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激戦の翌日(2)
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「ううう……」
「あ、周、起きた?」
「あ、あさ……? あれ、淳……? 君は確か病院に運ばれて……え?」
「もうすぐ昼だよ。ルームサービス頼む?」
「え?」
先に起きたのは周。
淳の父が笑顔でそんなことを言うので、周は数秒、停止した。
頭が上手く働いていないんだろう。
「顔洗ってきたら?」
「あ、ああ……?」
ふらふらと体を揺らしながら洗面所へ向かう周。
次は魁星。
健やかな寝顔を見ていると、起こすのが忍びなく思う。
けれど、凛咲先生が駐車場で待っている。
チャットルームは今のところ凛咲先生の書き込みはないものの、変更はないので起こさなければ。
あと宇月のメッセージがずっと怖い。
『起きた? 飯食わせて早く移動して。凛咲先生の車で寝てればいいから』『一応SNSに生存確認載せてよね』『ファンサービス忘れんなよ』『忘れたら殺す』など。
言葉が強い。
多分疲れて攻撃的になっている。
なんだかんだ宇月も疲れているんだろう。
「ううう、やめてぇ……揺らさないでぇ……もっと寝たい……」
「わかるけど起きて~。宇月先輩に殺されちゃうよ~」
「宇月先輩……!?」
ゆさゆさ、布団の上から揺らしていた魁星が飛び起きる。
メッセージを読みながらつい名前を出しただけなのに、めちゃくちゃ効果抜群だった。
あの健やかな寝顔が真っ青である。
(俺には割と優しいけど、二人には当たりがきつかったからなぁ……宇月先輩)
グループ加入から結構経つのだが、魁星と周へのあたりは弱まる気配がない。
震える魁星に「顔を洗っておいで」と優しく肩を叩くとフラフラ洗面所に向かう。
入れ替わりで周が戻ってきた。
「お、おは……え? ええと……淳のお父様?」
「おはよう。昨日は本当にお疲れ様。疲れているところ悪いんだけど、朝食を食べてチェックアウトして、駐車場で待っている凛咲先生のところへ行けとの指示が来ているそうだよ」
「え!?」
「スマホ見た? ちゃんと充電し…………てない!?」
「あっ」
周のスマホは枕元に放置されている。
淳が見た時、スマホはそのまま。
充電器に刺さっているどころか、充電器自体がコンセントに刺さっていない。
というか、二人ともスマホは放置されている。
「二人ともスマホ充電せずに寝たの!? 嘘でしょ!? 携帯充電器は!?」
「も、持ってない……え? なんですか? 携帯充電器?」
「ウワー……。俺の貸すから充電して! 荷物まとめて、チェックアウト十時まででしょ!? 早く!」
「あ! え? 今何時……九時五十分!? っっっ!」
魁星の荷物もカバンにしまっていく。
二人とも寝巻きはジャージ。
そのまま出ていけるのだが、昨日の今日なので私服に着替えさせる。
「一応マスクと帽子もつけて。朝食はチェックアウトのあとでね。魁星起きた!?」
「お、起きた~」
二人にチェックアウトの準備をさせ、忘れ物がないのかも確認をする。
ベッドの下まで見て周り、問題ないと判断してから部屋を出て受付カウンターに鍵を返却。
「準優勝、おめでとうございます。今後のご活躍を陰ながら応援しております」
と受付の男性に言われて三人は一瞬キョトンとしてしまう。
そして言われたことの意味をじわじわと理解して、口許がゆるゆるになる。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
三人で頭を下げ、一応三日お世話になったことにもお礼を言ってホテルを出た。
毎年この時期はアイドルの拠点となるため、ホテルの従業員もそのあたりは弁えておりIGの結果もチェックしているんだろう。
昨日まで『アイドルを名乗る学生』だった星光騎士団の一年生は、この三日の戦いを乗り越えて『20XX年IG夏の陣、準優勝者』になった。
ホテルから出ると、数名の記者が「あ、出てきた! すみません!」と声をかけてくる。
「え、え!?」
「星光騎士団の第二部隊の方々ですよね!? インタビューよろしいでしょうか?」
「一晩明けて、今のお気持ちは? 一言よろしくお願いします」
