リスナーは壁〜超陽キャのVtuberがド隠キャVtuberに恋をした〜

古森きり

文字の大きさ
上 下
27 / 50

コラボのお誘い

しおりを挟む
 
(昨日のアレは……なんだったんだろう)
 
 ぼーっとしながらパソコンに向き合い、動画を編集しながら明星のことを考える。
 女の子に縋られて、「好き」なんて言われたのは正直言って――生まれて初めてだった。
 いや、だがしかし、俺はプロのVtuber事務所スタッフ。
 所属ライバーとどうこうなんてなるわけないし!
 
「はあ……」
「椎名、集中できないなら一回帰って休んだらどうだ? 昨日の夜から様子が変だけど、なんか悩みがあるんなら相談してくれ?」
 
 と、社長の八潮が後ろから肩を叩いてきた。
 ハッとして見上げる。
 どうしよう、一応相談しておいた方がいいのか?
 
「あ、あのさ……」
「うん?」
「昨日、明星に……聞き間違いかもしれないけど……」
 
 聞き間違いなわけがない。
 俺の胸に飛び込んできて、涙まで浮かべていたのだ。
 そう、あれは――聞き間違いじゃない。
 普通に考えれば、多分、告白。
 
「す、好き、と言われまして」
「マジで? ライバーとスタッフの、かぁ。まあ、バレなきゃいいんじゃねぇの?」
「は!?」
 
 思いも寄らない社長・八潮の答えに、ギョッとして聞き返してしまった。
 バレなきゃいいの!?
 
「人間同士だし、節度を守って交際するのは別にいいんじゃねぇ? 実際個人勢の中には普通に結婚してるやついるし。大手箱には配信中に子どもが部屋に入ってきたりしてるし。まあ、そのライバーさんは自分に妻子がいるのを公表してるし」
「それは……まあ、そ、そうかもしれないけど……」
「別に恋愛禁止のアイドルってわけじゃないんだ。少なくともうちの事務所は恋愛禁止にするつもりはないしなぁ。元々Vtuberは私生活の切り売りをしているようなもんだし、リスナーの恋愛感情の利用って、俺あんまり好きじゃねぇし」
「そ――そ、そう……なんか……」
 
 もっと自由でいいと思うんだよ、と八潮は語る。
 ガチ恋勢のアンチ化はトラブルの元になりやすい。
 だが、八潮の言ってることもよくわかる。
 Vtuberはガワこそバーチャルワールドに住んでいるが、ちゃんと血の通った人間が中に入っているのだ。
 私生活は本人に任せている。
 ただガワがある、バーチャルの世界に生きるタレントのようなもの。
 
「身バレする可能性もあるから、あんまり身切りしすぎると危険だと思うけど」
「そ、そうか」
「恋人になって、別れてもその時こそ“プロ”だろ?」
「っ!」
 
 付き合うのが悪い、じゃなくて別れたあと――こそ、プロとして割り切る。
 そうか。
 
「……それも、そうか……」
 
 確かにその通りかも。
 茉莉花とアマリのコラボの時も、別れたあとのことを語り合っていた。
 別れる時に綺麗に別れて、しこりを残さないようにする――。
 
「だからまあ、どんな恋愛してどんなゴールをしてもいいけど汚い別れ方だけはするなよ、って」
「うん……」
「明星と付き合うかどうかは任せるよ」
 
 そう言って両肩を叩き、八潮は手をヒラヒラさせて社長席に戻っていく。
 椅子に座ったまま、背もたれに背中を押しつけて天井を見上げ、額に腕を当てがい息を吐き出した。
 
 ……そうか、いいのか。
 
 仕事上、ビジネスパートナーに手を出すなんてあり得ない。
 厄介ごとにしかならない。
 そう思っていたけれど……。
 
「帰るか」
 
 結局集中できないと思い、退勤。
 自宅のある二駅隣の町に戻り、駅前のスーパーに寄って食材を買い込む。
 のんびり家に帰り、食材や生活用品を補充し、アマリに声をかけて久しぶりにリビングもダイニングも掃除機をかけた。
 キッチンも油汚れにクレンザーを使ってガッツリ。
 換気扇までしっかりピカピカに磨き上げ、トイレ掃除、風呂掃除も負担やらない所まで全力を尽くした。
 
「わ、わあ……お兄ちゃん、どうしたの? いや、めっちゃ綺麗だけど」
「いや、ちょっと考えがぐるぐるしてて」
「そうなんだ? ……あ、あのさ、相談したいことがあるんだけど」
「ん? どうかしたのか?」
 
 部屋から出てきたアマリが狼狽えたように視線を右往左往させながら人差し指をツンツン合わせる。
 なんだ、どうした。
 
「……お、お、お、おり、織星くん、から……コラボの、お誘いが……きたの……」
「…………。へぇ」
 
 そういえば織星が配信で「近いうち甘梨先輩にコラボを申し込みたい!」って言ってた。
 本当に申し込みしたのか。
 赤い顔であわあわとする妹は今日も世界一可愛い。
 
「それで? 受けるのか?」
「でも、だって、そんな……どうしよう……配信であんなこと言ってる子のコラボって……受けていいのかな?」
 
 あー。
 茉莉花にも色々相談してたよな、と聞くと「うん」と頷いていた。
 結局のところアマリの選択次第なんじゃないか?
 
「アマリはどうしたい?」
「他にも人がいるのなら……」
 
 まあ、それもそうか。
 明らかに狙ってきている相手とのコラボって、普通に緊張してしまう。
 リスナーたちに見守られているとはいえ、二人きりはまだ早い。
 
「――じゃあ、明星にもいてもらったらいいんじゃないか? あの二人、一応『Starsスターズ』っていうユニットだし」
「そ、そっか!」
「でも、なにするんだ?」
 
 三人ともゲームはやるが、ぶっちゃけアマリと織星と明星はイマイチゲーム得意なイメージがないんだが。
 
「まだ決まってない、かな」
「そうか。人数が多ければ選択肢も増えるから色々相談するといい」
「う、うん。そうだね。私も……茉莉花さん誘ってみる!」
「おう」
 
 でも茉莉花、ゲーム全然やらないはずなんだけど……大丈夫かな?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貞操逆転世界なのに思ってたのとちがう?

イコ
恋愛
貞操逆転世界に憧れる主人公が転生を果たしたが、自分の理想と現実の違いに思っていたのと違うと感じる話。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

ただ巻き芳賀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...