上 下
302 / 385
18歳編

対策会議(5)

しおりを挟む
 
 実際ディアスが作り、トニスのおっさんたちがかつて住んでいた[死者の村]は、各国が口減らしで結晶化した大地クリステルエリアに捨てた子どもたちを集めて作られたという。
 ミドレのように食べ物を作ることもできなくなった土地は、王侯貴族でさえ飢えていた。
 コルテレとソーフトレスのようにどんどん狭まる大地に、人々は生きるスペースを奪い合う。
 ミレルダ嬢の言う通り、これから土地は増えていく。
 大臣たちには「クレアに喰われた」という意味がわからないだろうけれど、土地が増えればエネルギーが生産される機会も増えるかもしれない。
 いずれ必ず、足りなくなる。

 “エネルギーを生み出す”という概念を維持するための生命エネルギー。

 デュレオの言う通り、宇宙のコロニーを地上に落としてクレアとギアンに“喰わせれば”時間は稼げるだろうけど、俺はそれをしたくない。
 三号機に宿っていたアレン・ザドクリフには、まだ会ったことはないけれど、彼は『犠牲を出さないために』自分の人格データを三号機に遺した。
 俺も同じ意見だし、それならやはりアレンさんに話を聞いてみるのもありだ。
 ジェラルドにあとで相談しよう。

「——未来的、ね。そう言われてしまうと納得するしかないな。いいでしょう。ヒューバート、では——正式にセドルコ帝国に和平を申し込みなさい」
「え」

 俺の意思を聞いて、ナルミさんが珍しく真顔で提案してきた。
 今回の件でセドルコ帝国は宇宙の戦力を借りているのがはっきりしたし、宇宙側も損失が大きすぎる。
 二度も“殲滅”を食らったのだから、当然だ。
 宇宙の全戦力がどれほどのものかわからないし、今までの攻撃が屁でもないにしても殲滅二回は字面が痛手だろう。
 宣戦布告して、戦争を仕掛けてきた側がこのようにフルボッコでやり返され、首都が壊滅とくれば戦意はガチボコに削り取った状態。
 少なくとも有力貴族も残っておらず、現在のセドルコ帝国はたとえ皇帝候補が全員生き延びていたとしても治世が回る状態ではない。
 また、その治世も回復するのには時間がかかる。
 辺境貴族が仮の首都を選定して、喧嘩を売ったルオートニスへの対応を検討するにしても、数日はかかるだろう。
 こちらはその間に和平を申し込み、戦争の責任と今回の帝都陥落の責任を、宣戦布告に同意したすべての皇帝候補たちに取らせるって寸法である。
 皇帝候補たちは生きていても、国の中で無傷では済まない。済まされない。
 帝都に住む国民の命もほぼ奪われた。
 貴族たちも黙っていない。
 彼らに従えば、次は自分たちが『神』の怒りに触れるのだ。
 皇帝候補たちは自ら皇帝への道を閉ざしたことになる。
 平和を申し入れ、その責任を皇帝候補たちに追及させるのが俺たち“被害国”の仕事ってこと。

「……ちなみにさ、皇帝候補って五人いたでしょ? 全員死亡だった場合は……」
「その時はセドルコ帝国で、一番爵位が高い者にまとめて責任を取ってもらう。皇帝候補たちの所在は確認できればいいけれど、実質どうでもいい。生きていても死んでいるようなものだからね。こんなことがあったのに、まだ自分が国のトップになれると思っているのなら、それは国民が許さないと思いますよ。たとえ貴族が旗印に掲げようとしても、内戦待ったなしでしょうが、この状況下で内戦する力もないはず。少なくとも国民にはそっぽをむかれます。そこにルオートニスが国力で手を差し伸べれば、武力など使わず瓦解させるのは容易い。あとはこちらにほどよくまだ力のある貴族を取り込み、優しくお世話をしてあげればセドルコ帝国はなにもせず消えます」

 にこり。
 俺の質問に数倍のセリフ量で返ってきた今後のご予定。
 セドルコ帝国終了のお知らせがエグすぎる。
 頭を抱えつつ、ある意味平和的でいいのかなぁ。

「……では、医者と医療品、食糧物資をかき集めよう。セドルコ帝国にはルオートニスの一部になってもらうとして、皇帝候補たちの生死と所在もできれば調べてほしい。拘束はさせてもらうが、殺す必要はない。彼らの処遇はセドルコ帝国の民意で決めてもらう。セドルコ帝国で今一番爵位の高い者が、代理政権を立てたのちにルオートニスから和平を申し込む。宇宙の者たちも含めて話し合いの場を設けたい、と。それでよいな? ヒューバート」
「はい、そのように」
「うむ。あとはこちらで上手くやろう。お前は世界の命運を考えなさい。話し合いの場が整ったら呼ぶ。まずは目の前のレナとの結婚式に集中しなさい」
「っ、あ、ありがとうございます、父上」

 え? 父上、神?
 ルオートニス守護神に父上を入れるべきでは?
 祀って然るべきだと思わん?
 本当にかっこいいよぉ!
 俺やっぱり父上みたいな王になりたいー!
 ……『救国聖女は浮気王子に捨てられる~私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした~』の漫画では、俺の父上と母上は結晶病に侵されて死んでいたが……ラウトが結晶病の発症を抑えてくれるようになり、父上も母上も健在。
 多分今後症状が出てもレナや他の聖女候補が治してくれる。
 俺は俺だけでなく、俺の父上と母上の死亡フラグもへし折れたんだ……!
 それが一番、嬉しいかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...