「こちらにも一言! ぜひよろしくお願いします!」
「学生セミプロ初の快挙について、感想をお聞かせください!」
目を白黒させる魁星と周。
慌てて後ろの淳を振り返る。
こうなる気はしていた。
「淳」
「大丈夫。学校で習ってる」
お父さんが、と言おうとした父を制して、淳が二人を庇うように立つ。
「お暑い中、お待ちいただいて恐縮ですが我々は東雲学院芸能科所属の学生という身分で勝手な発言は控えさせていただきたく存じます。大変申し訳ございません。今回のIG夏の陣準優勝に関してのコメントは、後日学院と確認の上公式のものを学院側が発表するかと思いますので、そちらを報道いただけますと幸いです。よろしくお願いします」
おお、というびっくり顔の魁星と周と淳パパ。
なんという完璧な模範解答。
これには記者一同もびっくり。
「え、ええと、今のお気持ちを一言だけでも……」
「そうですね、では少しだけ。今夜、我々星光騎士団第二部隊ネットアイドルライブに出演させていただきます! 第一部隊である二、三年生は○○県○○市に新装開店するアミューズメントパーク『セドルコ』にて開場ライブを行いますので、現地に行かれる方はぜひ応援してくださいね~! また、ツブヤキッター、ワイチューブにて東雲学院星光騎士団専用アカウントもございますので登録よろしくお願いします! では!」
まさかの宣伝。
マスクを外して両手を振りながら笑顔でカメラへ向かってバッチリ完璧な宣伝をかまして、雑誌記者らしき人たちには会釈を繰り返し、振り返って「行こう」と手招き。
決して笑顔は崩さない。
最後までカメラにだけは笑顔で手を振る。
アイドルの鑑。
「す、スッゲーよジュンジュン~! 俺、今笑うの無理~」
「さすがだ……ありがとう、本当に助かりました。淳がいてくれてよかったです。自分と魁星だけだったら無理でした」
「困った時はとりあえず笑顔で宣伝をしましょうって習ったのに~」
「習ったからと、実践できるかどうかは話が別です」
「あ、そういうもの? そうか~」
周に言われて、それもそうなのかな、と思う。
ただ淳はまだ疲れが全然抜けていないので、まだアドレナリンが出ているのだろう。
******
知ってると面白いかもしれない裏設定
エルミー[中身:蔵梨柚子]
蔵梨柚子は『打倒! ドMヒロインVS悪役令嬢なわたくしの奮闘記ですわ!』の“ヒロイン”としても登場しているアレなネカマプレイヤー。
年齢一桁代の頃からの重度のネカマプレイヤーという救いようのない変態だが、それが功を奏してなのか声の音域が非常に幅広く、またネカマで磨かれた演技力も高いため東雲学院芸能科に進学し星光騎士団に加入しやりたい放題していた。
人生楽しそうである。
が、一応こんな変態でもネカマプレイヤーとして半生は女性の苦労も味わっており「女性は存在するだけで神。絶対守る」という紳士的、騎士的な信条を持つ。
若干それでどうして「可愛い女の子に罵られて虐げてほしい」になるのかがわからないが。
『泣き虫な私のゆるふわVRMMO冒険者生活 もふもふたちと夢に向かって今日も一歩前へ!』WEB版にも登場(させたとこまで行ったかどうだか忘れた)。
エイランとは『打倒!』時代に出会って以降、腐れ縁となりVRMMOをプレイする度に遭遇するようになり、すっかりフレンド登録定期、になっている。
お互い効率厨なところがある上、プレイヤースキルもゲームを重ねるごとに磨かれているためお互いに不本意ながらかなり相性のよいパートナー状態。
軽口も叩き合いつつ、必要最低限の会話で完了するまでになっている。
あと、エイランには「リアルでは絶対隣を歩きたくない」と言われている。※リアルでは派手な髪色を好んでいるチャラ男のため。
ちなみに機材オタクな一面もあり、機械オンチの鶴城一晴のことは割と本気で罵っている。
余談だが『打倒! ドMヒロインVS悪役令嬢なわたくしの奮闘記ですわ!』でヒーロー役の一人として登場しているエイランはリアルでは大学生プロゲーマー、五十嵐衛。20歳。
実は柚子の一つ年下。
『ヒロインに攻略されないと死ぬゾンビホラー乙女ゲーの攻略対象に転生したんだが!?』の主人公は、毎回エイランに負けてプロの道を阻まれてセミプロに甘んじている裏設定がある。今後一生使わなさそうな裏設定なのでここで晒しておく。
