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リスナーは壁

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『えーと、初めましての方もいつも来ている方もおはこんばんは~。甘い笑顔でみんなを笑顔に! りゅうせいぐん☆所属新人バーチャルライバー甘梨リンです』
『流星駆け巡り織りなす星々、りゅうせいぐん☆所属新人バーチャルライバー織星ハルトです!』
 
 よろしくお願いします! と二人の声が揃う。
 ああ、ついにこの日が来たな、と口角を上げる。
 内定もらった会社は倒産、次の会社は社長が十年来の横領で逮捕されて規模縮小、新人の内定は取消。
 三つ目の会社は男尊女卑でセクハラとパワハラ三昧で半年退社。
 今、四社目の就活中。
 人生に絶望しながら、実家に世話になりながら必要な資格の勉強も始めた。
 そんな中、SNSで見かけた『恋愛相談したいです!』というタイトルの男のVtuber配信をなんとなく再生したらガチの恋愛相談。
 どうやら彼は同じ事務所の先輩女性ライバーに恋をしていた。
 初めて事務所で出会った時に一目惚れをして、以来リスナーに恋愛相談をし続けている。
 初配信の時かららしくて、その快活なライバーに興味を持った私はアーカイブを流し聞きしながら勉強をするようになった。
 その男性ライバーの名前は織星ハルトくん。
 そして織星くんの恋のお相手は織星くんよりも一ヶ月前に『りゅうせいぐん☆』からデビューした、甘梨リンちゃん。
 興味を引かれて彼女の初配信を見てみた。
 彼女は特筆するところはなく、普通のVtuberみたいにゲーム実況を中心に配信していた。
 Vtuber界隈は最近飽和状態。
 だからこそ、声も可愛いけどまあ飛び抜けて可愛いわけじゃない。
 企業所属ならではレベルのガワ。
 ほどよく常識もあり、真面目で――真面目すぎて社会不適合感がある、危うい性格。
 ちょっと心配になる。
 私も、親兄弟には「考えすぎ、悩みすぎ」と言われて三社もダメだった私を慰めてくれた。
 もし、親兄弟がいなかったら私も彼女のように鬱々しい自己肯定感が底辺な人間になっていたかもしれない。
 彼女もかなり自己肯定感の低い発言が目立つ。
 けれど、自分を大切にしてくれる“お兄ちゃん”がいるらしく、かなり頻繁に配信で「お兄ちゃんが~」とブラコン全開でお兄ちゃんに褒めてもらった話をする。
 それが気に入らないというリスナーもいそうだけれど、シングルファザーで育てられ、そのお父さんも最近亡くなった、という話をされた時は親兄弟のいる私は幸せじゃないか、とペンを落っことしたのを覚えてた。
 織星くんが好きになった女の子は、健気で純粋で優しい兄想いの女の子だ。
 ブラコンだけどね。
 そこがイイような気もする。
 実際、織星くんの雑談に「昨日の甘梨さんの配信? 観ました! またお兄さんの話してましたね。甘梨さんのお兄さんは俺も会ったことありますよ! 事務所のスタッフさんなので毎週お世話になってます! すごくカッコよくてイイ人なんです! あんなお兄さんに育てられたからこそ、甘梨さんはあんなに素敵な人なんだろうなって」と熱く語っていた。
 
『今日プレイするのはバニーザ・パフォーマンスという二人で協力プレイするゲームですね』
『俺、初めてやるゲームなんですよね! 頑張りましょうね、甘梨さん!』
『は、はい、よろしくお願いします』
『それじゃあ、レッツプレイ!』
 
 と、始まった織星くんと甘梨ちゃんの協力ゲームプレイ。
 二匹のうさぎが協力し合ってニンジンを集めて一面のゴールに向かう。
 思い通りに動かないうさぎたちを「わー!」「きゃー!」と叫びながら操作して、叫びながら――楽しそうにプレイしていく。
 時々お互いの好きな食べ物や嫌いな食べ物、普段の生活について身バレしない程度に話している。
 まるで付き合う前の甘酸っぱい会話に、問題と答えを暗記し、時折ノートに書き出しながら口角がもごもごしてしまう。
 きっと私と同じリスナーは後を絶たないだろう。
 チャット欄も『はぁ、甘酸っぺぇ』『俺たちはなにを見せられているんだ』『けしからん』『もっとやれ』『頑張れ織星』『いいぞ、もっとやれ』『最高かよ』『がんばれ』『ご趣味もお聞きしろ』『リア充爆発しろ』と流れていく。
 私も危うく『もっとやれ』とコメントしそうになった。
 
『そうなんですねー。そういえばこの間、お兄さんにレッスンスタジオで収録するのに色々準備も手伝ってもらいました。あんなに広いスタジオでいつも通りの音質で収録できて、びっくりしました。本当にすごい人ですね』
『でしょう!? 私もPCや配信環境を整える時に、お兄ちゃんが相談に乗ってくれたの。っていうか、今使ってる機材ほとんどお兄ちゃんが選んでくれたんです。特にマイクは気に入っていて、◯◯社の◯◯型を使っているんだけど……』
『ああ、あのマイクいいですよね!』
 
 いけないいけない、危うくスパチャ投げそうになったわ。
 急にライバー同士の話になるじゃん。
 頭を抱えて尊さに長い溜息を吐き出した。
 
『でも、コンデンサーが最近調子が悪いんですよね。甘梨さんのお兄さんに相談したいんですけど、お忙しそうですし無理ですかね?』
『え? いいんじゃないかな……っていうか、織星さんは私より年上なんですから敬語で話さなくていいですよ』
『え!? で、で、でも……い、いいんですか?』
『いいですよ~。コンデンサーの話、私からお兄ちゃんに相談してみますね』
『あ、ありがとうございます! ……あ、いや、あ、ありがとう、甘梨さん』
 
 ペンを置き、目を手で覆って天井を仰いだ。
 5,000円スパチャした。




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