7 / 50
推しと出会う 1
しおりを挟む「演技はやったことないんですよね」
「はい」
「大丈夫です、色々相談してくださいね」
と、言って金谷がソファーから立ち上がる。
八潮はこのあと面接があるとかでこのまま応接室に残って、自販機からお茶を買い直していた。
アマリに付き添う形で俺も収録スタジオに向かおうとした時だ。
前方から背の高い男と、頭ひとつ分その男よりも低い小柄な男が歩いて来た。
派手な赤い髪と緑色のメッシュを入れて、カラーコンタクトで目が大きくなっている背の高い男。
なんだあの大男は。
顔が良すぎないか?
リアルであんなイケメン存在していいのか?
背が高く、顔がよく、派手なメッシュに違和感がない。
小柄な法はもっと派手で、黒髪に赤、青、緑、ピンク、黄色のメッシュが入っている。
耳にもピアスが大量で、アマリだけでなく俺も一瞬固まった。
「あ、金谷さん! 収録終わりました!」
「おー、織星くん、明星くん、お疲れ様。あ、椎名、紹介しておくよ。こちらも所属予定の新人Vtuberで織星ハルトくんと明星ヒナタくん。ガワがまだできてないから、もしかしたら甘梨さんよりデビューがあとになるかもしれないんだけど……二人コンビでデビュー予定なんだ」
「初めまして! 織星ハルトです! 特技は歌と筋トレ! 二十歳です!」
は? 声までいいんだが?
しかも快活な挨拶。
初手好感度が高すぎる。
なんだこのいい男は、Vtuber……だというのか?
マジで言ってる?
「あー、初めまして。椎名です。茉莉花のマネージャーとスタジオ収録の手伝い、番組スタッフや機材関係、画像編集なんかやってます」
「よろしくお願いします!」
うわ、スッゲ……。
社会不適合者七割と言っても過言ではないVtuber業界で、こんなコミュ強の中身茉莉花以外で初めて見たかもしれん。
っていうか、マジで背高いな。
190近くないか? こいつ。
しかも顔がいい。マジでいい。
茉莉花で美人にはそれなりに耐性が高いと思っていたのだが、男の美形には耐性がなかったらしい。
ぐぅ、この顔と声で名前を呼ばれたらスパチャ投げたくなるな!?
とんでもない逸材見つけてきたな、うちの事務所。
で、後ろの男を見るとこちらは安心と信頼の社会不適合者感。
まあ、うちの妹もそう言ってしまえば社会不適合者なので彼をどうこう言える立場ではないんだが。
見た目が毒々しすぎて話ができるのか不安だ。
「ヒナタ、ほらちゃんと挨拶して」
「あ、う……わ、わかってる。……えっと、明星ヒナタです。二十歳。特技は作詞と作曲とMIX……ギターとベースも弾けます……あと、その……イラストと小説とかも描きます……」
「え! すごいですね!」
とても“明星”っぽくない容姿と低めの声から放たれた特技の数々に思わず食いついてしまった。
なんだそりゃ、超人か!?
そんな人材がよくうちみたいな雑魚事務所に来てくれたな!?
「だろ? すごいだろ? 俺の大学の後輩なんだよ」
「いや、本当にすごいよ! たとえ“広く浅く”だとしても、どれもなかなかやろうと思ってできることじゃない! デビュー楽しみにしていますね!」
「っ……」
最初は怖い印象だったが、彼の特技の数々には俺もすっかり尊敬の眼差しと念を送らせていただいた。
俺だって色々勉強しているが、どれも中途半端。
いや、まあもちろん作詞作曲とMIXができるって点でもー、お手伝いしていただけないだろうか、という下心丸出しである。
だって外注するより安く済ませられそうで……ゲフゲフ。
「あ! アマリも自己紹介しておきなよ。先輩か後輩になる人たちだし」
「……う、あ……は、はじめ、まして……えっと……」
「甘梨リンといいます。この子も今度デビュー予定で、まだ明確なデビュー日は決まってないんですけど」
「それなんだけどボイスの収録と歌みたが完成したらすぐにでもデビューできそうだし、二ヶ月後デビューを目指してみたらどうかな? グッズも一ヶ月後には届くだろう? 一応余裕を持ってそのくらいがいいと思うけど」
「そうだな。それなら茉莉花とのラジオコラボも先に収録しておけば……」
「可愛い……」
ん?
呟くような声に、顔を上げる。
見下ろしていた織星の瞳が、やたらとキラキラ輝いているような?
その視線は、アマリに向けられているような?
「か、可愛い! すごく可愛いですね、甘梨さん! あ、俺織星ハルトと申します! ぜひお友達になってください! っていうか、もっと仲良くなったら結婚を前提に恋人になってください!」
なんて?
「え? えっ、え? え、あ、え?」
そりゃあアマリも大混乱。
ちらりと後ろのアマリを見ると、八潮と金谷に顔を覚えてもらうためにマスクを外している。
そんなアマリの顔を見た織星は、「一目惚れです!」と言い放つ。
そんなことある?
俺もアマリも頭真っ白状態で固まっていると、金谷と明星が慌てて織星を引き離す。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
ただ巻き芳賀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる