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向き合うべき
しおりを挟む「はい、じゃあそのへんのことはまた収録後に話しましょうよ。なんならオレ、占いますよ。面白いから、無料で」
「う、唄貝っ」
「あ、そうですね! 打ち合わせしましょう!」
と、いうわけで収録スタジオで台本の打ち合わせ。
織星が真っ先にソファーへ座り、ウキウキと唄貝に「ここはこうしたいんですけど」と話しかける。
俺は機材の調整があるから、と一旦離れる。
いやー、心臓がバックバックなんてもんじゃありませんよ。
明星のあれ、本気だったのか。
「そういえば、オレ歌みたもあげたいんですけど……明星さん演奏とMIXってお願いできます? スケジュールはお任せするんで。できれば六月とか七月とかで」
「いいよ。あとでその打ち合わせもしようか」
「あざす」
後ろの話を聞く限り、変わったのは見た目だけなんだが。
その見た目が変わったのが大きいのだ。
そして見た目が変化するのは――男に“女して”見てもらうため。
なにも異性全員というわけではなく、少なくとも、明星は――俺のために、着飾ってきた。変わろうとしてきた。女性らしく。
「……機材チェック終わったよ。いつでも収録始められる」
「ありがとうございます!」
織星マジ声でけぇー。
いつもより声デカくね?
「なんかいつもよりテンション高いな?」
「あ、はい! あの、妹さん――甘梨さんとフレンド登録させていただきまして!」
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やっぱりそれでテンション上がってたんか。
ただ連絡先を交換して、ディスコのフレンド登録しただけでこんなにハイテンションになるとは。
「今度コラボもさせていただけたらと……」
「まあ、それも配信で言ってたし、アマリのスケジュールに問題なければ俺は別に」
「あ! もちろんさすがに二人きりは早いと思っておりまして、ヒナタと一緒にコラボしますから!」
「あ、明星は、それでいいのか?」
「はい、甘梨さんとは……仲良くしたいです。椎名さんの妹さんですし……」
「う」
「あ! いや! 別に椎名さんの妹さんだからってだけじゃなくて、一応ハヤトの思い人だしっていうのも、ありますし」
「あ、ああ……」
それはそうか。いや、それもそうか?
織星と恋人になり、さらに関係が進んで結婚、となれば義理の妹だもんな。
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「ヴ!」
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俺が焦っていると、織星がいきなりテンションを下げて――。
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と、いきなり俯いてズーーーンとなる織星。
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織星の情緒がおかしくない?
「でも椎名さんは甘梨さんのお兄さんだし、今までも仕事も完璧だし丁寧だし優しいし気遣いもできるし……義理のお兄さんになってくれたら俺も、まぁ……」
「待て待て待てっ」
「あ! もちろんヒナタがそう言うのなら俺もヒナタの意思を尊重しますよ!」
「い、いや、その、だから……」
これは、逃げ場がない、な?
スーッと息を吸い、吐く。
「いや、その、あの……ふぅ……あの、俺、まだよくわからないから、明星の話は、考えさせてほしい。ちゃんと真剣に考えるから」
「っ! は、はい!」
あとで唄貝に占ってもらおう。お金出すから、ガチで。
そう心に誓って『Stars』の番組収録を開始した。
特に問題もなく、かなり楽しく収録は完了。
「お疲れ! あとはこっちで編集しておくよ」
「ありがとうございます!」
「唄貝さんも、ありがとうございました」
「はい。こちらこそ。初めてやるゲームだったので楽しかったです」
「ちぃーーーっす! 収録スタジオここですか!」
と、予定通りに収録げ終わった瞬間入ってきたのは松永ナカマル。
驚きすぎて俺たち全員目を丸くした。
「……え!? ま、松永!? いや、待て、お前明日デビューだから自宅で準備してるんじゃなかったのか!?」
「終わったんで大丈夫っす! 金谷さんに今日『Stars』さんのゲーム番組収録って聞いてましたから、こりゃあお邪魔しなきゃって!」
確かに松永はデビュー後に『Stars』の番組ゲストに出てほしい、っていう話は金谷から伝わっていたと思う。
しかし、デビュー日が決まったから『Stars』の番組の収録日は後日に移動になったはずだ。
なのになんで凸してきてるんだこいつは。
「『Stars』さんって歌もゲームも上手いっすし、ゲームができるならどこにでも行くっすよ!」
「っ」
しまった、忘れてた。
こいつ高校と仕事をゲームしたくて中退したりクビになったりしているんだ。
いわゆる、ゲーム中毒。依存症気味なんだ。
ゲームと聞いて、デビュー準備よりもゲームをやるのを優先してここまできたんだろう。
とんでもねぇジャンキーじゃねぇか……!
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