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妹離れ
しおりを挟む「助かる。アマリ、嶋津でも大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。お兄ちゃんは織星さんたちの方に行ってあげて」
「優しい」
「天使」
俺と織星の意見が一致する。
そんな俺たちに頬を染めたアマリが「早く行って」と急かしてくる。
照れてる姿も可愛い。可愛い。
「それにしても、甘梨さんがスタジオ配信って初めてじゃないですか?」
「いや、一応初配信はスタジオからだったよ。不安だったからって」
「へぇ、そうなんですか!」
アマリの初配信はスタジオだ。
明星たちは「そうだったんですね」と少し驚いていた。
「あ、そうだ。明星のこの間の注意喚起配信も、すごく参考になったって言ってたよ」
「え?」
一瞬嬉しそうな表情をした明星だが、注意喚起配信と聞いて不安げな表情になる。
今回のアマリの注意喚起は、織星に無関係なことではないからな。
ちょっとチクチクさせていただこう。
「注意喚起配信が……って、甘梨さん、どうかしたんですか?」
「もしかして、最近甘梨さんの配信チャット欄に沸いているコメントですか?」
おや、と驚いた。
織星はアマリの配信を欠かさず観ているので、アマリの配信チャット欄も目に入れていたのか。
「そう。結構多くなってるみたいでな」
「くっ! 俺の配信でも注意はしたのに……」
おお、と目を丸くした。
いや、というか織星は本当に毎度の配信で言っていたもんなぁ。
「切り抜きが増えたからでしょうね」
「切り抜きが?」
「はい。おすすめにすごくたくさん出てきます。多分、もう百作くらいは切り抜かれてますよ」
「へえ!」
え、俺は知らなかったな。
アマリ――甘梨リン単体の切り抜きはほとんどないから、知らなかった。
明星が言うには織星ハルトと甘梨リンはVtuber業界初の恋愛リアリティとして、注目度が上がり続けているらしい。
切り抜きが増えれば、人の目に留まることも多くなる。
織星とアマリの登録者がこれまでの比ではなくコツコツ増えているのをみると、切り抜き効果のデカさを実感するな。
「それで最近アマリの方に沸いているのか」
「切り抜きにも丁寧に『二人の関係性については、絶対口出ししないようにしましょう』とか注意喚起が入ってるんですけどね」
「マジかよ、切り抜き師にまで徹底されてるなんて優しい世界だな」
切り抜き師は基本的に配慮の塊だ。
ネタ極振りのパターンであっても、概要欄にちゃんと注意書きはある。
そこまで切り抜き師に配慮されてても、沸くもんは湧くんだなぁ。
いや――。
それほど徹底して注意喚起されてるのなら、やっぱり話が通じないタイプかもな。
二回目の注意喚起をする必要もあるかも。
まあ、ブロックでどうにもならないなら、法の力で地獄に叩き落としてやるけど。
「じゃ、お前らは収録やるか」
「はい!」
「よろしくお願いします」
「椎名さん、甘梨さんに伝えてください。俺、今日からもっと注意喚起を強くします。だから、もしそれでも減らないようなら……俺、甘梨さんのこと配信で言うのやめるので――」
「それは違う」
織星がシュン、と落ち込んでそんなことを言うので、俺は即答してしまった。
ちょっとびっくりされたが、素直な気持ちだ。
今でもアマリの恋をエンターテイメントにしてしまっていいものかと悩んではいるけれど。
「お前が始めた物語だろう? アマリもそれに参加している。ずっと……あの子が引きこもりになってから俺は少し過保護にしすぎていた。その自覚もある。あの子が傷つかないように、守るのが当たり前になっていた。でも、あの子はライバーになってリスナーが支えてくれるようになった。独りで戦わなくてもよくなった。だから、俺も……」
俺も、いつまでもアマリを子ども扱いしてはいけない。
アマリにはちゃんと、自立した一人の女性なのだから。
「俺も、甘梨リンの活躍を応援しているんだ。織星が本気でアマリのことを幸せにしたいのなら引き続き頑張ってくれよ。支えてくれるリスナーと一緒に」
「……! っ……は、はい」
「じゃ、お前らの活躍も期待させてもらいますか。ほれ、準備できてるんぞ」
「はい!」
織星のことはまだよく知っている、とは言い切れない。
ジム上がりに時間が合うようなら飲みに誘ってみようかな。
一度腹を割って話し合ってみたいし。
そう思いつつ収録が開始。
ゲストのいない日は、二人で対戦ゲームをする。
人気の格闘ゲームシリーズの最新作が、先日発売されたばかりなので今日はそれをプレイするのだ。
二人ともだいぶ慣れてきたからだろう、収録は非常にスムーズに終わる。
時計を見るとアマリの配信も終わっている時間だ。
あああ、アマリの朝配信観たかったなぁ。
「それじゃあ、俺ジムの仕事があるので失礼します! 甘梨さんにはアーカイブ観るし、俺の方でも注意喚起しますとお伝えください! 無理そうなら話題禁止にしてもらっていいので、とも!」
「わかったよ。本職頑張れよ」
「ありがとうございます!」
元気よく九十度のお辞儀をしてからスタジオを出ていく織星。
残されたのは後片付けを始める俺とそれを手伝う明星。
え、ヤバァ……一気に緊張感増すじゃん……。
「あ、えーと……手伝ってくれるのか?」
「はい。少しでも椎名さんと一緒にいたいので」
「うぐっ」
いい子!
……いや、そうじゃないだろう、俺。
ちゃんと真剣に考えてあげなきゃ。
と、とはいえ、ここ五年ばかし仕事の同僚を恋愛対象として見ないように訓練してきたからなぁ!
「そ、その……ごめん」
「え、なにがですか?」
「いや、その……あんまり、仕事場の人を恋愛対象として見るのを抑制してきたから、急には難しいというか」
「あ、ああ、びっくりした。気持ちに対するお断りかと思っちゃいました」
「い、いや! そんなことは! び、びっくりさせてごめん」
「いえ、大丈夫です!」
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