351 / 385
18歳編
番外編 男として(4)
しおりを挟むクスクスと牢に笑い声が響く。
いくらでも胸を抉るような嘲笑。
その通りだ。
自分たちは『侵略者』。
ほしいものはなに一つまともに得られていない状況。
ルオートニスの王子が甘いのはなんとなく気づいている。
彼の同情を、買う?
(冗談じゃない! 嫌だ! それだけは絶対に!)
ルーファスにはそれが耐えられない。
ルオートニスの王子は詐欺師だ。
いもしない神を掲げて、世界を操る極悪人。
——しかし、五号機の登録者が生きている。あの日結晶病を操っていた金の瞳の少年が“そう”だとしたら。
千年も生きていたなら、もうそれは人ではなくなっているのでは?
(なん、だ? 頭が、上手く……整理できない……デュレオ・ビドロの言うことが、すべて正しくて、当然であるかのように……)
疑問を浮かべることはできる。
千年前の人間が生きているわけはない。
神がいるわけはない。
確かにあの金髪の少年は五号機の登録者と同じ名前、同じ姿をしていたけれどそんなことがあるはずがない。
それなのに——。
「お兄さんたちの誰か一人でも協力してくれたら、宇宙も仲間も助けられるんじゃない?」
「あ……」
顔を上げる。
まるで甘い蜜を垂らされたように、あまりにも魅力的に聴こえた。
助けられる。
宇宙に残してきた娘も、これから生まれてくる命も。
「家族と一緒に、生きたいよね?」
「家族と……」
そうだ、なぜ忘れていたのだろう。
家族と過ごしたい。
僅かな時間しか許されないのに、それでもこの任務に志願したのは娘の寿命を延ばすため。
それでも、叶うのならば死んだ妻の分まで娘とともにいたかった。
地上の家族のように、子どもを甘やかす親になりたい。
いや——家族と一緒に、生きたい。
「……わかった、僕らにできることならば協力しよう」
「ル、ルーファス……!?」
「部隊の隊長として、君たちの命も僕は守らねばならない。保証してくれるんだろう?」
「……いいよ。ディアスの治療を希望するのなら延命治療も受けさせよう。他の捕虜も希望者が多いし、三人増えるくらい問題はない。どうする?」
「延命治療!? 本当にそんなものが……!?」
「う、受けたい!」
「わかった、話は通しておこう」
ルオートニスの王子はあっさりと仲間たちの延命治療も請け負った。
自分が受けてきたものは注射針が殺意を感じるほど太い以外、真っ当なものだったように思う。
体調も悪くはないし、受けた説明も“可能ならば”有効なものばかりだ。
ただ、あまりにも高度すぎて宇宙の医療技術すら超えている。
それなのに医療器具が二千年前レベルなのがちぐはぐで、いまいち信用がおけない。
しかし医療技術自体は宇宙以上。
それさえ我慢できれば、部下たちのデータも取れてよりよい治療に役立てられるだろう。
あの『医神』は医療に関して信用しても問題なさそうな性格をしていたし。
「だが、僕らにできることはたかが知れている。あまり期待されても困る」
「ああ、うん。通信機は手に入れてあるから、立場ある人間の伝手がほしかったんだ。君から君より上の人間に話を通してほしい。あと、君たち宇宙の民が悩んでいるエネルギー生産力に関する問題……本当は宇宙との和平が進んでからするつもりだったんだけど、デュレオが話してしまったから先に君たちに少し話しておくことにするんだけど……」
まさか、本当に地上に解決の糸口があったというのか?
顔をルオートニスの王子に向けると、言いづらそうに目を背ける。
その姿にイラッと青筋を立てるルーファス。
「なんだ?」
「いや、そのー……宇宙の人にはこれも突拍子に聞こえそうなんだけどね? ……実はデュレオの弟とギア・フィーネを開発した王苑寺ギアンという人が、地核で“エネルギーを発生させる概念”というものを代行しているんだって。そのー、結論から言うと宇宙のエネルギーを地上の人間を含む動植物の命で補っていたの。……わかる?」
「……は?」
この王子、やはり詐欺師では?
意味のわからないことを、と睨みつけると、デュレオが王子の胸を長い袖でべシリと殴る。
「どうして馬鹿正直に説明するの? バカなの? 本当王子サマってばヒューバートじゃなくてピュアバートなんだからぁ。イノセントなのもほどほどにしておいてくれるぅ? まず契約書なり誓約書を作って逃げ道を塞いでおいてよぉ。反故にされたらどぉするの? 追い詰め損なんですけど~?」
「あ! そ、そうか!」
「音声と映像証拠は残しておいたけど~、こういうのは契約書とかでも残して逃げ道を塞いでおかないとでしょ。ちゃんと破った時のペナルティも決めておくんだよぉ?」
「いつの間にそんなの撮ってたの!? こ、怖!」
「っ」
長い袖の中から魔道具らしい筒。
そして水晶玉のようなものが取り出される。
ルーファスが承諾したところは、音声と映像に残されているらしい。
撤回はできない、ということなのか。
用意周到である。
「すまない、書面に残すからペンとインク、紙を持ってきてくれないか?」
「はっ! すぐお持ちいたします!」
「本当にお人好し。四号機の登録者はバカのつくお人好しが条件に入ってるのかなぁ? よく生き残ってるよねぇ」
衛兵に指示を出しているヒューバートを見ながら、デュレオが溜息を吐く。
よく生き残ってる、という発言に関しては、皮肉の意味が強いだろう。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる