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18歳編

皇帝の資格(2)

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 秋空のような薄い水色の瞳が真紅に変わる。
 ラウトは金色に変わるが、シズフさんは神力を使おうとすると赤い電子模様になるっぽいよ。
 めちゃくちゃ怖い。
 ステファリーを睨みつけていた代表団の敵意が、自分に向けられたのだと思ったんだろう。
 シズフさんに威圧を纏って睨まれたら、代表団も恐れ慄いちゃう。

「彼らの名前はわかりませんか」
「っ……」
「はぁ。まあ、これから覚えてください。さて、彼らが先帝にお預かりしていた鍵と箱を持ってきてくれましたよ」
「えっ……!?」

 小箱は俺が両手で運べる大きさ。
 しかし箱は鎖が巻かれており、三つの南京錠で固定されている。
 手前に手錠をつけられたステファリーの前にしゃがみ、代表団を振り返ると頷かれた。

「俺の提案が通り、あなたにはセドルコ帝国を穏やかに終わらせる役目をお願いすることになりました。あなたに拒否権はありません。もし拒否するのであれば、代表団の提案を受け入れてもらいます。生き地獄をお望みであれば、この箱を開けて新たな皇帝となってください。拒否するのなら首を横に振っていただくだけでいいですよ」

 考える時間は与えていた。
 地下牢で、たっぷり。
 生きることに執着していたし、皇帝一族の者として優遇されるのが当たり前だと思っているがもはや傀儡としてしか価値がない。
 だから彼女には強制するし、それでも拒むのなら殺す。
 俺はもう、男子校生ではなくこの世界の、ルオートニス王国という国の王太子だから。

「……や、やります。それが民のために、なるのなら」

 絶望に満ちた表情だが、今までの薄っぺらい「民のために」という建前ではない。
 生き延びるために生き地獄を選んだのだ。
 自分が今まで振り翳してきた、『皇帝一族の者』としての、矜持を建前にして。
 小さな差だが、決定的に違う。
 保身と己の誇りのための最後の足掻き。
 目に焼きつけておこう。
 自分がいつ、こうなるかわからない。
 こうならないように。
 国が終わる時、民が一人でも多くいつもの生活のままでいられるように。

「では箱を開けて中身を確認してください。先代皇帝の正式な後継者への品です。エリステレーン伯爵たちは、見届け人としてこちらへ」
「失礼します」

 代表団を俺の横へと並ばせ、ステファリーが箱を開けていくのを見守る。
 最後の鎖を取り払い、最後の鍵で蓋を開く。
 中に入っていたのは一枚の折り畳まれた紙。
 魔法の痕跡があるな?
 いや、紙に描かれているのは魔法陣!

「っ!」

 ステファリーが紙を開くと、紙の上に一人の男が3Dのように半透明な姿で立ち上がる。
 なにこの魔法。
 そこに一人の人間が佇んでいるように、三メートルほどの大きさまで拡大していく。
 端正な顔立ちだが、とても厳しい表情。

「お——お父様……!」
『我が名をセドルコ帝国第二十九代皇帝、メルドレア・セドルコ。どうやら我が子らは、我が命が尽きる前に我が跡目を継ぐことはなかったようだな』

 ふるふると残念そうに左右に顔を振る。
 え、すげーな、なんだこの魔法。
 よく見ると小箱の中にでかい魔石が収まっている。
 なるほど、小箱の素材が魔樹なのか。
 魔石に自分の魔力を保存して、魔樹と紙の魔法陣で魔法が自動で発動する仕組みなのか。
 賢いな!
 魔法にかなり精通していないと、思いつかないよな。
 実行するのにも、何回も実践したに違いない。
 それにあの口ぶりだと、生存している間に箱を開けたパターンと死後に箱を開けたパターンの二つ収録してあったんじゃない?
 すげー!
 くっ、皇帝生きてるうちに話してみたかったな……!

『新たなる皇帝となる者——ふむ、この魔力はステファリーか。よかろう、ステファリー、そなたを新たな皇帝として認めよう。そなたが今どのような状況でどのような思想を持っておるのか、我には知ることはできない。願わくば、我が友イース・エリステレーンと理想を語り合う時を設けてくれ』
「エリステレーン……」
「我が祖父です。第一皇子ステゴリー殿下により、一方的な反逆罪で処刑されております」

 チラリとエリステレーン伯爵を見ると、そう答えが返ってきた。
 あー、エリステレーン伯爵が皇帝候補たちに恨みつらみが強かったのは身内を冤罪で処刑されていたからか。
 この汚物を見下ろすような目たるや。

『ただ一つ、我からそなたに頼みがある。我が国はもはやかつての栄光の姿を失った。属国も結晶化した大地クリステルエリアに呑まれ、そなたの兄弟たちにより我が意に寄り添うてくれた者たちは帝都を去った。この国は間もなく滅びるであろう』
「っ!? な、なにを、ち、父上!?」
『隣国ルオートニスの王子が新たな技術を開発したと耳にした。我が国はかの国へ幾度となく侵攻し、その賠償は踏み倒しておる。そなたには新たな皇帝として三つの道があると思え。一つは最後の皇帝として滅びをただ待つか。一つはルオートニスへ賠償を約束し手を取り合い、滅びを回避するか。もう一つはそなた自身の為政者としての力量にて、国を新たな形に建て直すか』

 それを聞いて息を呑む。
 この人、三年前に亡くなってるんだよな。
 俺が石晶巨兵クォーツドールを他国に普及させ始めた頃に。

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