終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

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世界再生編

儀式の前に(4)

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 とはいえ俺だって、近しい人たちのために世界を救うつもりなのだが。
 レナとレナのお腹の子のために。
 父上と母上と、可愛い弟たちのために。
 ジェラルドやランディ、ラウトやディアスやシズフさん。
 シャルロット様やミレルダ、デュレオやナルミさん、リーンズ先輩。
 他にも、俺を支えてきてくれたたくさんの人たちのために——俺は俺の持てるすべてを賭けてもいい。
 なんなら、この世界に生まれてきたのは——そのためだとすら思う。
 この世界に齎された俺という名のバグは、バグだからこそ、世界を救えるのだと。
 傲慢な考え方かもしれないけれど、命がかかっているのだからそのくらい振り切ってもいいだろう。
 でも、アベルトさんは満足したんだろう。
 戦争を無事終結に導いて。
 それはそれで、よかったのだと思う。
 彼一人が神格化しても、他の四人が神格化しなければ創世神を創ることはできなかった。
 それに、ファントムが目覚めなければ俺たち五人では死んでいたのだ。
 操縦桿を撫でる。
 千年の間、たくさんの人間が犠牲になり続けた。
 それでも世界は続いてこれた。
 
「イノセント・ゼロ」
『なんだい?』
「これからの世界を、任せてもいいかな」
『当機は登録者の望むように使用されればいい』
「もう迎えに行けないんだ。お別れなんだ。それでも許してくれる?」
『もちろん』
 
 他の登録者たちに比べて、俺が君と戦った回数は多いわけではない。
 それでも、たくさん守ってくれて——。
 
「ありがとう」
 
 操縦席を撫でてから、出発まで仮眠でも取ろうか、レナの顔を見てこようかと倉庫の床に降りる。
 五号機と一号機の姿は、もうない。
 なんとなく物悲しい。
 この空いた空間に五号機と一号機が佇むことは、もうないのだ。
 やっぱりレナの様子を見てこよう。
 そう決めて、居住スペースに向かうとレナの部屋にはナルミさんとシャルロット様とミレルダ以外にシズフさんもいた。
 なんで?
 
「レナ、体調は大丈夫?」
「はい。少し悪阻が治ってきているんです。大丈夫ですよ」
「ならよかった。……えっと、それじゃあ——シズフさんは、なんでここにいるんですか? その、二号機とお別れしたり、しないんですか?」
「お別れ……?」
 
 首を傾げられましたよ?
 
「だって、成層圏に捨てることになるじゃないですか。ギア・フィーネは」
「ああ」
「その、一応戦友、ですよね? 長い間、一緒にいた。お別れをしたりとか、しないんですか……?」
「……そんなふうに思ったことはなかったな」
 
 ええええええ~~~~……。
 い、いや、機体にお別れしましょうとか、そういう概念がない人も、そりゃあいるかぁ。
 兵器だもんな、ギア・フィーネ。
 でもさすがになんかこう、人としての情緒的なアレそれ的にどうなの?
 別に強要するものではないけどさぁ。
 
「……ヒューバートはマクナッドのようなことを言う」
「マクナッド?」
「ああ、そういえばお前はマクナッドの子孫でもあったか」
 
 あー、なんか聞いたようなことありますね。
 レネエルの偉い人、だっけ?
 
「だが、そうだな……ディプライヴが破壊された時は、俺も死ぬだろうと思っていたから……ディプライヴだけが先に逝くのは考えたことはなかったな……」
「そ、そうですか」
「……別段別れなど必要ないな」
「そ、そうですか」
 
 やっぱりそういう考えの人なのか。
 なら仕方ないよね。
 
「重……」
「え?」
「ヒューバート、シズフがなにも言わないから、兵器にかける言葉のない人種なんだろうって思ったかもしれないけど逆だからね?」
「え?」
 
 ナルミさんが心底呆れ果てたように、それはもう忌々しいと言わんばかりに顔を顰める。
 その上で、そんなことを言うから俺たち全員首を傾げましたよ。
 どういうこと?
 
「シズフはディプライヴのやることなすこと、すべての責任は自分にあるって思ってるの。だってディプライヴはただの兵器で、意思があるわけではないから。登録者の自分がディプライヴで殺して壊してきたんだって。ディプライヴが世界の一部になったとしても、それは自分の一部になるのと同じだからなんとも思っていないんだよ」
「え……う、え?」
 
 一心同体ってこと?
 それは、確かに重いな!?
 ええ? 今までで一番重くない!?
 
「なにがおかしいんだ?」
「普通の人からすると重いよ」
「重い?」
「理解に苦しむってこと。ディプライヴへの信頼が強すぎてキモいってこと」
 
 ナルミさんはちと言い過ぎでは?
 
「わからないのならわからなくていい。あれは本当によく働いてきた。俺より先に休めるのなら、休めばいい」
「重いよねぇ」
「重い、ですね。でも、シズフさんがディプライヴをなんとも思ってないんじゃなくてよかったです」
「なにも思わない、とは?」
 
 えー、そこ掘り下げる?
 難しいなほんとに。
 首を傾げる姿も美しい美術品のようだけど。
 
「ディプライヴは……あれで俺は兄の遺体も焼いたし、デュレオを殺し損ねてもいる。『クイーン』を殺し、ナルミを新しい婚約者から攫ったりもした。すべて俺の行いで、ディプライヴをずいぶん俺の我儘につき合わせた。あれが世界の一部になっても、俺の機体であることに変わりはない。俺はあれの登録者であることを誇りに思う。だから別れは必要ない」
「最初からそう言えばよかったの」
「むう」
「あはは。いえ、うん。わかりました」
 
 一番重かった。
 さすがシズフさん。
 
 
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