リスナーは壁〜超陽キャのVtuberがド隠キャVtuberに恋をした〜

古森きり

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初めての壁 3

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 それから一時間ほど明星の話を聞きながら、台本を完成させる。
 途中からなんとなくそんな気はしていたが……明星って生物学的には女性だったんだな。
 髪型とかメイクとか服装とか、結構ワイルド系だし女に見られたくない女なのか心は男の肉体性が女っていうタイプの人なのか。
 まあ、どっちだろうとうちの事務所のライバーであることには変わりない。
 可能な限りのサポートをするのは、当たり前だ。
 
「こんな感じかな? 他には不安なことある?」
「い、え……でも、なんか……練習はしたい、かも?」
「そうだな。じゃあ収録スタジオの方でやってみよう」
 
 収録スタジオに移動して、明星を椅子に座らせて台本の通りに読み上げてもらう。
 そのあと何回か自分の言葉で噛み砕いて読む。
 一息吐いてから、俺の方を見て頷く。
 
「どうする? 配信しちゃうか?」
「は、はい。お願いします」
「じゃあ、配信準備するな」
 
 そこからは二人で頑張ったと思う。
 サムネを適当に作り、タイトルには『大事なお知らせ』として立ち絵も用意。
 明星が枠を立ち上げ、ツブヤキッターで『大事なお知らせを配信します。アーカイブでもいいから、みんなに見てほしい』と書いて呟く。
 こくり、と頷きあう。
 すぐに開始ボタンを押し、配信ボタンも押す。
 言いづらそうに「急に配信ごめん。でも最近ずっと悩んでることがあって」と切り出した。
 突然の昼間の配信にもかかわらず、やはりツブヤキッターでの雰囲気が不穏だったのもあり、すでに五百人近くが見にきてくれている。
 
「最近、まあ、おれの話し方が悪いからだと思うんだけど、チャット欄とコメント欄、ちょっと言葉がキツい人が多い。おれも言葉が荒いタイプだから、つい真似しちゃうのもわかるんだけど……強い言葉は普通のリスナーさんが怖がるからやめてほしい」
 
 丁寧な説明をして、まずは重くとも理性のある言葉の強い層に訴えかける。
 チャット欄は「了解です」「気をつける」「了~」「わかった」「はい!」と、いう流れ。
 まあ、こういう、コメントをチャット欄で言う人は最初からまともな層なんだよなぁ。
 
「で、もう一つ。他の人とおれを比べる人がたまにいるんだけど、そういうの、ムカつくからやめて。相手を下げるようなことをツブヤキッターでも鍵付きSNSでもコメ欄とかでも、とにかく全部人の目に入るところに書いてる人、マジで不愉快。そういうの、俺が喜ぶと思ってる? 思ってるとしたらファンを騙るナンカだよ。思わずやっちゃうっていう人は、書き込まないように心がけて。マジでそういうの嫌いだから」
 
 かなりキツい言い方。
 明星らしいといえば明星らしい。
 そして、明星が選択したのは他人下げマンを完全に切り捨てる道。
 そんなファンはいらない。
 そんなのファンじゃない、とハッキリ言い切った。
 チャット欄でも「よく言った」「すっきりした」「さすがヒナタくん」「そうだよね!」「了解!」「はい!」と好意的な意見が流れる。
 やはり一部のリスナーは気にしていたんだな。
 
「キツい言い方するけど、そういうのはマジでファンだと思ってない。おれのリスナーだと思えない。嫌いだから、ブロックもする。気分悪いな、って思ってた人ごめんね。えっと、こういうことを言うつもりは、なかったんだけど……スタッフさんと相談しら、リスナーにちゃんと言っていいって言ってもらえた。本当にファンは、それだけでいなくなったりしないからって」
 
 そう言って、涙を滲ませた明星が顔をあげて俺を振り返る。
 にこり、と微笑む姿。
 女の子だ……。
 謎にそんな感想を抱いた。
 
「だから、信じることにしたんだ。みんな、これからも、おれのことよろしく。みんなに喜んでもらえるようにこれからも歌とかあげていくから……聴いてね」
 
 涙を拭って、そう言い「今夜、歌枠やるね」と告知して配信を終わらせた。
 立ち上がった明星はぐずぐずと鼻を啜る。
 ボックスティッシュを差し出すと、一瞬目を見開いて鼻をかむ。
 ゴミ箱にティッシュを入れる。
 落ち着くまでそのまま、待つ。
 
「ありがとう……ございます……」
「いや、頑張ったな。チャット欄、すごく好意的だったな」
「はい。自分で思ってたより、緊張したみたいです……怖かった……」
「そうだな」
 
 注意喚起なんて、間違いなくリスナーが減る。
 チャンネル登録者数も減って……まあ、さすがに収益化が撤回されるほどに減ることはないと思うけれど。
 歌枠やったら取り戻すのは早いだろう。
 
「明星はすごく頑張ったと思うよ」
 
 偉い、と褒める。
 アマリと年の変わらない女の子だからだろう。
 そう言ったら、明星は一瞬目を見開いて潤んだ。
 途端に俺の胸の中に開け星が飛び込んできた。
 ギョッとして、一瞬なにが起こったのかわからなかった。
 
「え」
「好き……」
「え……!?」
「………………。あっ!」
 
 ハッとした明星がガバリと体を離す。
 すぐにあわあわと顔を赤くしてティッシュを引っこ抜き、顔をティッシュで隠した。
 
「ちがっ……あ、いや、その、違くないですけど、違って……えっと、あ、あ、あ、ありがとうございました! あの、おれ、歌枠やるって言っちゃったから……楽器、取ってきます!」
「あ……う、うん」
 
 そう言って明星が収録スタジオのから出ていく。
 あれ、え?
 
「なんだったんだ……」

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