331 / 385
18歳編
皇帝の資格(2)
しおりを挟む秋空のような薄い水色の瞳が真紅に変わる。
ラウトは金色に変わるが、シズフさんは神力を使おうとすると赤い電子模様になるっぽいよ。
めちゃくちゃ怖い。
ステファリーを睨みつけていた代表団の敵意が、自分に向けられたのだと思ったんだろう。
シズフさんに威圧を纏って睨まれたら、代表団も恐れ慄いちゃう。
「彼らの名前はわかりませんか」
「っ……」
「はぁ。まあ、これから覚えてください。さて、彼らが先帝にお預かりしていた鍵と箱を持ってきてくれましたよ」
「えっ……!?」
小箱は俺が両手で運べる大きさ。
しかし箱は鎖が巻かれており、三つの南京錠で固定されている。
手前に手錠をつけられたステファリーの前にしゃがみ、代表団を振り返ると頷かれた。
「俺の提案が通り、あなたにはセドルコ帝国を穏やかに終わらせる役目をお願いすることになりました。あなたに拒否権はありません。もし拒否するのであれば、代表団の提案を受け入れてもらいます。生き地獄をお望みであれば、この箱を開けて新たな皇帝となってください。拒否するのなら首を横に振っていただくだけでいいですよ」
考える時間は与えていた。
地下牢で、たっぷり。
生きることに執着していたし、皇帝一族の者として優遇されるのが当たり前だと思っているがもはや傀儡としてしか価値がない。
だから彼女には強制するし、それでも拒むのなら殺す。
俺はもう、男子校生ではなくこの世界の、ルオートニス王国という国の王太子だから。
「……や、やります。それが民のために、なるのなら」
絶望に満ちた表情だが、今までの薄っぺらい「民のために」という建前ではない。
生き延びるために生き地獄を選んだのだ。
自分が今まで振り翳してきた、『皇帝一族の者』としての、矜持を建前にして。
小さな差だが、決定的に違う。
保身と己の誇りのための最後の足掻き。
目に焼きつけておこう。
自分がいつ、こうなるかわからない。
こうならないように。
国が終わる時、民が一人でも多くいつもの生活のままでいられるように。
「では箱を開けて中身を確認してください。先代皇帝の正式な後継者への品です。エリステレーン伯爵たちは、見届け人としてこちらへ」
「失礼します」
代表団を俺の横へと並ばせ、ステファリーが箱を開けていくのを見守る。
最後の鎖を取り払い、最後の鍵で蓋を開く。
中に入っていたのは一枚の折り畳まれた紙。
魔法の痕跡があるな?
いや、紙に描かれているのは魔法陣!
「っ!」
ステファリーが紙を開くと、紙の上に一人の男が3Dのように半透明な姿で立ち上がる。
なにこの魔法。
そこに一人の人間が佇んでいるように、三メートルほどの大きさまで拡大していく。
端正な顔立ちだが、とても厳しい表情。
「お——お父様……!」
『我が名をセドルコ帝国第二十九代皇帝、メルドレア・セドルコ。どうやら我が子らは、我が命が尽きる前に我が跡目を継ぐことはなかったようだな』
ふるふると残念そうに左右に顔を振る。
え、すげーな、なんだこの魔法。
よく見ると小箱の中にでかい魔石が収まっている。
なるほど、小箱の素材が魔樹なのか。
魔石に自分の魔力を保存して、魔樹と紙の魔法陣で魔法が自動で発動する仕組みなのか。
賢いな!
魔法にかなり精通していないと、思いつかないよな。
実行するのにも、何回も実践したに違いない。
それにあの口ぶりだと、生存している間に箱を開けたパターンと死後に箱を開けたパターンの二つ収録してあったんじゃない?
すげー!
くっ、皇帝生きてるうちに話してみたかったな……!
『新たなる皇帝となる者——ふむ、この魔力はステファリーか。よかろう、ステファリー、そなたを新たな皇帝として認めよう。そなたが今どのような状況でどのような思想を持っておるのか、我には知ることはできない。願わくば、我が友イース・エリステレーンと理想を語り合う時を設けてくれ』
「エリステレーン……」
「我が祖父です。第一皇子ステゴリー殿下により、一方的な反逆罪で処刑されております」
チラリとエリステレーン伯爵を見ると、そう答えが返ってきた。
あー、エリステレーン伯爵が皇帝候補たちに恨みつらみが強かったのは身内を冤罪で処刑されていたからか。
この汚物を見下ろすような目たるや。
『ただ一つ、我からそなたに頼みがある。我が国はもはやかつての栄光の姿を失った。属国も結晶化した大地に呑まれ、そなたの兄弟たちにより我が意に寄り添うてくれた者たちは帝都を去った。この国は間もなく滅びるであろう』
「っ!? な、なにを、ち、父上!?」
『隣国ルオートニスの王子が新たな技術を開発したと耳にした。我が国はかの国へ幾度となく侵攻し、その賠償は踏み倒しておる。そなたには新たな皇帝として三つの道があると思え。一つは最後の皇帝として滅びをただ待つか。一つはルオートニスへ賠償を約束し手を取り合い、滅びを回避するか。もう一つはそなた自身の為政者としての力量にて、国を新たな形に建て直すか』
それを聞いて息を呑む。
この人、三年前に亡くなってるんだよな。
俺が石晶巨兵を他国に普及させ始めた頃に。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる