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世界再生編
儀式の前に(2)
しおりを挟むさて、と振り返るとラウトもブレイクナイトゼロの前に立っていた。
そういえばラウトはああしてブレイクナイトゼロを見上げていることが多い。
ファントムが来る前は自分で整備もしていたし、なんとなく登録者の中で機体への愛着が一番強いのではないかと感じる。
「ラウトはお別れ言った?」
「特にない。コレとは戦場に出る度に別れを済ませている」
「おぅっふ」
さすが戦神。
いや、これが千年前から戦場に準じていた兵士の覚悟ってやつなんだろう。
「それでも——」
ラウトの方を見る。
目を細めて、ずっと昔のことを思い出しているようだ。
ほとんど聞いたことのない、ラウトの昔話。
「それでも、コレはずっと、一つだけ……俺を責めているように、思う」
「責める? ラウトを?」
「何度も、何度も、会う度に手を差し出されていたのに……どうして最後まであの男の手を、取らなかったのか、と。それだけは納得していないように見える」
「——それは……」
アベルト・ザグレブ——四号機の、登録者からの。
血で汚れることのない、綺麗な手を……ラウトは掴むことができなかった、っていう話か。
でもそれは、今なら少しわかる気がするんだ。
一度人を殺めてしまうと、綺麗な手を取るのが本当に怖い。
レナが差し出してくれる綺麗な手を、俺は取るのが本気で怖いから。
でも、俺が手を取るのを戸惑うと、レナの方から一歩歩み寄って手を掴む。
それが嬉しくて、反面苦い気持ちになる。
「それはそうだろう。お前はアベルトを美化しすぎなんだよ」
「っ!」
「ファントムっ……と、ジェラルドも来たのか」
「うん。ファントム、アレンさんと最後に話したいんだって~」
「まあ、最後だしな」
ああ、ファントムも三号機とはお別れしたかったんだ。
三号機の中に残るアレンさんの人格データとも。
そうだよな、この人も思い入れ強いに決まってるよな。
いくらジェラルドに譲ったとはいえ、戦友だ。
「どういう意味だ?」
「アベルトだってちゃんと手を汚してるって話だよ」
「は? あいつが? そんなこと……」
「お前、宇宙には来なかっただろう。衛星兵器がカネス・ヴィナティキを蹂躙していた頃。俺とアベルトは衛星兵器を止めるのに宇宙に上がって——アイツは、宇宙にいた父親を人質に取られてたんだ」
「は?」
ちょっと俺でも、そのファントムの話すことがとんでもないことなのでは、とわかる。
宇宙で衛星兵器を止めるためにダイグロリアのハニー・J・ヘリスと対峙した時、ファントムとアベルトさんは別行動だったそうだ。
宇宙のダイグロリア基地を撹乱する役目をアベルトさんのお父さんが務めており、ファントム——ザードは衛星兵器に直接乗り込んで停止させる役。
アベルトさんはハニー・J・ヘリスが衛星兵器を取り戻そうとするのを、阻む壁役。
でも、その時基地の中にいたアベルトさんのお父さんはハニー・J・ヘリスに捕まって敵艦に囚われていた。
四号機を自分のものにしようとしていたハニー・J・ヘリスはアベルトさんの父親を人質に、二択を迫った。
父親を助けるために自分の艦に乗るよう。
そうでないのなら、父親を殺すのだと。
吐きそうな選択肢だ。
「アベルトは——」
「アイツはちゃんと殺したよ。俺は結局アイツに父親を返してやれなかった。まあ、サイファーのヤツも言い出しづらいつっていつまでもグダグダしてたのが悪いんだけどな。おかげで最悪のタイミングでカミングアウトする羽目になってんの」
「お前の側にいたのか。アイツの、父親」
「狭いよな、世界って」
薄葉甲兵装のゴーグルでわかりづらいけれど、ファントムが浮かべた笑みは嘲笑に近い。
確かに。
ラウトの父親はシズフさんが……。
でも、ラウトは父親の死をシズフさんのせいにはしてなかった。
ラウトの父親は、立派な兵士だからと。
アベルトさんのお父さんも、きっと天秤にかけて選ばせたんだろう。
俺も同じ状況で父上に『討て』と言われたら、ギア・フィーネと国を守ることを優先する。
俺には“王族”の大義名分があるから。
でも、そんなものないアベルトさんは……キツかっただろうなぁ。
「……血で汚れてるようには見えなかった」
「俺もお前も殺しすぎて、相手の手の色なんて見えなくなってたんだよ。正直俺はお前がそんなことにこだわって、アイツの手を取らなかったなんて思ってなかったけどな」
「む、むう……」
「でもまあ……気持ちがわからんわけでもない。……俺もアイツがサイファーを殺したと聞いた時は、側を離れなければよかったと思った。自分で思ってたよりショックだった。殺させたくなかったんだろうな、俺も」
「っ……」
本当に、話せば解決していたことが多いこと多いこと。
ラウトは特に、もっと早く話していれば——。
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