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18歳編
荒神
しおりを挟む「は…………え? りょ、領、主……?」
「領主。俺が卒業したらお前はハニュレオに返す。結晶化した大地エリア3とエリア2を治癒し、新国との国境を繋いだらそこをお前が治めること。今のお前ならよい領主として領地運営ができるだろう。辺境伯とまではいかないが、一度身に余る野心で身を滅ぼしたお前ならばこのアホ皇女の面倒を見られるだろう」
沈黙。
エドワードの顔色が、見る見る青ざめる。
「無理です、自分には! 荷が重すぎます!」
「うん……ちゃんと責任感とか、芽生えてる。これがなんの責任も感じないままなら頼まないよ」
「…………」
ラウト、エドワードを叩き直してくれてありがとう。
そういう意味でにこ、と笑いかけたがあまりの無表情っぷりに背筋が冷えた。
ラウトが見ているのはステファリー。
無責任極まりない教育のせいだと思うが、俺の決定にも納得がいってないのだろう。
普段淡い深緑色なのに、右目が電子模様の入った黄色、左目が金色に光っている。
もうそれだけで圧がすさまじい。
「ラ、ラウトさん……納得いかないのは伝わってくるんですが……俺としては殺すより生かして罪を償わせたいというか、一生こき使われてほしいと思ってるんですよね、死ぬより苦労を続けさせた生き地獄の方がつらいと思うというか」
と、俺が逃げ腰で説明し始めたので、レナもデュレオも「あ」とラウトのキレっぷりに気がついた。
「殺すべきだ。帝国復活を掲げる者は必ず現れるぞ」
「……っそれはわかっている。でも、その上でエドワードに頼むと決めた。これから父上にも。あとはもう一筆書かせる。セドルコ帝国の貴族たちにも」
「民の怒りをその身を以て思い知らせればいい。その上でしっかりと息の根を止めろ。民の目の前で処刑して、血の一滴も続いていないと見せしめるべきだ。禍根が残るぞ」
「うーーー。どっちにしろセラフィ第一皇女が宇宙に嫁いでいるのだろう? 血が残らないのはもう無理だよ」
宇宙は宇宙で地上人と子を作り、寿命問題が解決することを模索しているようだし。
正直ステファリーにすべての責任を丸投げして見捨てた第一皇女の方が、腹立たない?
俺は第一皇女の方がやり口嫌いだなぁ。
「か、勝手なことばかり言うな! 私はセドルコ帝国の皇族だぞ! ルオートニスごとき小国の王子が私の処遇を勝手に決めるなっ! しかも私にセドルコ帝国を終わらせさせるだと!? そんなことするわけないだろう! セドルコ帝国は永遠だ! 石晶巨兵を手に入れて、土地を取り戻した暁には世界を統一するのだ!」
「あ」
ばか、と言いかけた時にはもう遅い。
地下牢全体が結晶に覆われ、ステファリーの半身もまた、乳白色の結晶が包み込んだ。
おそらく俺が「殺さない」と言ったから、顔半分残してくれたんだと思うけれど——この結晶の仕方はデュレオを拘束した時のような結晶ではなく、肉が結晶化したガチの結晶病。
「ステファリー、迂闊に動くな。動けば半身が砕けて死ぬぞ。ラウト、殺してはダメだ。罪は償わせなければならない」
「…………」
「ラウト、わたしもヒューバート様のお考えが良いと思います。ステファリー様を治してください。でなくばわたしが治しますよ」
レナも名前を呼ぶが怒りが収まりきっていない。
ステファリー、マジ余計なことを。
多分マジでラウトを——というか、ルオートニス守護神の神々を俺が捏造した架空の存在だと思っていたんだろうなぁ。
「ラウト、この結晶はダメだ。拘束する方が助かる。変質してくれないか?」
「ディアス!?」
壁から顔を出し、反対側にいたディアスがなんか無茶苦茶言い出した。
止めるとかそういうのではなく、拘束する方の結晶にしてほしいらしい。
な、なんで?
「……殺した方が早い」
「ん? ああ、皇族の娘の捕虜か。お前が嫌いそうなことを叫んでいたな。だがまあ、今殺すこともなかろう。意にそぐわぬのなら国ごと呑めばいい。それよりもギア・マレディツィオーネのパイロットまで結晶化してしまった。せっかく血液サンプルを採ろうとしたのにこれでは採れない。暴れられても困るから、拘束用に変質してくれ」
マイペースぶっちぎりなの?
「それに、ヒューバートの考えには俺も賛成だ。その娘を皇帝としてセドルコ帝国を終わらせれば、世界から戦争が完全に消えることとなる。ハニュレオの属国となり、ルオートニスからも支援ができるようになれば口減しに結晶化した大地に捨てられる者たちも減るだろう。生かして利用した方が利点が多いよ」
「…………」
その瞬間、ラウトの瞳が淡い深緑に戻った。
そして、俺も初めて見る表情を浮かべる。
小さな唇が愕然としたかのような声色で「戦争が、消える」と呟く。
「ああ、まあ、確かにセドルコ帝国がなくなれば宇宙も大義名分はなくなるよねぇ」
「ミドレはルオートニスに吸収されるし、ハニュレオはヒューバート信者だし、西方諸国の戦争も終わらせたし……そうだね。セドルコ帝国がなくなれば実質、世界初の『戦争がない時代』の開幕だ」
デュレオとナルミさんが「ほお」と珍しそうに語るから、俺も目が覚めたような気分になる。
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