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世界再生編

二年後の世界(1)

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「兄上~! こんなところにいらっしゃったのですね!」
 
 小宮殿ダンスホール二階のテラスの一画で風に当たっていたら、弟のレオナルドが白いタキシードに身を包み駆け寄ってくる。
 そんな走って……緊急の用事だろうかと振り返った。
 
「レオナルド。本日の主役がなにをしているんだよ。マリヤは?」
「女性陣に囲まれておりまして」
「あー」
 
 それは……うん。
 
「兄上はなにをしておられたのですか? 姿が見当たらないので焦りました。しかも護衛もつけず、お一人で」
「んー。まあ、特になにも。ただ少し、感慨深いなと思っただけだよ。弟が長年想っていた人と結婚するんだし。……もう十年になるんだもんなぁ」
 
 と、言うとレオナルドもじんわりと滲むような表情になる。
 今日はレオナルドの19歳の誕生日で、マリヤとの結婚式である。
 婚約後、卒業・成人と同時に式と籍を入れる予定だったが間近になって我が国にも結晶化津波がきたため延期となったのだ。
 それももう一年前の話になる。
 俺が成人してから二年間、怒涛の日々で生きるのに一生懸命になりすぎていたように思う。
 ただ、幼少期は会うのも難しかったレオナルドと和解してからちょうど十年ばかりのこの日に、弟が想い女と無事に結婚するのは本当に感慨深い。
 
「それに」
「そ、それに?」
「明日から宇宙を含めた七ヶ国会談が行われると思うと——頭も心も無にしておきたいと思うんだよね」
「そ、それは……し、しかし、兄上が石晶巨兵クォーツドールを開発してから六年で世界のこの変わりよう。ただ滅びを待つばかりの世界が、どこも活気に満ち溢れております。此度の七ヶ国会談も、新たな時代の幕開けと称賛が止まりませんよ」
「称賛は本当に要らないなぁ。そんなことしてる暇があれば、食糧生産に注力すればいいものを」
 
 まったくうちの国の貴族たちときたら、最近本当に調子に乗っている。
 やつらが“功績”と持ち上げる俺の行いは俺の行いの結果であり、それを理由に他国に対して威張り散らしてよいものではない。
 虎の威を借る狐とはこのことだろうか。
 父上の負担を増やしているのは間違いなく俺なので、俺が手綱を握って締め上げなければならない。
 甘いと言われがちなのでラウトとデュレオあたりに威圧のかけ方を教えてもらおうかな。
 ナルミさんに頼むと締め上げすぎちゃいそうだしなぁ。
 
「兄上、どうかレオナルドにもお役目を振ってくださいね」
「え? レオナルドには聖殿を頼んでいるじゃないか。他の国にも守護神教と聖女信仰を広められているのは、レオナルドが国交で頑張ってくれた成果だろう? 十分に助かっているよ?」
「いえ、ですが最近は各国に枢機卿を置くことが叶い、比較的余裕ができているのです。本来であれば神々に認められし兄上が教皇を務められるのが望ましいでしょうが」
「いやー、俺も人間辞めてるからなぁ。公表こそしていないけど、俺もある意味奉られる側だ。引き続き教皇の座はよろしく頼むよ~」
「ふふ。はい。お預かりしておきます。ですから」
「うん、わかったよ。お前にも公爵位を渡しているし、儀式の総括は任せるよ」
「ぎ……」
 
 レオナルドの表情が凍りつく。
 いやいや、なにか任せろって言ったのお前だろう。
 
「それは些か大きすぎませんか!? 儀式とは、創世神降臨の義のことですよねぇ!?」
「うん、そう。他にもやることたくさんあるから儀式の段取りとか詳細決めてくれるとマジ助かる」
「くううううっ! ……お任せください! 兄上の期待に必ず答えてご覧に入れますぅ!」
「お、さすがだな。頼むぞ!」
 
 さて——改めてここ二年の出来事を振り返っておこうか。
 まず、宇宙とは和解が進んでいる。
 現在進行形なのにはもちろん理由があり、主に宇宙側の事情が大きい。
 クロンとルーファスからの聞き齧りだが、宇宙は現在十二の勢力に分かれて睨み合いをしているんだそうだ。
 多すぎて途中から「へーそうなんだー」と流そうかと思ったがルーファスに睨まれたのでちゃんと覚えることにした。
 それによるとこの惑星永遠に祝福された地球ブレス・トワ・アース周辺を陣取っているのがルーファスたちの勢力『バベル』。
 俺たちが戦った宇宙軍はバベルのものであり、他の勢力はまた別であるそうだ。
 めんどくせ。
 バベルは宇宙に散る勢力の中では月エリアまで広がる一番大きな勢力で、地上の監視役。
 資源も比較的豊富で、法や医療も充実している。
 他に水星、金星、火星、木星に二つずつ勢力が分布しており、こちらは惑星開拓で勢力争いのようなものには参加していない。
 自分たちの明日の生活を送るのででいっぱいなのだそうだ。
 クロンと弟のトリアは火星ハヴィアエリア出身。
 生活がつらくてバベルに出稼ぎに出ているのだという。
 平民層出身でありながら軍の花形エリート部隊であるギア・マレディツィオーネ部隊に、兄弟で配属されたのでいわゆる成り上がりに部類されるがそれほど優秀ということなのだろう。
 思ったよりすごかった。
 で、バベルとバチバチに勢力争いしているのが残りの三つ。
 バベルを囲むように存在する『ムーンノーティス』『マーズノーティス』『アースノーティス』。

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