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先輩と狩り(2)

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「まあ……えーと、とりあえずどんなアバター服を作りたいとかありますか? 新規追加された職業の中で、被服系の裁縫師と装備系の鍛治師があるんですけど……お二人の話的に裁縫師、ですよね?」
「うん、そうだね。あと、小物も作ってみたいな。ね、高埜先輩……あ、ソル先輩」
「はい。じ、実はずっと作ってみたいって思っていて、諦めていたんですけど……自分と同じ身長のテディベアを作ってみたい、という目標というか、夢がありまして……」
「自分と同じ身長……!?」
 
 【勇士隊】玄武:高埜直士。
 誕生日:五月一日。О型。身長:177センチ。体重:62キロ。部活:被服部。趣味:雑貨屋巡り。特技:ぬいぐるみ作り。
 
 ドルオタ兄妹の脳内に高埜のプロフィールが浮かぶ。
 177センチのテディベアを。
 作る、と。
 
「すごーい! 絶対可愛い~!」
「ぜひ作ってみましょう! 最高のインテリアになりますよ! 手伝います!」
 
 東雲学院芸能科アイドル全肯定bot兄妹、当然なにも否定しない。
 生き生き先輩たちのために兄は妹へ歌バフをかけて、近辺の魔物を一掃。
 新規魔物がポップした瞬間に真っ二つ。
 ぽかーーーんとなる先輩二名。
 魔物が可哀想になる圧倒的パワーイズパワー。
 レベル差も相まって、それはもはや“作業”だった。
 
「そろそろ次の町『セカンドソング』が見えてきますね」
「あのー……シーナくん」
「はい? なんでしょうか、ソル先輩!」
「いや、えーと……。……あ、そうだ。えっと、御上くんとはいかがですか?」
 
 今わかりやすく話題を変えた。
 だが、そこにはあえて触れず、満面の笑みで「仲良くさせていただいてます」と答える。
 会う度に落ち込んでいた千景だが、会う度に淳が全肯定botとして褒めちぎり、ネガティブなことを言おうものなら言えなくなるまで淳が千景のどんなところを好ましく思っているのかを千景が口にした本人曰くダメなところを絡めて反転して褒めるので最近は土下座もネガティブも出なくなりつつあるのだ。
 淳の前でだけなのかもしれないが、人を褒めるのは劇団にいた頃に橋良聖はしらひじりに教えてもらったコミニュケーションの一つ。
 聖は人を褒める天才だった。
 人のいいところを見つけ、人のコンプレックスを反転させればそれは長所になるのだと淳を全肯定してくれた友人。
 千景に会う時、ドルオタとして、聖に学んだ部分を“演技”しつつ取り出して接している。
 実際それは大変、千景に影響を及ぼしていた。
 
「よかったです。御上くんは本当によいお友達を得られたのですね。これからもどうか御上くんと仲良くしてください」
「はい! 俺、千景くんの大ファンなので! むしろこちらこそと言いますか!」
 
 そう答えるとルーヴァもにっこりと安心したように微笑む。
 きっと高埜に色々聞いて、後藤も気にかけていたのだろう。
 本当に、世話焼きな先輩たちだ。
 もちろん、嬉しいけれど。
 
「お兄ちゃん!」
 
 チコの声に三人は顔を上げる。
 ドカン、という大きな音と共に、ただの森の道の地面が割れた。
 前を歩いていたチコがバックステップで後ろへと距離をとる。
 前方に現れたのは、下半身ミミズの上半身はオークという奇怪な魔物。
 
「な、なにこいつ! お兄ちゃん、知ってる!?」
「知らない……けど、多分、フィールドエリアボス!」
「フィールドエリアボス? そんなのいるの、このゲーム」
「出現率が極めて低い、レアエネミーなんです! 周辺の魔物の平均レベルプラス20から30で、レアアイテムを落とす。ただし遭遇したら逃げられない! この辺りだと――およそレベル50!」
「ちょ……『ファイブソング』付近の魔物と同じくらいのレベルじゃん!? そんなのがうろついていたの、この辺!」
「いや、フィールドから隣のエリアに移動しようとすると0.02%の確率で遭遇するらしい。そのくらいレア!」
『ブルウウゥアアアアァァ!』
 
 ドン、と地面を手のひらで殴る音。
 オーク部分が口から巨大な棍棒を二本、取り出す。
 取り出された棍棒から棘が生える。
 
「「キッショ!」」
 
 思わず声が揃うチコとルーヴァ。
 色んな意味で受けたくない棍棒が出てきた。
 
「レアエネミーなら経験値も美味いはずだし、逃走不可能って言われているから――戦うしかないね。ルーヴァ先輩、ソル先輩、すみません、歌バフをお願いしていいですか」
「え」
「チコだけじゃ不安なので、俺も前衛に――なります」
 
 メニューから職業を剣士に変更する。
 アバターお気に入りから剣士装備にも変更。
 剣士には、思い入れがある。
 初めてログインした日、エイナに教わったのが剣士の戦い方だったから。
 なので剣士と魔法師の職はずっと育ててきた。
 
「チコ、行こう!」
「うん!」
「ま、待って! どれを上げたらいいの」
「とりあえず全部、なんでも! バフ盛れるやつは全部で!」
 
 と叫んで飛び出す。
 もちろん、チコとシーナも口を開く。
 それぞれ歌うのは、剣士の歌。
 
「~~~♪」
「~~~♪」
 
 ただし、チコはパワー盛り。
 シーナは速度盛りの歌。
 先攻はシーナが取る。
 剣士としては速度重視の長剣スタイル。
 これはエイランを見て学んだ戦い方。
 すべて“見えて”いたわけではないが、振り下ろされた棍棒を回転しながら避け、腕を切り落とす勢いで剣を入れた。
 
(!? 硬い!)
 
 だが皮膚に突き刺さるのみ。
 すぐさま柄を引いて、回転の勢いを殺さないうちに胴体と脇の下の間に入り後ろへと回り込む。
 そこをミミズの尾の部分に阻害されたが、よくよく見るとミミズの尾はまだ地中から出きっていない。
 オーク胴体は硬すぎて速度盛りのシーナでは斬れなかった。
 なので、オーク胴体を斬るのはチコに任せることにする。


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