上 下
59 / 350

魔王、朝科旭

しおりを挟む

 午後三時。
 校庭ステージに登場したのは『ケ・セラセラ』の大久保結帆おおくぼゆいほ
 マイクを持った大久保が「ちーす。『ケ・セラセラ』の大久保結帆っちです。お気軽にゆいほくん、って呼んでくださいね~」とステージに集まっている百人ほどの観客に片手を振りながら中央に歩いてくる。
 さすがに決闘は東雲学院芸能科の名物。
 集客力は大手のスタートよりもやはり大きい。
 三時は早帰りのできる学生がやってくるので、お客さんは若い層が一気に増えた。
 若い層はアイドルとの交際をワンチャン狙っている子もちらほら。
 ガチ恋勢の中には綾城の時のように彼女面をする者もいる。
 今のところ一年生はそこまでの層に目をつけられてはいないけれど、二、三年生の中でもハイスペックな一部には数人のガチ恋勢が存在し、時にトラブルが起こることもあるとかないとか。
 ビビったのが大久保ガチ勢がはっぴと鉢巻、推しうちわとサムネイル、オリジナルのお手製大久保Tシャツ、たすき、大久保イメージネックレスと腕輪、公式グッズの缶バッチリュックのフル装備。
 淳ですら、感服するガチ装備振り。
 そんなガチ勢が、まさかの五人も。
 その五人に大久保が笑顔で手を振っている。
 ぎゃああああ、と断末魔のような悲鳴。
 こちらが恐怖を感じるレベルの悲鳴。
 大久保はケ・セラセラの他の二人よりも顔面が、いい。
 声も独特で、囁かれたら耳から溶けそうな甘さと安らぎを感じる。
 それこそ卒業後は「”彼単体で”うちの事務所に」とスカウトが来ているとか。
 しかし大久保本人はリーダーの中泉翔平なかいずみしょうへいと行藤、三人一緒でないと活動する意味がないと言っており、卒業後は全員で大学生になるとのこと。
 そんな綾城級のアイドルオーラを持つ大久保は、決闘のルール、投票に関する説明を行う。
 ステージの前の方を確保しているのは淳、魁星、周、花崗。
 魔王軍の魔王リーダー朝科旭あさしなあさひ、西四天王、雛森日織ひなもりひおり南四天王、檜野久貴ひの ひさたか、北四天、茅原一将ちはらかずまさ
 
「花崗、綾城は仕事?」
「ちょりす~、朝科ちゃん~。そうそう、あっちのグループの練習もあるから最近本当に忙しそうだよ」
「…………」
「え、顔色急に悪……。なに、どうしたの?」
「イヤ~、私も少しづつ事務所の方に顔を出していたんですが綾城の様子を見てるとちょっと怖くなる」
「珀ちゃんはもう活動してるから忙しいんやろけど、朝科ちゃんも卒業したら新規グループになるんやね?」
「そうなるんじゃないかなぁ? 実はまだ詳しく決まっていないから私にもよくわからないんだけれどね」
「そっかー。まあ、決まっとっても守秘義務で話せんやろしな」
「ミャハ。だねえ」
 
 はあ、はあ、と淳が花崗の横に近づいてきた朝科に興奮してきた。
 朝科旭、魔王軍の魔王リーダー
 金髪碧眼という日本人離れした容姿、帰国子女、四か国語がペラペラ、高身長で足が長すぎる。
 漆黒の魔王風衣装が似合いすぎていて、ファンサの際失神したファンが出たとか出ないとか。
 綾城が飛び抜けて人気が高いのは変わらないが、腐っても最古参の三代大手グループの王。
 
(顔がいい~~~~~~~)
 
 溶けそうになる顔を押さえながら『朝科♡旭』『ウインク♡して』の推しうちわを紙袋から取り出すと、魁星と周に「は?」と見下ろされてしまう。
 対して自分の推しうちわと淳を見つけた朝科は「あ」と嬉しそうな表情で手を振りウインクのファンサービス。
 声が出ないので「ギャアアアアア」と心の中で叫ぶ淳。
 うちわをふりふりしている淳にムッとした表情になる魁星と周。
 
「淳ちゃん、もしかしてその紙袋魔王軍メンバーのうちわも入っとるん?」
「あの子、私たちが一年生の頃から応援してくれた子! 覚えてるよ! バトルオーディションの時は全然声が出ていないから心配していたけれど……星光騎士団が拾ったんだね。ああ、もったいない。魔王軍に来てくれたら即採用していたのに~」
「え? 朝科ちゃん、淳ちゃんのこと狙ってたの?」
「狙ってたよ~。声が出ていなかったのをみんなに反対されてしまったから、うちを再面接申し込んでくれないものかと待っていたんだけど来ないし」
「まあ、星光騎士団ウチ採用ったさかいなぁ」
「声が出ていなかったから他では獲らないと思ってたのに! というか、私が考えていた運命の再会シナリオが……まあ、元々星光騎士団箱推しっぽかったけど。つらかったら魔王軍においでよ? 私が在籍中なら全力で囲っちゃうからね」
「朝科ちゃん?」
 
 と、本当に残念そうにする朝科。牽制する花崗。
 ゆっくり顔を近づける朝科に淳を庇うように立つ魁星と周。
 
(なんだこの状況)
 
 魔王から見習い騎士を守る騎士、という変な状況。
 在学生席の後ろの一般客席から「キャアアアアアアアアアア」という悲鳴が上がる。
 ステージ上から大久保が「ちょっと~、場外乱闘はやめてくださいね~」と注意が飛んできた。
 
「朝科先輩、そろそろ」
「ぶっちゃけルイルイの決闘興味ないんだよ。それより君の方がいいな。名前は音無淳くんだっけ。ああ、そうだよね? 同じ世界に来たんなら、もう我慢しなくていいよね?」
「朝科先輩!」
「旭くん!」
「旭さん!」
 
 ガシッと両肩と前方に回り込み、朝科を三人がかりで回収していく。
 朝科を回収していったのは二年の茅原と三年の檜野と雛森。
「あ~~~、マイスイート~」と半泣きでズルズル連れ去られて、反対の上手かみて側に消えていく。
 他の芸能科生徒も「なんだなんだ?」と連れていかれる魔王を目で追う。
 
「淳ちゃん、朝科ちゃんになにしたん? マイスイートとか言うとったんやけど」
「(ふるふるふるふる)」
「……クラスちゃうんやけど、今度探り入れとくか。なんや怖いわ」
 
 確かに、大変怖かった。
 
(あんな面がある人だったんだなぁ)
 
 と、淳は呑気にうちわをしまった。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...