「あ、周、起きた?」
「あ、あさ……? あれ、淳……? 君は確か病院に運ばれて……え?」
「もうすぐ昼だよ。ルームサービス頼む?」
「え?」
先に起きたのは周。
淳の父が笑顔でそんなことを言うので、周は数秒、停止した。
頭が上手く働いていないんだろう。
「顔洗ってきたら?」
「あ、ああ……?」
ふらふらと体を揺らしながら洗面所へ向かう周。
次は魁星。
健やかな寝顔を見ていると、起こすのが忍びなく思う。
けれど、凛咲先生が駐車場で待っている。
チャットルームは今のところ凛咲先生の書き込みはないものの、変更はないので起こさなければ。
あと宇月のメッセージがずっと怖い。
『起きた? 飯食わせて早く移動して。凛咲先生の車で寝てればいいから』『一応SNSに生存確認載せてよね』『ファンサービス忘れんなよ』『忘れたら殺す』など。
言葉が強い。
多分疲れて攻撃的になっている。
なんだかんだ宇月も疲れているんだろう。
「ううう、やめてぇ……揺らさないでぇ……もっと寝たい……」
「わかるけど起きて~。宇月先輩に殺されちゃうよ~」
「宇月先輩……!?」
ゆさゆさ、布団の上から揺らしていた魁星が飛び起きる。
メッセージを読みながらつい名前を出しただけなのに、めちゃくちゃ効果抜群だった。
あの健やかな寝顔が真っ青である。
(俺には割と優しいけど、二人には当たりがきつかったからなぁ……宇月先輩)
グループ加入から結構経つのだが、魁星と周へのあたりは弱まる気配がない。
震える魁星に「顔を洗っておいで」と優しく肩を叩くとフラフラ洗面所に向かう。
入れ替わりで周が戻ってきた。
「お、おは……え? ええと……淳のお父様?」
「おはよう。昨日は本当にお疲れ様。疲れているところ悪いんだけど、朝食を食べてチェックアウトして、駐車場で待っている凛咲先生のところへ行けとの指示が来ているそうだよ」
「え!?」
「スマホ見た? ちゃんと充電し…………てない!?」
「あっ」
周のスマホは枕元に放置されている。
淳が見た時、スマホはそのまま。
充電器に刺さっているどころか、充電器自体がコンセントに刺さっていない。
というか、二人ともスマホは放置されている。
「二人ともスマホ充電せずに寝たの!? 嘘でしょ!? 携帯充電器は!?」
「も、持ってない……え? なんですか? 携帯充電器?」
「ウワー……。俺の貸すから充電して! 荷物まとめて、チェックアウト十時まででしょ!? 早く!」
「あ! え? 今何時……九時五十分!? っっっ!」
魁星の荷物もカバンにしまっていく。
二人とも寝巻きはジャージ。
そのまま出ていけるのだが、昨日の今日なので私服に着替えさせる。
「一応マスクと帽子もつけて。朝食はチェックアウトのあとでね。魁星起きた!?」
「お、起きた~」
二人にチェックアウトの準備をさせ、忘れ物がないのかも確認をする。
ベッドの下まで見て周り、問題ないと判断してから部屋を出て受付カウンターに鍵を返却。
「準優勝、おめでとうございます。今後のご活躍を陰ながら応援しております」
と受付の男性に言われて三人は一瞬キョトンとしてしまう。
そして言われたことの意味をじわじわと理解して、口許がゆるゆるになる。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
三人で頭を下げ、一応三日お世話になったことにもお礼を言ってホテルを出た。
毎年この時期はアイドルの拠点となるため、ホテルの従業員もそのあたりは弁えておりIGの結果もチェックしているんだろう。
昨日まで『アイドルを名乗る学生』だった星光騎士団の一年生は、この三日の戦いを乗り越えて『20XX年IG夏の陣、準優勝者』になった。
ホテルから出ると、数名の記者が「あ、出てきた! すみません!」と声をかけてくる。
「え、え!?」
「星光騎士団の第二部隊の方々ですよね!? インタビューよろしいでしょうか?」
「一晩明けて、今のお気持ちは? 一言よろしくお願いします」
「こちらにも一言! ぜひよろしくお願いします!」
「学生セミプロ初の快挙について、感想をお聞かせください!」
目を白黒させる魁星と周。
慌てて後ろの淳を振り返る。
