318 / 385
18歳編
荒神
しおりを挟む「は…………え? りょ、領、主……?」
「領主。俺が卒業したらお前はハニュレオに返す。結晶化した大地エリア3とエリア2を治癒し、新国との国境を繋いだらそこをお前が治めること。今のお前ならよい領主として領地運営ができるだろう。辺境伯とまではいかないが、一度身に余る野心で身を滅ぼしたお前ならばこのアホ皇女の面倒を見られるだろう」
沈黙。
エドワードの顔色が、見る見る青ざめる。
「無理です、自分には! 荷が重すぎます!」
「うん……ちゃんと責任感とか、芽生えてる。これがなんの責任も感じないままなら頼まないよ」
「…………」
ラウト、エドワードを叩き直してくれてありがとう。
そういう意味でにこ、と笑いかけたがあまりの無表情っぷりに背筋が冷えた。
ラウトが見ているのはステファリー。
無責任極まりない教育のせいだと思うが、俺の決定にも納得がいってないのだろう。
普段淡い深緑色なのに、右目が電子模様の入った黄色、左目が金色に光っている。
もうそれだけで圧がすさまじい。
「ラ、ラウトさん……納得いかないのは伝わってくるんですが……俺としては殺すより生かして罪を償わせたいというか、一生こき使われてほしいと思ってるんですよね、死ぬより苦労を続けさせた生き地獄の方がつらいと思うというか」
と、俺が逃げ腰で説明し始めたので、レナもデュレオも「あ」とラウトのキレっぷりに気がついた。
「殺すべきだ。帝国復活を掲げる者は必ず現れるぞ」
「……っそれはわかっている。でも、その上でエドワードに頼むと決めた。これから父上にも。あとはもう一筆書かせる。セドルコ帝国の貴族たちにも」
「民の怒りをその身を以て思い知らせればいい。その上でしっかりと息の根を止めろ。民の目の前で処刑して、血の一滴も続いていないと見せしめるべきだ。禍根が残るぞ」
「うーーー。どっちにしろセラフィ第一皇女が宇宙に嫁いでいるのだろう? 血が残らないのはもう無理だよ」
宇宙は宇宙で地上人と子を作り、寿命問題が解決することを模索しているようだし。
正直ステファリーにすべての責任を丸投げして見捨てた第一皇女の方が、腹立たない?
俺は第一皇女の方がやり口嫌いだなぁ。
「か、勝手なことばかり言うな! 私はセドルコ帝国の皇族だぞ! ルオートニスごとき小国の王子が私の処遇を勝手に決めるなっ! しかも私にセドルコ帝国を終わらせさせるだと!? そんなことするわけないだろう! セドルコ帝国は永遠だ! 石晶巨兵を手に入れて、土地を取り戻した暁には世界を統一するのだ!」
「あ」
ばか、と言いかけた時にはもう遅い。
地下牢全体が結晶に覆われ、ステファリーの半身もまた、乳白色の結晶が包み込んだ。
おそらく俺が「殺さない」と言ったから、顔半分残してくれたんだと思うけれど——この結晶の仕方はデュレオを拘束した時のような結晶ではなく、肉が結晶化したガチの結晶病。
「ステファリー、迂闊に動くな。動けば半身が砕けて死ぬぞ。ラウト、殺してはダメだ。罪は償わせなければならない」
「…………」
「ラウト、わたしもヒューバート様のお考えが良いと思います。ステファリー様を治してください。でなくばわたしが治しますよ」
レナも名前を呼ぶが怒りが収まりきっていない。
ステファリー、マジ余計なことを。
多分マジでラウトを——というか、ルオートニス守護神の神々を俺が捏造した架空の存在だと思っていたんだろうなぁ。
「ラウト、この結晶はダメだ。拘束する方が助かる。変質してくれないか?」
「ディアス!?」
壁から顔を出し、反対側にいたディアスがなんか無茶苦茶言い出した。
止めるとかそういうのではなく、拘束する方の結晶にしてほしいらしい。
な、なんで?
「……殺した方が早い」
「ん? ああ、皇族の娘の捕虜か。お前が嫌いそうなことを叫んでいたな。だがまあ、今殺すこともなかろう。意にそぐわぬのなら国ごと呑めばいい。それよりもギア・マレディツィオーネのパイロットまで結晶化してしまった。せっかく血液サンプルを採ろうとしたのにこれでは採れない。暴れられても困るから、拘束用に変質してくれ」
マイペースぶっちぎりなの?
「それに、ヒューバートの考えには俺も賛成だ。その娘を皇帝としてセドルコ帝国を終わらせれば、世界から戦争が完全に消えることとなる。ハニュレオの属国となり、ルオートニスからも支援ができるようになれば口減しに結晶化した大地に捨てられる者たちも減るだろう。生かして利用した方が利点が多いよ」
「…………」
その瞬間、ラウトの瞳が淡い深緑に戻った。
そして、俺も初めて見る表情を浮かべる。
小さな唇が愕然としたかのような声色で「戦争が、消える」と呟く。
「ああ、まあ、確かにセドルコ帝国がなくなれば宇宙も大義名分はなくなるよねぇ」
「ミドレはルオートニスに吸収されるし、ハニュレオはヒューバート信者だし、西方諸国の戦争も終わらせたし……そうだね。セドルコ帝国がなくなれば実質、世界初の『戦争がない時代』の開幕だ」
デュレオとナルミさんが「ほお」と珍しそうに語るから、俺も目が覚めたような気分になる。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる