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新人募集中 2
しおりを挟む「そういえばさー、うちの事務所でライバー新しく探してるんだ」
アマリが少し落ち着いてから、一緒にテーブルについた。
温めたパスタをアマリの前にフォークと一緒に出して、それとなく今日あったこと……といったように切り出す。
ふーん、と興味なさそうに相槌を打つアマリ。
ううん、反応イマイチ。
やっぱり興味はないのだろうか。
ゲームは大好きらしいけど……。
「アマリ、ガワは用意するからやってみないか?」
「え? は? あたしが?」
「うん。ゲームの実況配信とか」
「……え、む、むり。ゲーム、好きだけど……ゲームしながら、話せない……」
「でもほら、可愛いガワ作ってもらえるぞ。タダで。チャンネルが収益化すればアマリの収入になるし」
「……っ」
収入、と言った瞬間アマリが顔を上げる。
ネットの情報と茉莉花の話によると、鬱の子の中には収入がなく面倒を見てもらうことに罪悪感を覚えている者が多いらしい。
その面を解消すると、回復の兆しを見せる――とも。
「部屋の中でできる仕事を考えてみたんだけど、顔を晒さなくていいしゲームが得意なアマリにならできるんじゃないかなって」
「……っ、……っ、……で、でも……」
「明日から練習してみたらどうだ? 呟キャスでコメント拾う練習してみたりしてさ。機材はお兄ちゃんが揃えるよ。会社から経費で落とせるし、わからないことは教えられるし」
「でも…………、……いいの?」
だいぶ長く考えて、恐る恐る聞き返してきたアマリ。
もちろん、と頷いてガワの希望を聞いてみる。
ダウナー系の黒髪ストレート、左右に小さなテールあり、ピンクのリボン、ピンクと黄色のジャージ風の衣装、身長はリアルと同じ165センチ、飴玉を咥えているような感じの子――となかなかに細かな注文を受けた。
目の色は、と聞くと少し悩んでピンク、と答えた。
なら、あの絵師さんに聞いてみようと明日に連絡する文章だけ作っておく。
「うん、あとはLive2Dの注文もするから――機材はこれを買ってくるから、明日場所作っておいてくれるか?」
「う、うん、わかった。結構場所必要?」
「そうだな。モニターは二つくらいあった方がいいから……」
「わかった……掃除もしておく」
「うん、頑張ってくれ、よろしくな」
すごいな、思った以上にやる気になってくれた。
お兄ちゃんガチで安堵。
やっぱりこの子なりに現状から抜け出したい気持ちはあったんだろうな。
「よーし、にいちゃんも頑張るぞー!」
◆◇◆◇◆
というわけで、翌日事務所に出勤してから早速メールでイメージに合うイラストレーターさんにキャラクターデザインの依頼をする。
イラストレーターによってまちまちとは思うが、今回のイラストレーターさんはラフは三回まで、カラーラフが二回、完成品の納品という流れで約十五万。
今回はLive2D前提なので、その旨も記載して細かくデザインしてもらう。
うちの実績でまだ無理だが、もっと会社の業績が乗ってきたら3Dも考えたい。
同じくLive2D先も依頼をする旨連絡しておこう。
「おはよう、椎名。あれ、もう一人確保したのか?」
「ああ、おはよう小池。実は妹がやってみたいって」
「マジか! そうか、妹さんゲーム得意って言ってたもんな。家にいてできる仕事だし、ああ、いいな。女の子のライバーは何人いても困らないしなー」
しかし、妹にガチ恋するオタが現れたら嫌だなぁ、と思う兄心。
そっちはどうだ、と聞くと大学の後輩に声をかけたら興味があるという子を二人確保できたらしい。
「一人はリアルでもイケメンなんだ。契約する時連れてくるよ」
「新人はとりあえず茉莉花ラジオのゲスト決定だな」
「ありがてぇ~。俺も今からガワの発注だわ」
と、言ってパソコンに向き合ってメールを打ち始める。
イケメンってことは男か。
まあ、男性ライバーはこれからどんどん増えていくだろう。
三次元のアイドルから成り替わり、女性たちの心を支える“推し”になっていくはずだ。
「でも、これで三人か」
「まあ、まだ募集開始したばっかりだしさ……あ、ほら、二人も面接希望きてるぜ」
「一応SNSで炎上していないか確認しておく」
「よろしくな」
ガワは昨日の時点で八人分発注してある。
八潮さんが事前に『これで』と十二人分の設定を用意しておいてくれたから、それを元に八人分を発注したのでアマリに合いそうな設定を残りの四人から選ばないといけない。
アマリに合いそうな設定は……お、これいいんじゃないか?
『引きこもりニートの二十歳女子。ゲームが大好きで、飲食を忘れて没頭してしまう。スカバの新作は必ずチェックする』
名前は――惹小守ミコ。
ネーミングセンスヤバ……。
ああ、でもライバーの好みで多少変えてもオーケーって書いてある。
一応アマリに聞いてみるか。
“椎名アマリ”っていう名前も十分珍しいけど、さすがに本名はダメだ。
「げっ……」
「どうした?」
「面接希望の二人、炎上履歴ありだ。思想強めだし、リプバトルやりまくってる」
「……御祈りメール送っておくか」
「ああ……」
危険すぎてとてもうちには入れられない。
SNSのチェックは大切だ。
アマリのSNSも――確認しないとな。
鬱にSNSはよくないから、やらないように言っていたけれど。
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