21 / 22
交流夜会 4
しおりを挟む「……エルマ皇女殿下は、思っていた以上に純粋な方なのかもしれませんね、兄様」
「そ、そうだな」
おかげでなにが最良なのかまるでわからん。
と、胃を押さえていたらハルスが微笑んだ。
「兄様はこのまま他の招待客のお出迎えを再開してください。あまりお待たせしすぎてはまずいでしょう?」
「それは、まあ……だがハルス、どうするつもりだ?」
「大丈夫です。お任せください」
「俺も行こう。……大丈夫だリット、お前が考えていることはだいたいわかる」
「アグラスト……」
確かに、俺は主催なのであの場に混ざるのは後回し。
今回の交流夜会はエーヴァス公国、シーヴェスター王国、そして帝国から二十歳以下の王侯貴族を呼んだ。
特に帝国の貴族は俺も知らぬ者が多数。
きちんと挨拶をして、把握しておきたい。
それはアグラストも同じだろうに、アグラストは「お前の夢は、俺も知ってる」と笑う。
「任せろよ、親友。俺も今より、帝国と友好な関係を築きたい」
「……わかった、頼む」
「ああ」
本来、自国の利益を優先させるべきなのはわかっている。
俺とアグラストは対等ではない。
それでも、あいつの人柄は好きだし信用している。
俺は俺のやるべきことをやろう。
フォリアとアグラストとハルスとミリーを信じよう。
俺の夢を知っているあの四人を。
どうせ三国が友好関係を築くのに、俺一人でどうにかできるものではないのだ。
友好関係は信頼関係からできる。
そう、信じてる。
「…………」
入り口の近衛兵に頷いて、来客の入場を再開させた。
さあ、ここからは俺にしかできない仕事だ。
頼んだぞ、みんな。
***
胃が痛い。
一通り挨拶回りが終わってから、俺が招待客に勧めたのは料理テーブル。
会場の脇には座って食べられるようにと、テーブルと椅子も用意してある。
交流夜会であるため、各自のんびり話をしてほしいのだ。
で、それにはうまい酒、うまい料理、うまいお茶、うまい菓子は必須だろう。
「兄様」
「ハルス、首尾はどうだ?」
先ほど別れてからそれっぱなしになっていたが、隙を見てハルスが声をかけてきてくれた。
あのエルマ皇女の腹の中はいかがなもので、フォリアは聖女になるべきか否か。
その判断はフォリアに委ねてはいるが、フォリアは俺とエーヴァス公国の民の意見を優先するという。
ならば結局のところ、俺が判断を下さなければならない。
そしてその判断に帝国次期女帝の腹の中の事情は、重要な要素だ。
ハルスとアグラストは「任せて」と言っていたが、どの程度までわかったのだろう?
「安心して、兄様。エルマ皇女はフォリアさんタイプだよ」
「そっかぁ」
裏表のない、考えるのが苦手なタイプかぁ。
それが次期女帝で大丈夫か帝国~?
「その代わり、連れてきた従者たちがエルマ皇女を制御する役目だったようだけど……まあ、フォリアさんタイプだから……」
「そっかぁ」
五人もいるのに手に負えなかったんですね、わかります。
うちもクーリーが日に日に疲れた顔をしながら、生き生きフォリアの躾に奔走しているのを見ているので。
「それで、兄様……僕、エルマ皇女と結婚しようと思います」
「ブッ!」
噴いた。
仕方ないと思う。
可愛い弟がそんなこと言い出すと思わなかったんだもの。
「なっ!」
「帝国は異類混血族が大多数を占めていて、種族主義が実権を握っているそうです。クーリーがいた頃と変わらない」
「……!」
「そして異類混血の血が強いと『祝福』を使えない者が多くて、帝国の内情はエーヴァス公国よりもひどい……」
「なっ」
なんだと……。
うちでもなかなか大変なのに、帝国はそれ以上!?
しかし、それも予感の一つとしてはあった。
内情は邪樹の森に阻まれ、なかなか調査は進まぬところではあったが間者の調べでも「我が国と同等かそれ以上に悪い状況」と言う報告は受けていたし。
帝国はエーヴァス公国よりも国土が広いため、把握も改善の指令も、とにかくなにもかもが遅れていて、しかもうちと違って聖樹による結界もなく魔物の侵攻が多いのだ。
だが、それならば尚更『聖女』は喉から手が出るほど欲しいのでは……。
「だから、『祝福師』たる僕が帝国に婿入りします。帝国はエーヴァス公国に借りを多く作ることになるでしょう」
「!」
それは、つまりハルスがエルマ皇女のところ——帝国に婿入りすることで、『祝福』による恩恵を広げ、なおかつその繋がりを持って『聖女』を派遣する……というところまで入っている。
エルマ皇女はハルスに一目惚れしたようだし?
おそらく、悪いようにはされないだろう。
うちのハルスは大変賢くて気が利く。
フォリアタイプのエルマ皇女を上手いこと操作——ゲフンゲフン……、……導いて、周りに傀儡にされないよう守り、立派な女帝に育て上げることも不可能ではないだろう。
「…………」
「兄様? 顔、すごいことになってますよ」
「お、おう、で、でも、だって、なぁ?」
「言いたいことが全部顔に出てます。大丈夫です」
俺の憂いを取るために、ハルスが帝国に行くのは不安なのだ。
うちの国は大した後ろ盾にはなれないだろうし、エルマ皇女の立ち位置によっては周囲は敵しかいないだろう。
エルマ皇女の従者が五人も来ているのだって、顔で選ばれたとかでない限り、五つの勢力がそれぞれ一人付けてきた、とも考えられる。
とにかく情報が少ない。
そんなところに可愛い弟をやるなんて……。
12
お気に入りに追加
292
あなたにおすすめの小説
自宅が全焼して女神様と同居する事になりました
皐月 遊
恋愛
如月陽太(きさらぎようた)は、地元を離れてごく普通に学園生活を送っていた。
そんなある日、公園で傘もささずに雨に濡れている同じ学校の生徒、柊渚咲(ひいらぎなぎさ)と出会う。
シャワーを貸そうと自宅へ行くと、なんとそこには黒煙が上がっていた。
「…貴方が住んでるアパートってあれですか?」
「…あぁ…絶賛燃えてる最中だな」
これは、そんな陽太の不幸から始まった、素直になれない2人の物語。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。
そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。
そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。
「エレノア殿、迎えに来ました」
「はあ?」
それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。
果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?!
これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる