上 下
335 / 385
18歳編

王に膝をつかれる者(1)

しおりを挟む
 
 長月の二十日。
 急足で準備していたが、ついにこの日が来た。
 会場が開くまでの間、こちらでお待ちくださいと通された客間は最低限で最高級のものが取り揃えられている。
 この国に残った文明品は少ないが、それらがここに集結している感じだ。

「ヒューバート様、お久しぶりですわ」
「お久しぶりです、シャルロット様。ランディとはいかかですか?」
「な、仲良くさせていただいております」

 照れ。
 あー、これは可愛い。
 ディアスが転移陣をルオートニスの首都とルレーン国の首都に設置してから、ランディは比較的頻繁にシャルロット様に会いに行っている。
 すでに学園も卒業済みなので、ルレーン国の歴史や文化を学んだりしているそうだ。
 真面目だよねぇ。
 いや、その分とても頼もしいけど。
 これを見る限りシャルロット様との仲も順調なんだな。
 政略結婚なのにこんなに照れ照れされてはなんとも言えない気持ちになってしまう。

「ミレルダや国守様にもお会いしたいのですが、本日の式典にはいらっしゃいますの?」
「ミレルダ嬢とジェラルドは強制参加ですが、ファントムは最近研究塔に缶詰めでして……なんなら外に連れ出そうとしても断固出ない、というか」
「ああ、あの方一度研究に熱中し始めるとそうなりますわよね」
「ルレーン国でもそんなことが?」
「ギア・イニーツィオを開発した時などになりましたわ。お食事も簡易流動食ばかりになりましたし、徹夜も……」
「式典が終わったら様子を見に行きましょう」
「ぜひ」

 ダメだあいつ早くなんとかしないと。
 俺も大概だけどファントムもワーカホリックだろ、絶対。

「ヒューバート殿下、お久しぶりです」
「お、おひさしぶりでございます」
「お久しぶりです、ヒューバート様」
「スヴィア嬢、マロヌ姫、ソードリオ王、ご足労いただきありがとうございます」

 礼をして迎えたのは今日からセドルコ帝国改め、新国の親国となるハニュレオ王族と聖女スヴィア嬢。
 色々押しつける形になったのだが、ソードリオ王が快く了承してくれて本当に助かった。
 それにしても、ソードリオ王は最後に会った時とは比べ物にならないほど元気そうになったなぁ。
 杖はついているが、自分の足でしっかり歩いているし背筋もピンと伸びている。
 顔立ちも肌も若々しくなり、受け応えにも以前のような辿々しさが微塵も見えない。

「ソードリオ陛下におかれましては、ご健勝そうでなによりです」
「いやいや、これもすべては医神様とそのお弟子であるミルト殿のおかげ。また、医神様とミルト殿を派遣してくださったヒューバート様のおかげである」
「ソードリオ陛下!?」

 いくら非公式の場とはいえ、ハニュレオ、セドルコとルレーン国、ルオートニスの護衛騎士がいる。
 それなのに俺に頭を下げるのだからマジでびっくりした。
 国王陛下が気安く頭なんて下げちゃダメだと思うんですが!
 さらに膝までつこうとするので、全力で止めた。
 あかんあかん、それだけはあかん。

「と、止められるなヒューバート様。我が忠誠は殿下にこそ捧げるべき! よもや本当に世界平和を実現されるとは! あなたこそこの世界を導くに相応しい、世界の王となるべき方!」
「ダメダメダメ絶対ダメです、いくら非公式の場とはいえ話がややこしくなるのでおやめください!」
「む、むう……」

 俺が泣きそうになりながら止めているのに、シャルロット様は手のひらで口元を隠して「ほほほ」と笑うのみ。
 スヴィア嬢とマロヌ姫もスルー。
 いっそ怖い。
 護衛騎士たちも見て見ぬふり。
 ここに俺の味方は一人もいないのか!?

「おお、これは……! ヒューバート王子殿下!」
「なんと、ヒューバート王子殿下よりも遅くなるとは一生の不覚……」
「え」

 扉が開いたと思ったら、なんかまた偉そうな人たちが入ってきた。
 三人のうち二人は見覚えがある。
 一人はミドレ大公。
 なぜかソードリオ王の後ろに並び、まるで舞踏会などの挨拶待ちみたいなことをしてある。
 すでに嫌な予感。
 しくじった、ナルミさんかデュレオかディアスを連れてくればよかった。
 ナルミさんに「そろそろ一人で外交にも慣れなさい」と言われたから「はーい」って来たけどやはり俺には早すぎたのでは!?

「ヒューバート王子殿下、お久しぶりでございます。お誕生日と聖女レナ様とのご結婚も誠におめでとうございます。ミドレ大公として参加いたしますが、あくまでもルオートニス王国傘下の者としての自覚を持ち、今回の祭典に臨む所存ですので何卒お許しを」
「あ、はい」

 やっぱりあかんかった。
 大公がなぜか膝を折って頭を下げる。
 その上でそんな挨拶。
 やばいって。
 誰か助けてって。

「ヒューバート王子殿下、覚えておいでではないかもしれませんので、改めてご挨拶をしたく。私はエルダー・ソーフトレス。戦後王位に就きました、ソーフトレスの国王にございます」
「待ってください、なぜ膝を折っておられるのですか」
「こ、この度の戦争において、ルレーン国を救い、調停依頼をお受けくださっただけでなく、石晶巨兵クォーツドールの技術を和平と不可侵条約という願ってもない好条件でお譲りいただいたご恩は返しきれぬものでございます。その上、食糧や戦後処理の支援までしていただき……」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...