339 / 385
18歳編
終わりの式典(2)
しおりを挟む「失礼いたします。会場の方の準備が整いました」
「では参りましょうか」
「レナ様もいらっしゃっているでしょうか? お会いするの楽しみですわ。ねえ、スヴィア様」
「は、はい。そうですね」
客間に係の者が呼びに来て、式典が行われる広場に向かう。
城と呼ぶにはやや小さいが、首都として建設途中だから仕方ない。
その首都となる城の真下には、町に面する大きな広場がある。
町民の他に新聞社などが集められ、広場に面する場所に来客用の椅子と長机が設置されていた。
国賓が現れると聴衆が騒めく。
「ヒュ、ヒューバート王子!」
「あれが?」
「ほら、あの一番最初に入場して来られた涅色の長い髪を右側に垂らしておられるのが」
「え、本当に若いな……!」
「カッコいい~!」
あ、俺か。
場の空気がとても和やかになったのはよかったけど、この国でも歓迎ムードなのは違和感やばい。
「ヒューバート様」
「レナ、迷子にならずに来れた?」
「はい。ですが、あの……」
「うん。 予定通りになると思うよ」
「っ」
一人一人座席に通されたあと座らせられ、先に会場入りしていたレナとも合流。
間もなく観客の前に白い服を着たステファリーが代理政権の代表たちを引き連れて現れる。
途端に平民たちの方から怒声が上がった。
俺に向けられたものではないので[索敵]には引っかからないのだが、今[索敵]の対象者除外したらえらい目に遭うな、俺が。
「どのツラ下げて出てきたー! クソ皇帝家の生き残り!」
「くたばれ!」
「お前が皇帝なんて誰が認めるかよぉー!」
「殺せ! 殺せー!」
「死んじまえええぇ!」
隣でシャルロット様が「聞きしに勝りますわね」と頬に手を当てる。
いやいや、ほんとにまったくで。
レーナ姫は他人事ではないので、明らかに顔色が悪い。
しかし、今回の件は俺が推奨しているので助け舟を出すべきかなぁ?
ちらりと中央を見ると無表情で佇むステファリーがいた。
「これよりステファリー・セドルコの戴冠を行う。その後、最後の皇帝より帝国の解体を宣言する!」
「セドルコ帝国最後の皇帝に対する、それがこの国をここまで衰退させ、あまつ! 無益な戦争を仕掛けた皇帝一族が果たすべき務めである!」
貴族たちが叫ぶように宣言すると、聴衆たちは戸惑ったように声を潜める。
国が終わるところに立ち会うとはさすがに思ってなかったのか?
一応、新聞ですでに情報だけは出ていたと思うが。
「まさか本当に宣言されるとは思っていなかったのでしょう」
「ああ、いざとなるとやはりびっくりしますよねぇ」
さらに貴族たちが「それを見届けるべく、各国の王族に来ていただいている」と紹介のターン。
最初にソーフトレスのエルダー王。
次にレーナ姫。
ソードリオ王とマロヌ姫が紹介され、順番はシャルロット様。
しかし、聴衆からは微妙な拍手。
いまいち「誰?」感が強い。
「ルオートニス王国より、ヒューバート・ルオートニス王太子殿下! そして、レナ・ルオートニス王太子妃!」
「「「おおおおおおおおお!」」」
「やはりあの方がルオートニスの王太子様なのね!」
「皇帝一族に鉄槌を下してくださった、神々の住まう国の王太子様!」
「ヒューバート王子万歳! ルオートニス王国万歳!」
「あの方が『ルオートニス王家の聖女』……奇跡の聖女、レナ様!」
「お似合い夫婦ねぇ!」
「この目で見られるなんて」
ええええええええええ~~~~!?
笑顔は崩さないがあまりの大歓声に喉が引き攣ったぞ。
やだ、なにこの大歓声。
ゲロ吐きそうなほど緊張してきたんですけど~!?
「これは、もしかしなくても皇帝家が嫌われすぎでは?」
「そのようです、ね?」
「なにをしたらこれほど嫌われるのでしょうか」
シャルロット様は西方だから、より皇帝一族のやらかしをご存じないんだろう。
それにしたってひどすぎる。
俺が手を振ると、黄色い悲鳴まで混ざったぞ。
「おうちに帰りたい」
「頑張ってください、ヒューバート様。まだ開始もしておりません」
そうでした。
悪意の数も着々と増えている。
ただし、町を囲うように。
目を閉じて、誰にもわからないように『ハッキング』するとまあ、全部筒抜けです。
「長き歴史において、セドルコ第三十代皇帝にステファリー・セドルコを任ずる。最後の皇帝としての職務を、その生が続く限りまっとうすると誓うか」
「はい。誓います」
正装のエリステレーン伯爵により、王冠がしゃがんだステファリーに被せられる。
式典は比較的平和に進む。
皇帝となったステファリーが王杖を掲げて次の段階にへ移る。
今日の式典はステファリーの戴冠と、皇位の返還。
国の解体宣言。
そして、新国設立の宣言。
ステファリーは皇帝となって最初の仕事が、皇位を天へと返却すること。
天というのは、皇帝は天上の存在であり愚かなる国々を治めるために天上より地上に降りてきている、という考えからきているらしいよ。
傲慢だね。
でも、今だとそれは違う見方もできる。
天上——宇宙という見方だ。
「我、ステファリー・セドルコは今、この瞬間を持って帝位を天へと返還し、セドルコ帝国の最後とする! 今よりこの国は貴族院を中心とした、議員制の新国家となる! 国民たちよ、どうか——皇帝が人に戻ることを……許してほしい!」
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる