終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり

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18歳編

人を辞める(3)

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「ゆ、許してくれ、頼むよ! 俺、就職決まってさ! 今の彼女、俺の子ども妊娠してるんだ! もうすぐ出産でさ! 今めちゃくちゃ大事な時期なんだよ! なあ! 頼むって! 金は、これから子どもにたくさんかかっちまうから払えないけどさ! 自首……そ、そう! 自首すっから! 二度とキックボードにも乗らない! 捨てる! 約束するから! 成仏してくれよ! 頼むよ! 頼む!」
「…………」
 
 見下ろす。
 子ども。彼女。就職。
 自首したところで刑期が確定している俺の事故は、こいつの人生にもうなんの関係もない。
 犯人にも人生があり、反省したら赦すべき。
 そうだね、俺もそう思うよ。
 でもこいつ、なにか償ってる?
 一歩近づき、怯える男の首に手をかける。
 
「ゆ! 許してくれよ!」
「いやだ。許さない。俺だって、生きたかった。学校卒業したかった。父さんと母さんをあんなふうに泣かせたくなかった。あの車の運転手だって、俺を殺したかったわけじゃない。俺だって大学に行ってみたかった。彼女もほしかった。好きな女の子と結婚して、働いて、子どもを育てて、父さんと母さんに孫を抱かせてあげたかった。もっと生きていたかった——!」
「ひ、ゆ、ゆるし、許して……なんでもするから! 許してくれよ! 助けてくれてええ! 助けてぇ!」
「なんでお前の望みだけ叶えられるんだよ。俺を殺したのは——お前だろ!」
 
 乗り越えた、呑み込んだと思った感情が溢れかえる。
 俺の中に溜まっていただけで、なに一つ減ったわけでも消えたわけでもなかったらしい。
 首を持つ手に力がこもこると、ワンルームの部屋は真っ黒に染まる。
 男の後ろに真っ白な少女のような少年の巨大な影が現れ、手を伸ばす。
 茶色い長い髪のそれは、唇を開く。
 
『ヒューバートお兄さん、これは食べていい?』
「ヒィィィィイイイィ! 許して! 助けて! 殺さないでくれ! なんでもする! 謝るから! 謝るからァァァァァア!」 
「…………食べて、いいよ。クレア」
 
 持っていた首を、離す。
 直接でなくても、これは俺が殺す命。
 突き飛ばして、クレアの中へと吸収されていく肉と魂。
 
『未登録ノ霊魂ヲ補足。補修素材トシテ確保シマス』
「ごふぶぶぶ……ぶぁ! いや、だ! だすげ、だすげてぇ……!」
『データ化ヲ開始。———データ化処理完了シマシタ。惑星修復素材化ニ成功。終了シマス』
『たったの一つかよ。もっと持ってきてもよかったんだぜ?』
 
 俺の耳元で王苑寺ギアンが楽しげに囁く。
 そうだね。
 でも——
 
「お前の思い通りにならないよ。これ以上の犠牲を出さなくていいように、俺は神様もやめていつか人に戻るから」
「ふーーーん」
『急いでください。せめて人口が増えれば、人間の感情による魔力の生産体制が整えることもできます。ギアンは人口が増えればエネルギー変換用の素材が増える、としか思わないでしょうけれど……』
「うん、わかってる。絶対迎えに来るよ。デュレオと約束したしね」
『え……』
 
 目を閉じる。
 奇妙な感覚だ。
 ギア4の時よりも全能感があり、色々なことが短時間で理解できる。
 他の登録者の思考も、なんとなくわかる感じ。
 あと、多分物理的にも精神的にも魔法的にも死なない。
 寿命もなく、体の成長は自由自在。
 ゆっくり老けていくこともできるが、一定以上老いることはない。
 水の中も、多分宇宙空間でも呼吸しなくても死ぬことはない。
 デュレオのようにすぐに再生することができるし、肉体が消滅しても霊魂体アストラルだけで生きられる。
 すごいな、これが『神』。
 ディアスやラウト、シズフさんの隣に並び立つには、俺はあまりにも凡人だけど……。
 
「ヒューバート様!?」
「っ! ……あ……? ごめん、大丈夫。どうなった?」
 
 頭を抱えて起き上がる。
 操縦席で意識を失っていたっぽい。
 しかし、敵機はすでに沈黙して地面に倒れていた
 宙に浮いたままのイノセント・ゼロ。
 不可思議な感覚だ。
 イノセント・ゼロには菫色の蝶の羽の形をした光を背に生やし、数百キロ間が朝焼けのような青とも紫ともわからない曖昧な色に染め上げられている。
 
「レナの瞳の色みたいだ」
「ヒューバート様、大丈夫ですか? ギア・マレディツィオーネの一号機を倒してから、急に意識を失われて……」
「そ、そうだったのか。でも大丈夫。……どのくらい意識を失ってた?」
「三分ほどかと」
「そう。……問題なく神格化と神鎧化したみたいだ。ありがとう、レナ」
「そう、ですか」
 
 複雑そうなレナ。
 まあ、複雑だよね。
 見た目はなにも変わらない。
 でも、間違いなく自分が別の存在になった。
 自分の手のひらを眺めて、握る。
 ——大義名分で殺したんじゃない。私怨で殺した。
 でも、俺にとっては……。
 目を閉じて、外を見上げる。
 操縦桿を握り、町の広場へと戻りながらギア・フィーネから放たれるら光を停止させた。
 この光、そういえばなんだろうなぁ?
 
「仕上げしてくるよ」
「はい」
 
 壇上後ろに直立させたままコクピットを開く。
 貴族と聴衆、セラフィを映したままのモニター、両方に見えるようにマントを翻す。
 なぜか黄色い悲鳴が混じった歓声が上がる。
 
「セラフィ・セドルコ、あなたの罪は新国の貴族と民に処罰を任せます。これ以上うちの守護神たちを刺激しないでくださいね。これ以上は多分抑えられませんよ」
『っ! ッッッッ! ふざけるな! 妾はセドルコ帝国、第一皇女ぞ! 小国の王太子風情が生意気な! 生意気に! ううう!』
 
 町の外に着地してきた船を見る。
 中型船だな。武装もしている。
 着地の衝撃に呻くセラフィは、まだこちらを睨んでいた。
 レナを横抱きにして連れてコクピットから降りて、貴族たちの方を見る。

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