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18歳編

終わりの式典(2)

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「失礼いたします。会場の方の準備が整いました」
「では参りましょうか」
「レナ様もいらっしゃっているでしょうか? お会いするの楽しみですわ。ねえ、スヴィア様」
「は、はい。そうですね」

 客間に係の者が呼びに来て、式典が行われる広場に向かう。
 城と呼ぶにはやや小さいが、首都として建設途中だから仕方ない。
 その首都となる城の真下には、町に面する大きな広場がある。
 町民の他に新聞社などが集められ、広場に面する場所に来客用の椅子と長机が設置されていた。
 国賓が現れると聴衆が騒めく。

「ヒュ、ヒューバート王子!」
「あれが?」
「ほら、あの一番最初に入場して来られた涅色くりいろの長い髪を右側に垂らしておられるのが」
「え、本当に若いな……!」
「カッコいい~!」

 あ、俺か。
 場の空気がとても和やかになったのはよかったけど、この国でも歓迎ムードなのは違和感やばい。

「ヒューバート様」
「レナ、迷子にならずに来れた?」
「はい。ですが、あの……」
「うん。 予になると思うよ」
「っ」

 一人一人座席に通されたあと座らせられ、先に会場入りしていたレナとも合流。
 間もなく観客の前に白い服を着たステファリーが代理政権の代表たちを引き連れて現れる。
 途端に平民たちの方から怒声が上がった。
 俺に向けられたものではないので[索敵]には引っかからないのだが、今[索敵]の対象者除外したらえらい目に遭うな、俺が。

「どのツラ下げて出てきたー! クソ皇帝家の生き残り!」
「くたばれ!」
「お前が皇帝なんて誰が認めるかよぉー!」
「殺せ! 殺せー!」
「死んじまえええぇ!」

 隣でシャルロット様が「聞きしに勝りますわね」と頬に手を当てる。
 いやいや、ほんとにまったくで。
 レーナ姫は他人事ではないので、明らかに顔色が悪い。
 しかし、今回の件は俺が推奨しているので助け舟を出すべきかなぁ?
 ちらりと中央を見ると無表情で佇むステファリーがいた。

「これよりステファリー・セドルコの戴冠を行う。その後、最後の皇帝より帝国の解体を宣言する!」
「セドルコ帝国最後の皇帝に対する、それがこの国をここまで衰退させ、あまつ! 無益な戦争を仕掛けた皇帝一族が果たすべき務めである!」

 貴族たちが叫ぶように宣言すると、聴衆たちは戸惑ったように声を潜める。
 国が終わるところに立ち会うとはさすがに思ってなかったのか?
 一応、新聞ですでに情報だけは出ていたと思うが。

「まさか本当に宣言されるとは思っていなかったのでしょう」
「ああ、いざとなるとやはりびっくりしますよねぇ」

 さらに貴族たちが「それを見届けるべく、各国の王族に来ていただいている」と紹介のターン。
 最初にソーフトレスのエルダー王。
 次にレーナ姫。
 ソードリオ王とマロヌ姫が紹介され、順番はシャルロット様。
 しかし、聴衆からは微妙な拍手。
 いまいち「誰?」感が強い。

「ルオートニス王国より、ヒューバート・ルオートニス王太子殿下! そして、レナ・ルオートニス王太子妃!」
「「「おおおおおおおおお!」」」
「やはりあの方がルオートニスの王太子様なのね!」
「皇帝一族に鉄槌を下してくださった、神々の住まう国の王太子様!」
「ヒューバート王子万歳! ルオートニス王国万歳!」
「あの方が『ルオートニス王家の聖女』……奇跡の聖女、レナ様!」
「お似合い夫婦ねぇ!」
「この目で見られるなんて」

 ええええええええええ~~~~!?
 笑顔は崩さないがあまりの大歓声に喉が引き攣ったぞ。
 やだ、なにこの大歓声。
 ゲロ吐きそうなほど緊張してきたんですけど~!?

「これは、もしかしなくても皇帝家が嫌われすぎでは?」
「そのようです、ね?」
「なにをしたらこれほど嫌われるのでしょうか」

 シャルロット様は西方だから、より皇帝一族のやらかしをご存じないんだろう。
 それにしたってひどすぎる。
 俺が手を振ると、黄色い悲鳴まで混ざったぞ。

「おうちに帰りたい」
「頑張ってください、ヒューバート様。まだ開始もしておりません」

 そうでした。
 悪意の数も着々と増えている。
 ただし、町を囲うように。
 目を閉じて、誰にもわからないように『ハッキング』するとまあ、全部筒抜けです。

「長き歴史において、セドルコ第三十代皇帝にステファリー・セドルコを任ずる。最後の皇帝としての職務を、その生が続く限りまっとうすると誓うか」
「はい。誓います」

 正装のエリステレーン伯爵により、王冠がしゃがんだステファリーに被せられる。
 式典は比較的平和に進む。
 皇帝となったステファリーが王杖を掲げて次の段階にへ移る。
 今日の式典はステファリーの戴冠と、皇位の返還。
 国の解体宣言。
 そして、新国設立の宣言。
 ステファリーは皇帝となって最初の仕事が、皇位を天へと返却すること。
 天というのは、皇帝は天上の存在であり愚かなる国々を治めるために天上より地上に降りてきている、という考えからきているらしいよ。
 傲慢だね。
 でも、今だとそれは違う見方もできる。
 天上——宇宙という見方だ。

「我、ステファリー・セドルコは今、この瞬間を持って帝位を天へと返還し、セドルコ帝国の最後とする! 今よりこの国は貴族院を中心とした、議員制の新国家となる! 国民たちよ、どうか——皇帝が人に戻ることを……許してほしい!」

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