こうなる気はしていた。
「淳」
「大丈夫。学校で習ってる」
お父さんが、と言おうとした父を制して、淳が二人を庇うように立つ。
「お暑い中、お待ちいただいて恐縮ですが我々は東雲学院芸能科所属の学生という身分で勝手な発言は控えさせていただきたく存じます。大変申し訳ございません。今回のIG夏の陣準優勝に関してのコメントは、後日学院と確認の上公式のものを学院側が発表するかと思いますので、そちらを報道いただけますと幸いです。よろしくお願いします」
おお、というびっくり顔の魁星と周と淳パパ。
なんという完璧な模範解答。
これには記者一同もびっくり。
「え、ええと、今のお気持ちを一言だけでも……」
「そうですね、では少しだけ。今夜、我々星光騎士団第二部隊ネットアイドルライブに出演させていただきます! 第一部隊である二、三年生は○○県○○市に新装開店するアミューズメントパーク『セドルコ』にて開場ライブを行いますので、現地に行かれる方はぜひ応援してくださいね~! また、ツブヤキッター、ワイチューブにて東雲学院星光騎士団専用アカウントもございますので登録よろしくお願いします! では!」
まさかの宣伝。
マスクを外して両手を振りながら笑顔でカメラへ向かってバッチリ完璧な宣伝をかまして、雑誌記者らしき人たちには会釈を繰り返し、振り返って「行こう」と手招き。
決して笑顔は崩さない。
最後までカメラにだけは笑顔で手を振る。
アイドルの鑑。
「す、スッゲーよジュンジュン~! 俺、今笑うの無理~」
「さすがだ……ありがとう、本当に助かりました。淳がいてくれてよかったです。自分と魁星だけだったら無理でした」
「困った時はとりあえず笑顔で宣伝をしましょうって習ったのに~」
「習ったからと、実践できるかどうかは話が別です」
「あ、そういうもの? そうか~」
周に言われて、それもそうなのかな、と思う。
ただ淳はまだ疲れが全然抜けていないので、まだアドレナリンが出ているのだろう。
******
知ってると面白いかもしれない裏設定
エルミー[中身:蔵梨柚子]
蔵梨柚子は『打倒! ドMヒロインVS悪役令嬢なわたくしの奮闘記ですわ!』の“ヒロイン”としても登場しているアレなネカマプレイヤー。
年齢一桁代の頃からの重度のネカマプレイヤーという救いようのない変態だが、それが功を奏してなのか声の音域が非常に幅広く、またネカマで磨かれた演技力も高いため東雲学院芸能科に進学し星光騎士団に加入しやりたい放題していた。
人生楽しそうである。
が、一応こんな変態でもネカマプレイヤーとして半生は女性の苦労も味わっており「女性は存在するだけで神。絶対守る」という紳士的、騎士的な信条を持つ。
若干それでどうして「可愛い女の子に罵られて虐げてほしい」になるのかがわからないが。
『泣き虫な私のゆるふわVRMMO冒険者生活 もふもふたちと夢に向かって今日も一歩前へ!』WEB版にも登場(させたとこまで行ったかどうだか忘れた)。
エイランとは『打倒!』時代に出会って以降、腐れ縁となりVRMMOをプレイする度に遭遇するようになり、すっかりフレンド登録定期、になっている。
お互い効率厨なところがある上、プレイヤースキルもゲームを重ねるごとに磨かれているためお互いに不本意ながらかなり相性のよいパートナー状態。
軽口も叩き合いつつ、必要最低限の会話で完了するまでになっている。
あと、エイランには「リアルでは絶対隣を歩きたくない」と言われている。※リアルでは派手な髪色を好んでいるチャラ男のため。
ちなみに機材オタクな一面もあり、機械オンチの鶴城一晴のことは割と本気で罵っている。
余談だが『打倒! ドMヒロインVS悪役令嬢なわたくしの奮闘記ですわ!』でヒーロー役の一人として登場しているエイランはリアルでは大学生プロゲーマー、五十嵐衛。20歳。
実は柚子の一つ年下。
『ヒロインに攻略されないと死ぬゾンビホラー乙女ゲーの攻略対象に転生したんだが!?』の主人公は、毎回エイランに負けてプロの道を阻まれてセミプロに甘んじている裏設定がある。今後一生使わなさそうな裏設定なのでここで晒しておく。
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