29 / 319
推しと邂逅
しおりを挟む「あー……シーナくんごめんね? 騙してるつもりはなかったんだよね。一応レベル上げはマジでやらなきゃいけないって思ってて」
「あ、う、あ」
本物だ。
本物の――神野栄治。
まさか、本人に星光騎士団志望、とか話していたとは。
「先輩が言ってた子って、淳くんのことだったんですね」
「そーそー。シーナくん、無事に入団できた?」
「はい。とても優秀な子ですよ。声変わりが終われば即戦力でしょうね。振り付け最初から完璧で、業務的なことばかり教えている状況ですよ」
「へー、才能あるとは思ったけどマジ優秀じゃん」
「あ、え、あ、い、いや、そ、そん……そんな……」
美しすぎる。
本物の神野栄治、立ち姿から顔貌から、声から。
ありとあらゆる彼のすべてが美しい。
推しが目の前にいる。
尊敬する“神”が。
口をはくはくと開閉していると、カイセイが立ち上がった。
「あ、あの、は、初めまして。俺は花房魁星っていいます! 俺も、星光騎士団の一年です」
「そっちも星光騎士団の新人だったのですか? 初めまして、私は鶴城一晴。こちらの美人は神野栄治。そこの女装男は蔵梨柚子ですぞ」
「あ……お、俺! 俺は……音無淳です!」
自己紹介タイムに便乗して、本名を名乗って頭を下げる。
顔を上げると腰に手を当てた栄治と完全に目が合った。
「――妹と定期ライブにいつも来てた子だよね? へえ、もうそんな歳になったんだね」
「に、認知されている……!?」
「そりゃー、毎回会いに来てくれてればね。情報イベントの時にも来てたでしょ? シーナくんじゃん、って思ってたけど、君だったんだね。ありがと」
「~~~~っ!」
ガッツリ認知されている――!
と、顔を上げられなくなる。
体がプルプル震えて涙が滲む。
「この子らも今度のライブオーディションに来るの?」
「はい」
「ふーん。じゃあ楽しみにしてようね♪」
「ひ、ひえぇ……」
綾城と栄治がニコニコシーナを見下ろしながらそんなことを言う。
いったいなにを楽しみにされているのだろうか。
「淳くん、神野先輩大好きって言ってたじゃん。握手とかしてもらったら?」
「や! やめてよ、魁星! ちょっと、本当に……無、無理なんだから!」
好きすぎて。
余裕がない。
狼狽まくるシーナにカイセイがなんとも言えない表情になる。
それを見て、一晴と栄治と柚子が「ほーん」という意地悪い笑顔。
「ほ、本物がこんな、近すぎて……ええぇ……無理無理……」
「す、好きなのに?」
「好きだから無理なの! 神々しいし、尊いし! 眩しくて無理!」
「にゃはは♪ かーわいー。俺は俺を好きって言ってくれるファンにはファンサしちゃうよね~。声変わり終わったら一緒にカラオケ行こうね」
「っ!? ヒッ!? へっ!? はっ!?」
カラオケ?
神野栄治と?
なにを言ってるんだこの人は。
いつの間にかカイセイの背中に隠れてしまうシーナ。
「そうですな! “星光騎士団で”! 行きましょうか!」
「ウッッッザ」
「ファンで後輩ってこと? そんな子相手にまでマウントとるのカッコ悪いっすよぉ、一晴先輩~」
「同担は拒否ですぞ!」
「「最低~」」
栄治と柚子に非難される一晴。
鶴城一晴が神野栄治ガチ勢なのは学生時代から有名。
当然シーナも知っている。
目の前で繰り広げらるツルカミコンビの定番漫才に、今日は蔵梨柚子まで参戦。
完全に12代目時代の光景だ。
足りないのは蔵梨柚子と同級生で、東雲芸能科を卒業と同時にアイドルも辞めてしまった佐藤日向ぐらいか。
それ含めて、ファンにとっては夢のような光景。
カイセイの背中で手を合わせてしまうシーナ。
「さってと、せっかくだしみんなでレベリングするー? おれたちしばらくプレイヤーキルペナルティでバフ無効化されちゃうから、手伝ってもらえると助かるしぃ、一晴先輩と栄治先輩はゲームシステム理解しててもイマイチだしぃ」
「「うっ」」
「そ、そうですね。助けていただきましたし、レベリングお付き合いします! でも、淳くんはともかく魁星くんは一度ログアウトしてログインし直した方がいいね。腕はログインし直さないと戻らないし、チコちゃんとも合流したいし」
「あ、そうですね」
「腕ってログインし直すと元に戻るんですか?」
直るよ~、と綾城とシーナが言うとそののほほんとした空気に魁星がまた複雑そうな表情になる。
確かに強制帰還したチコとも合流したい。
「シーナくんたち、時間は大丈夫なの?」
「ひぇ! は、はい。俺と妹は九時までなら大丈夫なので……」
「学生っぽ~いね。じゃああと一時間くらいだね。俺は一晴や柚子と違って一般人だから、前衛よろしく~」
「初の対人戦で心臓一突きした人が一般人名乗るのはさすがに無理っすよ~、栄治先輩♡」
めっちゃグイグイくる栄治。
完全に自分のファンだと把握して、いじり倒している。
そこでふと、シーナは思う。
(これ、チコ合流しても大丈夫だろうか? 死なない?)
多分ダメ。
34
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したから継母退治するぜ!
ミクリ21 (新)
BL
継母から虐待されて死ぬ兄弟の兄に転生したダンテ(8)。
弟のセディ(6)と生存のために、正体が悪い魔女の継母退治をする。
後にBLに発展します。
子育て騎士の奮闘記~どんぶらこっこと流れてきた卵を拾ってみた結果~
古森きり
BL
孤児院育ちのフェリツェは見習いから昇格して無事に騎士となり一年。
ある魔物討伐の遠征中に川を流れる竜の卵らしきものを拾った。
もしも竜が孵り、手懐けることができたら竜騎士として一気に昇進できる。
そうなれば――と妄想を膨らませ、持ち帰った卵から生まれてきたのは子竜。しかも、人の姿を取る。
さすがに一人で育てるのは厳しいと、幼馴染の同僚騎士エリウスに救助要請をすることに。
アルファポリス、BLoveに先行掲載。
なろう、カクヨム、 Nolaノベルもそのうち掲載する。
魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん
古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。
落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。
辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。
ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。
カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。
全寮制男子高校生活~行方不明になってた族の総長が王道学園に入学してみた~
雨雪
BL
スイマセン、腐男子要素どこいった状態になりそうだったんでタイトル変えました。
元、腐男子が王道学園に入学してみた。腐男子設定は生きてますがあんま出てこないかもです。
書いてみたいと思ったから書いてみただけのお話。駄文です。
自分が平凡だと本気で思っている非凡の腐男子の全寮制男子校での話。
基本思いつきなんでよくわかんなくなります。
ストーリー繋がんなくなったりするかもです。
1話1話短いです。
18禁要素出す気ないです。書けないです。
出てもキスくらいかなぁ
*改稿終わって再投稿も終わったのでとりあえず完結です~
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる