上 下
18 / 22

交流夜会

しおりを挟む
 
 そうして、そんなフォリアのちょっと考えが及ばない生態が日常化すると俺も慣れたもの。
 瞬く間にエーヴァス公国内の魔石道具は復活し、邪樹の伐採、魔物の討伐がハイペースで進んだ。
 俺のところに上がってくる報告書も、目に見えて良い内容のものが増えていく。
 心配していた派閥争いはフォリアが正式に聖獣アリスと契約を結ばなかったことで激化することもなく、しかしちょくちょくちょっかいは出されているらしいがそれもフォリアの物理的な強さの前に形無しのようだ。
『祝福師』として、魔石浄化で行動を共にすることの多くなったハルスが気を利かせ、手を回してくれて補助してくれているおかげでもある。
 体が弱いハルスもアリス様の助力を得てフォリアが一時的に『星祝福』を使い、かなり癒してくれた。
 ハルス的に、そのお礼、みたいなもののようだ。
 なんにしても、あの政治方面に疎さが目立つフォリアにハルスがついているのはありがたい。
 おかげで俺も仕事がスムーズだ。

 ——そんな穏やかで賑やかな日々は瞬く間に過ぎ、一年前から進めていた『交流夜会』の日がついに訪れた。

「ついに次期女帝に会えるのだな」
「そうだな」

 フォリアはドレスではなくズボン姿。
 俺が「着たいものを着ろ」と許可を出したのでこの装いにしたらしい。
 いつでも馬に乗って走り出せそうだが、この格好でパーティーか。
 まあ、いいか。
 フォリアらしくて可愛らしいと思う。

「次期女帝がいいやつだったら、私は友達になりたいぞ」
「いいんじゃないか? できればミリーとも仲良くしてくれると、元婚約者としては嬉しいな」
「大丈夫だ! リットの夢を笑わなかったならきっと友達になれるからな!」
「そうか」

 そんな話をしながら、パーティー会場に向かう。
 フォリアの肩には聖獣アリス様。
 鼻をヒクヒクさせながら、必要とあればフォリアのことを守ってくれる。
 それはそれとして、やはり緊張し過ぎて胃が痛いな。

「シーヴェスター王国、アグラスト・シーヴェスター様、ミリー・シーヴェスター様、ご入場でございます」

 半年ぶりの、友との再会。
 煌びやかに着飾ったミリーは、俺といた頃よりも確実に美しくなっている。
 というか、アグラストがわかりやすくミリーに金を注いでるのがわかる。
 なんじゃありゃぁ……。

「リット! 久しぶりだな。今回の夜会、楽しみにさせてもらっていた」
「ああ、久しぶりだアグラスト。ミリーも久しぶり。元気にしていたか?」
「はい! リット様!」

 俺、こんなミリーの満面の笑顔見たことないや。
 アグラストの腕にしがみつき、幸せですオーラがものすごい。
 まあ、新婚だもんね。
 いいと思うよ、とても。

「と、ところでフォリア様はどうしてそのようなお召し物を?」
「リットが着たいものを着てよいと言ってくれたんだ! 私はドレスが嫌いなんだが、この夜会用に拵えてくれたんだぞ!」

 まあ、そのくらいのことはしますよ。
 フォリアは毎日とても頑張って働いてくれてるので。
 ドヤ顔で自慢されるとそれはそれで恥ずかしいけどな。

「ふーーーん……なかなかどうして、上手くやってるみたいじゃないか。……ぱっと見地味だが、生地が魔蚕まかいこの糸で作られてるな?」
「ええっ!?」

 ぐっ、さすがアグラスト……よく見抜いたな。
 魔蚕は魔物の一種。
 しかし無害で、むしろ養殖することで上質な魔蚕の糸を生成できる。
 一応魔物なので食べ物も魔物肉でなければならない。
 生地にすると、この薄さと柔らかさで鋼鉄の鎧ぐらいの強度と防御力を誇る。
 なので、一応エーヴァス公国の特産物の一つだ。
 布を作り出すまでは非常に難しかった。
 当然ながら、上着だけでミリーが纏っているものすべて合わせても購入困難な高値という代物である。

「そ、そんなに高価なのですか?」
「ああ、染色されているしな……」
「技法が確立したものでね。フォリアのおかげさ」
「!」
「えっへん!」
『えっへん!』

 と、胸を張るフォリアとドヤ顔のアリス様。
 魔蚕の糸の染色は、本来不可能と思われていた。
 魔力が色濃く通っているため、普通の植物の染粉は歯が立たないのだ。
 だが、フォリアが「魔物の植物はダメなのか?」と、まさしく目から鱗。
 その一言で何度か試したところ、植物系の魔物から作った染色はすべて成功。
 ただ、魔物の染粉を『祝福』で人が触れても無害な状態にする必要があったのがネック。
 まだまだ量産には程遠い。

「マ、マジか……ちなみにいくらだ?」
「商談は後回しだ。来るぞ」
「!」

 完全にミリーに買ってやりたい、な顔になっていたが、会場の扉が「帝国、エルマ・クォーン様のご入場でございます!」という声と共に開く。
 今日という日はこの女に会うために企画したようなものだ。
 歳の頃は十三、十四ほど。
 真紅のドレスに身を包んだ、黒髪の少女が胸を張ってヒールを鳴らし、男の従者を五人も連れて入ってきた。
 自信満々な顔。
 歳不相応な派手な化粧も、存外にあっているのが恐ろしい。
 アレが——!

「ワァーーーッハッハッハッ! わらわがエルマ・クォーン! 帝国の次期女帝である! どいつもこいつもひれ伏すがよい!」

 …………ダメかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

【短編】聖女として召喚されたのがライビュの前日だった件

酒本 アズサ
ファンタジー
 高校二年生の吉川千歳は夏休み最後の週末に推しのライブビューイングへ行く予定だった。  推しカラーに変えられる公式のペンライトも通販で購入して準備万端、明日を待つのみだったのだが、早めにお風呂に入ろうと脱衣所の引き戸を開けた瞬間光に包まれた。  気がつくと薄暗い石造りの一室にいた。  え? 私が聖女!?  明日は楽しみにしてたライビュなのに、今すぐ帰せー!  ごめんね、お母さん、お父さん、お兄ちゃん、私異世界に来て家族よりライビュの事が真っ先に頭に浮かんじゃった。  ライビュで推しを拝む為、元の世界に戻ろうと頑張る残念聖女のお話。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

海空里和
恋愛
王都にある果実店の果実飴は、連日行列の人気店。 そこで働く孤児院出身のエレノアは、聖女として教会からやりがい搾取されたあげく、あっさり捨てられた。大切な人を失い、働くことへの意義を失ったエレノア。しかし、果実飴の成功により、働き方改革に成功して、穏やかな日常を取り戻していた。 そこにやって来たのは、場違いなイケメン騎士。 「エレノア殿、迎えに来ました」 「はあ?」 それから毎日果実飴を買いにやって来る騎士。 果実飴が気に入ったのかと思ったその騎士、イザークは、実はエレノアとの結婚が目的で?! これは、エレノアにだけ距離感がおかしいイザークと、失意にいながらも大切な物を取り返していくエレノアが、次第に心を通わせていくラブストーリー。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...