295 / 385
18歳編
番外編 戦神(1)
しおりを挟む「ランディか」
『はい。同行いたしますよう、父から仰せつかりました。大通りを地尖が駆ければ殿下もお気づきになるでしょう』
「そうだな」
空中を五号機で飛びながら、地上を駆ける地尖を見下ろす。
通信を入れるとやはりランディが父ルディエルの命に応じて、地尖を駆りついてきていた。
それよりもラウトが気になったのは、地尖の走行速度が上がっている方だ。
腹が立つが、やはりファントムが手を加えただけはある。
動きが滑らかになり、全体的に無駄な動きがなくなった。
ともすれば本物の獣の動きに近いだろう。
「戦闘は俺に任せろ。記録は撮られても問題ない。結界への攻撃への防衛という形にはなるが、帝国側の要求を思えばルオートニス王国の感じる脅威を排除する正当性の主張は通る」
『なるほど。わかりました』
口許が弧に歪む。
見えてきた国境は、結界を砦の上の少女たちが両手を掲げて強化し続けている。
そうしなければすぐに破壊されてしまうだろう。
ビーム兵器やミサイルが、絶えず浴びせられているのだ。
広範囲に展開している軍は、いくつかの師団が展開している。
その中に、一機——データで見た機体があった。
前回襲ってきた宇宙戦艦の旗艦に五機のギア・フィーネを模した機体。
そのうちの、ラウトの五号機を模した機体が、前線にいる。
ブレイクナイトゼロの右側のメインカメラがラウトの深緑の瞳の色に替わり、ライト右目が金に輝く。
一瞬でセドルコ帝国側からの攻撃が停止する。
機械で制御されるあらゆるものが影響を受ける、ギア・フィーネのギア3以上で使用できる機能『ハッキング』。
任意の対象機械物に影響を与えて、ギア4ではその支配権すら奪う。
宇宙の者たちは前回ルオートニスを襲った際、その恐怖をしっかりと叩き込まれていたはずだ。
それなのにも関わらず、またぞろ大軍で押し寄せてきて、馬鹿なのか?と聞きたくなる。
魔法的な存在である石晶巨兵も、サポートAIが機能停止に陥って、操縦者の操縦技術に依存する形になるのだ。
しかし逆を言えばそれだけで済む。
対する宇宙の技術を借りたあの軍は、そうはいかない。
すべてがラウトの支配下に置かれて、ともすれば同じ轍を踏むことになるだろう。
愚かと言わず、なんと言うのか。
『おのれ! 我が名はトリア・メッシュ! いざ尋常に勝負!』
「ほう、活きがいいな」
ギア・マレディツィオーネといったか、ギア・フィーネを模した新型機。
宇宙で造られた、現代の科学の集大成。
それがギア・フィーネと同等の力を持つのであれば、新たなギア・フィーネを造り出す必要はないだろう。
せめてファントムが拵えたギア・イニーツィオよりもギア・フィーネに近くあれ。
そう思いながらも、久方ぶりの生贄に血が踊る。
ランスを引き抜き、盾を構えて腰を落とす。
突進してきたギア・マレディツィオーネもまた、同じくランスと盾を持っている。
よほど似せて造られたのだろう、色合いまで同じだった。
さらに突進しながらも出力が上昇し続けている。
なるほど、確かに“ギア”はあるようだ。
結界を飛び出したブレイクナイトゼロが、瞬間加速する。
その加速に、ギア・マレディツィオーネが一瞬たじろいだ。
手に取るようにギア・マレディツィオーネのパイロットの様子がわかる。
これはまだ、子どもだ。
しかも、実践経験が乏しい。
怯む様子もなく突っ込んでくるブレイクナイトゼロに、今更ながらようやくその脅威度を理解したのだろう。
「遅い遅い遅い! はははははは!」
『ぐうううっ!』
盾を構えて軌道をずらしたことに安堵した敵のパイロット。
その程度で歴戦の登録者が止まるわけがない。
ずらされたランスの先端を地面に線を描くよう突き刺したまま、機体の軸を捻って盾の先端で頭部を殴る。
予想ができなかったのか、よろけるギア・マレディツィオーネ。
そのままさらに一回転して、次はランスが脇腹部を貫通した。
『っ!』
「そこにコクピットがあったら死んでいるなあ?」
そう茶化し、吹き飛ばす。
出力は上がったようだが、ギア・フィーネの膂力の方がまだ強い。
性能的には大和の瑪瑙クラスと聞いていたが、パイロットの腕が未熟すぎる。
畳み掛けるように切りつけ、突きを繰り返す。
魔法を混ぜる必要もなさそうだ。
盾で必死にブレイクナイトゼロのランスを防いでいるが、防戦一方。
「どうした! その機体はギア・フィーネの模造品だろう? それでも乗る者はそれなりに実力を認められているのではないのか? つまらん! 戦う気がないのならもう死ね!」
『な、舐めるな! っ!?』
盾から顔を僅かに覗かせた、その瞬間、前方にいたはずの巨体が消えた。
否、消えたように見えただろう。
身をわずかに屈め、ギア・マレディツィオーネが盾を持つ左側に回り込んだだけだ。
センサーで捉えていれば、視界情報などに頼り切ることもないのに怒涛の攻撃に気を取られて、トリアというパイロットはそれを怠った。
訓練はさぞ、積んできたのだろう。
けれどここでも実戦の経験差が如実に現れた。
訓練をきちんと受けていたからこそ、生じる隙。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる