上 下
313 / 385
18歳編

帝国の未来(4)

しおりを挟む
 
 皇帝候補として育てられ、本人も皇帝となるつもりだったようだし当然、その地位に伴う“責任”を理解しているよな?
 そういうのをオブラートに包むことなく率直に伝えると、『くっ』という詰まった声がした。
 ギア・マレディツィオーネのパイロットにも、できれば死んでほしくはない。

「シズフさん、転移魔法は使え、ますか?」
『ディアス・ロスに教わっている。使うか?』
「そうですね、ギア・マレディツィオーネを一刻も早くファントムに届けたいです。ファントム、エアーフリートに戻ってくれません?」

 シズフさんと会話をしながら、別回線で通信を開く。
 ファントムの乗っているだろうギア・イニーツィオは、俺と反対側に行っている。
 ここにいたのがギア・マレディツィオーネと思うと、反対側にいる調査用ドローンを管理していたのも別のギア・マレディツィオーネの可能性は高い。
 上空を見上げると、殺戮兵器はなくなっている。
 調査用ドローンの破壊もさることながら、超広範囲をあの火力で一掃したのを宇宙から見たらそりゃあ恐怖だろうなぁ。

『なんだ、そっちも終わったのか?』
「シズフさんと一騎打ちをご所望になったんですよね、ギア・マレディツィオーネのパイロットが」
『馬鹿じゃん。いや、一周回って天才かもな?』

 それはそうかもしれない。ははは。

「なので、シズフさんに[転移]でエアーフリートに送ってもらおうと思うんですけど、どうでしょう?」
『了解した。こちらも終わってる。シズフには引き続き上空から結界の確認を行ってもらえ。取り零しや落下物が増えているとも限らんからな』
「あ、そうですね。了解です。ではそろそろ“連結”を解除しましょうか」
『警戒は怠るべきじゃねぇよ。王都に帰還するまでは気を抜くな』
「は、はい。わかりました」

 世界と戦ってきた人は警戒心も違うなぁ。
 と、思いながらシズフさんに頷くと、一瞬でギア・マレディツィオーネは消えてしまう。
 さらにシズフさんにはファントムに言われた通りに、ルオートニス全土の安全確認をお願いした。
 神様にやらせることではない気もするけど、聖女たちの結界は感知機能などないのだから仕方ない。
 目視による確認が一番確実だしね。

「さて、では俺たちも一度帰りましょう。セドルコ帝国の今後もちゃんと話し合って考えなければ」
『っ……! お、お前が、私に下れば、セドルコ帝国は、私が正しい国にしてみせる! 私はこの世界の支配者たる、セドルコ帝国の皇女。次期皇帝なのだから! お前は——ルオートニスは、我が国と皇族に従うべきなのに!』
「なに言ってんの? お前」

 徒歩でルオートニスへ歩き出す。
 途端に叫び出したステファリー皇女に、思わず振り返る。
 あれかな、帝国至上主義的な教育を受けてきたのかな?

「たとえそうだと教えられてきたからなに? 為政者となるために育てられたのなら、別の側面もちゃんと見なきゃダメじゃない? 皇帝になっていれば、滅ぶ国の責任を取らなければならなかったのにあなた方は候補という立場でそれすら見ないふりをしている。今セドルコ帝国は首都を失い、バラバラになっている状況。生きているのなら、なぜ代理政府を取りまとめる皇帝になり、今回の責任を取らないの? あなたは自分が言ってることに、なんの違和感もないの? ヤバくない? 心の底から、あなたの国の民に同情する」

 ハニュレオのエドワードを思い出すねぇ。
 あいつとはこう、規模とやらかし度が違うけど。
 俺は——父上はルオートニス最後の王になる覚悟を持っていた。
 俺も同じ覚悟を持たねばと育った。
 セドルコ帝国の皇帝候補たちはそうではなかったのだろう。
 そりゃ、皇帝選が拗れるわけだ。
 皆がなりたがってる割に、それに伴うリスクを押し付けあっていたに違いない。
 周りの国はすべて従うべきとされてきたが、その支配領域も結晶化した大地クリステルエリアに呑み込まれ、残る領土は自国のものだけ。
 とうの昔に権威は地に落ちているのに、それを認めず次期皇帝にも『終わらせ方』を教えることはなかった。
 同情する。
 セドルコ帝国の民は哀れだ。
 だが、それならばこれからは変わってもらわねばならない。
 未来は明るくないねぇ。

『おま、お前が私に従えば、すべては元通りになる!』
「ならないよ。なるわけがない。ルオートニス王家の頭上には神がいる。その神々は別にうちの国の味方ではない。結晶化した大地クリステルエリアを生み出した神は荒神だ。千年前、世界はその荒神の怒りに触れたから結晶病で土地を奪われたんだ。今回帝都に衛星兵器を落としたのもその神だよ。直接話してみるといい。あなたが帝国の皇帝となるのなら、きっと話くらいはしてもらえる。あの神様は——為政者の責任逃れをとにかく嫌うから死なないように気をつけてね」

 責任をとってもらわねばならないから、殺しはしないと思うけれども。
 というか、殺させるわけにはいかない。
 せっかくの交渉材料だ。
 死で償うのではなく、生きて国のために後始末を背負ってもらわねば。
 ルオートニスが帝国にそこまでしてやる義理はない。
 自分たちのケツくらい自分で拭け。
 赤ちゃんかよ。

「あとは他の皇帝候補の生存か」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ハミット 不死身の仙人

マーク・キシロ
SF
どこかの辺境地に不死身の仙人が住んでいるという。 誰よりも美しく最強で、彼に会うと誰もが魅了されてしまうという仙人。 世紀末と言われた戦後の世界。 何故不死身になったのか、様々なミュータントの出現によって彼を巡る物語や壮絶な戦いが起き始める。 母親が亡くなり、ひとりになった少女は遺言を手掛かりに、その人に会いに行かねばならない。 出会い編 青春編 ハンター編 解明編 *明確な国名などはなく、近未来の擬似世界です。 *過激な表現もあるので、苦手な方はご注意下さい。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...