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18歳編
帝国の未来(4)
しおりを挟む皇帝候補として育てられ、本人も皇帝となるつもりだったようだし当然、その地位に伴う“責任”を理解しているよな?
そういうのをオブラートに包むことなく率直に伝えると、『くっ』という詰まった声がした。
ギア・マレディツィオーネのパイロットにも、できれば死んでほしくはない。
「シズフさん、転移魔法は使え、ますか?」
『ディアス・ロスに教わっている。使うか?』
「そうですね、ギア・マレディツィオーネを一刻も早くファントムに届けたいです。ファントム、エアーフリートに戻ってくれません?」
シズフさんと会話をしながら、別回線で通信を開く。
ファントムの乗っているだろうギア・イニーツィオは、俺と反対側に行っている。
ここにいたのがギア・マレディツィオーネと思うと、反対側にいる調査用ドローンを管理していたのも別のギア・マレディツィオーネの可能性は高い。
上空を見上げると、殺戮兵器はなくなっている。
調査用ドローンの破壊もさることながら、超広範囲をあの火力で一掃したのを宇宙から見たらそりゃあ恐怖だろうなぁ。
『なんだ、そっちも終わったのか?』
「シズフさんと一騎打ちをご所望になったんですよね、ギア・マレディツィオーネのパイロットが」
『馬鹿じゃん。いや、一周回って天才かもな?』
それはそうかもしれない。ははは。
「なので、シズフさんに[転移]でエアーフリートに送ってもらおうと思うんですけど、どうでしょう?」
『了解した。こちらも終わってる。シズフには引き続き上空から結界の確認を行ってもらえ。取り零しや落下物が増えているとも限らんからな』
「あ、そうですね。了解です。ではそろそろ“連結”を解除しましょうか」
『警戒は怠るべきじゃねぇよ。王都に帰還するまでは気を抜くな』
「は、はい。わかりました」
世界と戦ってきた人は警戒心も違うなぁ。
と、思いながらシズフさんに頷くと、一瞬でギア・マレディツィオーネは消えてしまう。
さらにシズフさんにはファントムに言われた通りに、ルオートニス全土の安全確認をお願いした。
神様にやらせることではない気もするけど、聖女たちの結界は感知機能などないのだから仕方ない。
目視による確認が一番確実だしね。
「さて、では俺たちも一度帰りましょう。セドルコ帝国の今後もちゃんと話し合って考えなければ」
『っ……! お、お前が、私に下れば、セドルコ帝国は、私が正しい国にしてみせる! 私はこの世界の支配者たる、セドルコ帝国の皇女。次期皇帝なのだから! お前は——ルオートニスは、我が国と皇族に従うべきなのに!』
「なに言ってんの? お前」
徒歩でルオートニスへ歩き出す。
途端に叫び出したステファリー皇女に、思わず振り返る。
あれかな、帝国至上主義的な教育を受けてきたのかな?
「たとえそうだと教えられてきたからなに? 為政者となるために育てられたのなら、別の側面もちゃんと見なきゃダメじゃない? 皇帝になっていれば、滅ぶ国の責任を取らなければならなかったのにあなた方は候補という立場でそれすら見ないふりをしている。今セドルコ帝国は首都を失い、バラバラになっている状況。生きているのなら、なぜ代理政府を取りまとめる皇帝になり、今回の責任を取らないの? あなたは自分が言ってることに、なんの違和感もないの? ヤバくない? 心の底から、あなたの国の民に同情する」
ハニュレオのエドワードを思い出すねぇ。
あいつとはこう、規模とやらかし度が違うけど。
俺は——父上はルオートニス最後の王になる覚悟を持っていた。
俺も同じ覚悟を持たねばと育った。
セドルコ帝国の皇帝候補たちはそうではなかったのだろう。
そりゃ、皇帝選が拗れるわけだ。
皆がなりたがってる割に、それに伴うリスクを押し付けあっていたに違いない。
周りの国はすべて従うべきとされてきたが、その支配領域も結晶化した大地に呑み込まれ、残る領土は自国のものだけ。
とうの昔に権威は地に落ちているのに、それを認めず次期皇帝にも『終わらせ方』を教えることはなかった。
同情する。
セドルコ帝国の民は哀れだ。
だが、それならばこれからは変わってもらわねばならない。
未来は明るくないねぇ。
『おま、お前が私に従えば、すべては元通りになる!』
「ならないよ。なるわけがない。ルオートニス王家の頭上には神がいる。その神々は別にうちの国の味方ではない。結晶化した大地を生み出した神は荒神だ。千年前、世界はその荒神の怒りに触れたから結晶病で土地を奪われたんだ。今回帝都に衛星兵器を落としたのもその神だよ。直接話してみるといい。あなたが帝国の皇帝となるのなら、きっと話くらいはしてもらえる。あの神様は——為政者の責任逃れをとにかく嫌うから死なないように気をつけてね」
責任をとってもらわねばならないから、殺しはしないと思うけれども。
というか、殺させるわけにはいかない。
せっかくの交渉材料だ。
死で償うのではなく、生きて国のために後始末を背負ってもらわねば。
ルオートニスが帝国にそこまでしてやる義理はない。
自分たちのケツくらい自分で拭け。
赤ちゃんかよ。
「あとは他の皇帝候補の生存か」
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