終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

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世界再生編

番外編 幸せな世界

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「まずは先程の女性ですが。彼女は正真正銘、お二人を守護する母君です」


 玄武は淡々と告げる。


「降霊……イタコとは違いますよね?」


 口元に手を当てるようにして考えながら問うたのは美作である。


「違います。主は完全な自己流です。『対象者』を呼び、その身に宿らせて直接の会話を可能とさせます。その間、宿らせる代償として霊力を消費しています。『対象者』のチカラが強ければ強いほど、主の負担は大きくなります」
「あ……!」
「今回はその心配はありませんでしたが、『宿主』としての主を乗っ取ろうとする輩も居ますので、その対策も必要なのです」


 以前にそんなことがあったのだろうと思わせる、玄武の言葉に美作はゾッとする。
 降霊どころか口寄せすら相当な修行が必要であると聞く。
 それを自己流でやってしまう瞳の能力の強大さ、そしてそれを乗っ取られて悪用された場合のことを考えたのだ。


「あの、お母様の姿は? あれは幻影なのですか?」


 恐る恐る、といったように玄武に聞くのは律だ。


「あれは主の霊力を借りて母君が姿を具現化させたもの。主の意思は一切働いておりません」
「そうなのね……」
「彼女はあなた方の守護としてずっと側についていました。主は、それを伝える手助けをしただけです」
「触れるなと言ったのは?」
「あなた方は彼女に触れることは出来ません。触れようとすれば、主に触れることとなり、主の集中が途切れます」
「なぜ、そこまで……」


 疑問を口にしたのはやはり美作だった。
 彼は加護を持たない。少しの守護に守られているだけだ。むしろ彼がすごいのは、本人の『術者』としての実力だろう。
 それを、おそらくは瞳も、玄武も青龍も気付いている。美作はそう思った。
 美作も相当な修行を経てやっと今日に至る。『視る』ことも決して得意ではない。
 そんな美作にさえ『視える』ようにしてしまうほどの実力を持つ人を、彼は他に知らない。


「……主の両親は殺されました」
「え……」
傍系ぼうけいであるという理由で。チカラのある主を本家に入れるために」
「お家事情というやつです」


 淡々と告げる玄武の言葉に、青龍が言葉を足して。そして、これ以上は聞いてくれるなと釘を刺す。


「……人付き合いが下手なくせに、お人好しなんですよ」


 ふと、玄武の口調がやわらかくなり、瞳の髪を撫でる。


「……主は、ずっと悩んでいました。この強いチカラは何のためにあるのかと」
「あ、メガネ……」
「はい。主は視えるだけではなく、彼らの声も『聴こえる』し、『話す』ことも出来ます。だからこそ、人との距離を上手く掴めずにいたのです」


 円は昨日のメガネの件を思い出した。
 視え過ぎるせいで結界を貼ったメガネをしていた瞳。


「主が、『視え過ぎる』ことを話したのは、あなたが初めてです」


 それは出会いが出会いだったからだろう、と円は思うけれど、それでも誤魔化さずに教えてくれた瞳には感謝するしかない。そうでもなければこんなことにはなっていない。


「ほんと……バカ正直」
「そうとも言いますね」
「あんた達もだよ」
「おや」


 玄武はいかにも心外だと言いたそうだったけれど、青龍は苦笑していた。


「我々は主に使役される身です。主の命とあらばあなた方のこともお守りいたしましょう。ですが、主を傷付けたなら、我々全員を敵に回すことになりますこと、お忘れなきよう……」


 玄武の剣呑な言葉を真の意味で理解したのは、おそらく美作だけだっただろう。
 玄武は、『我々全員を』と言った。少なくとも、この二人だけではない、という意味と捉えて間違いはない。


「ぅ……」


 美作一人が青ざめている中、瞳が身じろぎした。
 ぱっとそちらに視線が集まる。


「ヒトミ」
「……玄武?」
「はい」


 ぼんやりとしていた瞳だったが、次第に覚醒してきて現在の体勢に気付いた。
 玄武に膝枕。まあ仕方ない。


「ありがとう」
「起きられますか?」
「大丈夫」


 手を貸そうとする玄武と青龍を手で制し、自力で起き上がる。
 瞳がソファへ座ると、玄武はサッと立ち上がり、瞳の後ろへ青龍と並んで立つ。


「どこまで聞いた?」


 瞳からの問いは、円へ。


「瞳のチカラがすごいってとこまで」


 明るく答える円だが、瞳の顔色が悪いことは見逃さない。早くゆっくり休んだ方がいい。


「……名前で呼ぶなって言ったろ、御曹司」
「そっちこそ、円って呼べって言ったろ?」
「……オレの言霊は強いから、お前を縛るんだよ」


 何度も言ったし、『言霊』の意味さえ調べさせたのに。


「『西園寺』じゃ姉貴にも当てはまるじゃん! それに俺は御曹司じゃないし」


 やけに食い下がるな、と瞳が思っていると。


「とりあえず、瞳はゆっくり寝ないとダメだ。じゃあ律、俺ら帰るから!」
「ん? 帰るって……」
「俺、いま瞳の家に居候してるんだ!」
「ちょ……!」


 あれよあれよという間に、円は瞳と式神ふたりを連れて行ってしまった。
 残された律と美作は顔を見合わせる。


「これからどうなるのかしら……」
「それは分かりかねます……」


 とりあえず美作は、瞳の式神たちの怒りを買うことだけは避けようと心に誓った。
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