 
 周が「え、聞いてないが」という表情。
 言ってないので他のチームメンバーが知らないのは無理もない。
 けれど淳が定期ライブ執行委員会に、二時間ほど野外大型ステージを貸し出してもらっているのでまったく問題なし。
 日守の答え次第では、せっかく借りたステージが空いてしまうのだが、これだけお客さんが入っているので『SAMURAI』に丸投げしてみようかな、と悪い顔で考えていた。
 
「……やってやんよ」
 
 が、やっぱり喧嘩っ早い。
 簡単に釣れたぁ~♪ と笑顔の淳。
 
「で・す・が! 先にコラボユニットの『決闘』の結果発表をいたしましょう!! 皆様も大変お待たせいたしました!」
 
 と、淳が手を掲げると、スタッフさんがガラガラと台車に七つのセンブリ茶入り紙コップを運んでくる。
 センブリ茶初体験のメンバーたちは、ごくり……と息を呑む。
 正直言って、全員初体験なのでどれぐらい苦いのかわからないため、ステージ開始とはまた別種の緊張感が流れていた。
 それを知ってか知らずか淳は淡々と「モニターにご注目くださいー」と野外大型ステージの屋根つきモニターを指差す。
 モニターの電源が入り、『チームA 対 チームB』とチームの名前が表示され、その横に数字が回転し始める。
 
「どちらのチームが負けても初センブリ茶です! さあ、負けて激渋センブリ茶初体験をするのはどちらのチームなのか!」
「こわいこわいこわい! 音無怖いこと言わないで!」
「ハードル上げないで!」
「電流が怖いってセンブリ茶になったけどそんなにまずいの!?」
「大丈夫。センブリ茶はその苦味が胃腸や皮膚の刺激になって、整腸効果や育毛効果があるんだってよ。良薬口に苦し、って言われているくらいには効果抜群の苦味だって!」
 
 なんの慰めにもなっていない。
 でも、結構効果はいいものが多いそうな。
 なんの慰めにもなっていない。


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