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アマリの戦い 3
しおりを挟む「顔が見えないからって、相手を傷つけようとする人間はあるけれど、結局のところ“育った環境”だと思うし“持って生まれたもの”でもあると思う。アマリは優しく生まれてきたし、優しく育ったと思う。だからこそ、アマリが理解できない人種も存在するんだってことを知ってほしい」
「う……うん、わかった」
優しくて、悪意のある人間の悪意まで理解しようとする。
でも、そんなの理解しなくていい。
わかろうとしなくていい。
そんなもの、お前が理解する必要なんてない。
そんなものの中身を覗いてなんの役に立つ。
お前が余計なものを背負う必要がない。
そう伝えると、頷かれる。
世の中の優しいやつが傷つくのは、純粋に腹が立つ。
関わらなければ食い物にされることもない。
っていうか多分分析しても結局意味わからん。
理解不能。意味不明。同じ人間であっても精神構造が人外だから無駄。
触らぬ怪物に被害なし。
「他にもリスナーに求めたいことがあれば、この際まとめて伝えてしまった方がいいぞ。なにかあるか?」
「えっと……他に……? うーん……思いつかないかなぁ」
「本当か? うーん、まあ、これから新規が増え始めたらヤバいのも増えるだろうから、千人単位で登録者が増えたらでもいいんじゃないか?」
「そ、そっか。……増えるんだ……」
「今の時代は『リスナーはライバーに似る』って言われているけれど、そういうのはライバーがリスナーと交流して作り上げていくチャンネルの空気みたいなものなんだ。だからアマリがこれから、リスナーとどんなチャンネルにしていきたいか、を考えていけばいいんじゃないか?」
「っ! ……う、うん! そうなんだ……うん! うん!」
今日は本当に忙しいな、アマリ。
でも、元気になって本当によかった。
それから二十一時までアマリの言いたいことリストをまとめるのを手伝う。
注意喚起を含めた雑談配信は水曜日、収録スタジオで社員たちが見守りながら行うことにした。
◆◇◆◇◆
水曜日。
今日はアマリの雑談配信を収録の前に行うことにして、朝早く一緒に事務所に出勤した。
「おはよー……」
「ゲッ、嶋津!? まさか泊まりかよ?」
「決算の後始末と新規契約更新のあれやそれが、あるんだよ」
「あ……」
嶋津は事務全般を一手に担っている。
社員は増えないがライバーは増えているし、いい加減人手不足が如実だ。
事務所社員も募集したい、と嶋津が八潮に打診しているらしい。
それまで俺も事務仕事手伝うか、と言ってやりたいが俺も今日から番組編集が三本重なるので修羅場なんだよなぁ~。
すまんな、嶋津。
「あれ、甘梨さん、どうしたんですか?」
「あ……朝雑談をスタジオでやろうと思って」
「ああ、例の注意喚起込みの雑談ですね。朝雑談も今人気急上昇中なので、いい試みだと思います! 頑張ってください。自分も時間を作って見に行きますね」
「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」
しわくちゃのワイシャツで、無精髭も生えている小汚いおっさんにもまともな対応。
やはりらうちの妹は天使。
いや、嶋津はめちゃくちゃ頑張っているけれど。
「……朝雑談人気なんだ……?」
「ああ、夜勤帰りや出勤前、通勤中に観る人が多いんだよ」
「そうなんだ……。頑張って朝雑談やってみようかな」
「うん、いいんじゃな――」
いいんじゃないか、と言いかけた。
スタジオに向かうべく、事務所に荷物を置いてからドアを開けた途端、泊まりの嶋津よりもくたびれた若者が立っていて喉が引き攣った。
だ、誰?
「あ……初めまして! 来月デビュー予定のフレイ・フレイくんです!」
「「ひい!」」
フレイ・フレイ。
ああ、五月デビュー予定の新人か!
ガワのデータだけ見たな。
なんかグロッキーでファンシーな赤い熊のガワ。
イケメンや美少女のガワが流行りデフォなこの時代に、人外のガワを発注した変人。
今まで時間が合わなくて初めて会った。
六月と七月デビュー予定の二人には会ったけど。
「あ! ビックリさせて、サーセン!」
「い、いや、こちらこそ、びっくりしてごめん。えーと、フレイって呼べばいいのかな」
「ハイ!」
見た目にそぐわずハキハキ喋るな。
目、ちょっとイッちゃってるけど……大丈夫か、こいつ? 変な薬とかやってないよね? 誰だよ採用したやつ。
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「……! へえ……」
すでにターゲット層が決まっているのか。
でもVtuberが就学前や小中学生くらいの若年層に向けてって、大丈夫なんか?
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「おはよう、金谷。すごい新人たな、また」
「ああ、初配信用の動画作りが時間かかって、やっと契約書にこぎ着けたんだよ」
「マジ?」
「あ、甘梨さんもおはようございます。朝配信頑張ってください」
「は、はい。金谷さん、おはようございます」
「おはようございます!」
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しかし、金谷は「この人は当たりますよ」と耳打ちしてきた。
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